447、ホカゲ(ルーク)の焦り
期待、されてない。 期待が薄い。 あ、当てにもされてない!!
もう、もう、私なんて
シビル(羊)に紛れて、牧場でメエッて言ってる方がマシだ。
眷族探せと言われて命までかけたのに、失敗してしまった。
火の神官が!火の魔導を使って!焼け死にそうになるとか!!
……冗談でも笑えない。
恥ずかしい!恥ずかしい!
もう駄目だ、消えて無くなりたい。
床に手をつき、顔を上げられなかった。
『 ど、どうされたのです? 』
「もう消えます」
『 あれ?眷族は見つかったのですか? 』
その言葉に、ガバッと床に伏せて手で顔を覆う。
もう涙しか出ない。この顔は泣くと鼻が詰まって変な声が出た。
「 見”づがらないのでず〜〜。
あまりに巧妙な封印のされ方をしていまず。
何か大きな力に覆われていて、あの部屋にあると言うことはわかるのに、部屋に入るとうやむやにずるのでず」
ふうんと、リリスが部屋の中を見る。
『 この部屋は、どこか違う場所を模していますね? 』
驚いて、ルークが顔を上げた。
ぶびぶびと上を向いて鼻水をすする。
「おわかりなのですね?さすが、わ……我が、巫子」
『 もちろんですとも、もちろん。あなたの術は完璧です、私のホカゲ。
陣の失敗は些細なこと、ああ言う物は、失敗を重ねて作り上げるのです。
私は陣を作ったことがないので、ホカゲの探究心には頭が下がります。
それよりも、この魔導は素晴らしい。完璧です。
この場の空気は、覚えがあります。こちらに、 』
奥の壁際の中央にある、ひときわ大きなロウソクを指す。
弱体化した主に反して、その炎は煌々と部屋を満たしていた。
『 こちらにあるのは、玉座ですね? 』
ルークが大きく目を見開き、何度もうなずいた。
「そうです!そうですとも。これは、謁見の間を表しています。
その場で術を展開出来ないので、場をそのままこの部屋に模写したのです。
術中は、陣の中にいればそこは謁見の間にいるのと同じ。
だから私は私の中の火打ち石に聞きました。謁見の間のどこに封印されているのかと。
ですが、私の火打ち石では完全燃焼する事無く、ぬるい炎では眷族のありかもわからず、失敗の反動をまともに受けてしまいました。お恥ずかしい」
うつむくと、ルークの手にリリスが手を重ねる。
『 私の為に、命をかけて下さったのですね?
ありがとう、私のホカゲ 』
ポウッと、ルークの頬が赤くなる。
感動して、またポロポロ涙がこぼれた。
「これまでの無礼お許し下さい。
私は災厄の時に小さな子供だったので、子供のまま眠りについていました。
ですがあなた様がお生まれになった後、1人眠りから目覚めたのです。
目覚めたとき、火の指輪のありかを探せと精霊王から使命を受けて、今に至ります。
私自身、あなた様には至りませんが辛いこともありました、ですからあなた様のご苦労は見ていて辛うございました。
でも、心を鬼にして目をそらしていたのでございます」
『 大丈夫です、私も完全には至りませんが、覚醒した今ならわかります。
共に苦労した身、どうぞこれからよろしゅう。
で、謁見の間という事はわかったのですね? 』
「はい、確認は取っております。
1度、恐らく巫子の力が反響してだと思いますが、神槌の音を聞きました。
確かに、謁見の間からだったのです。
ただ、そこを探すには至らず。
王のいない今ならと思ったのですが、部屋に入るともやがかかり、顔無しの魔導師が邪魔をします」
『 顔無し?!ああ、なんて事でしょう。とうとうここでも出たのですね 』
「ご存じなのですか?」
『 ええ、レナントへの道中で襲ってきたのは彼らでした。
術の詠唱も無く、直接魔導を引き出すのです。
だからこちらは応戦の時間的な余裕もありません。そしてその力は破壊力で凄まじい物でした。
でも、 それがそのまま来ているとは考えにくい。
セレス様に大元の魔導師は追い払われたと聞きます 』
「隣国のリューズという魔導師ですね。
行方は知れませんが、この城に入り込まれた可能性はあります。
ニードの結界には1つ欠点があるのです。
それに、 1人、気になる者の存在があります。が、その者の動きは今のところありません。
まだ16、7に見える美しい少年で、真っ黒な装いの下僕といつも一緒にひなたぼっこです。
今は無視して良い存在かと」
んーとリリスが考える。
地下の部屋で右を見て目を閉じ、なぜかフフッと笑った。
『 わかりました。では行ってみましょうか、その謁見の間へ 』
「ええっ、今でございますか?」
『 んー、そうなりますね。やはり、いや、でしょうか? 』
スウッと、リリスが顔を近づけ、圧をかけてきた。
ポウッとルークのシビルの顔が赤くなる。
さすが赤の火の巫子、シビル並みの猛進ぶり。
おおお、これは至福、今まで嫌な顔するのがほんと辛かった。
これでイヤって言えるわけ無い、2人で行けるなんて至福の極み!
「私も覚悟は出来ておりますので、喜んで!!
ただし、危険ですので、絶対に御尊体を場に呼ぶことなどおやめ下さいね?」
フンと鼻息荒く杖を握る手に力がこもる。
が、リリスは気がついたように部屋を見回すと、何だか力を込めて下僕である自分に向けて大きく頭を下げた。
『 ええ、もちろん!よろしくお願いしますね!
危険が迫ったら身を挺してお守りしますから、ご安心下さい!ルーク様!
この部屋!本がいっぱいありますね!凄い!凄い!ちょっとお待ちくださいね! 』
はあっ??!!なんで?ルークに戻ってる?!
思わず、ビックリしてメエッと言いそうだった!
赤様は、全然気がついてない。何だか元気にくるんと回って、部屋の書物などをかじりついて見ておられる。
ここには魔導に影響しない本ばかりを置いている。魔導書の雑学的本だ。
本は高価な物だが、旅するたびに必死でかき集めた、私のコレクションでもある。
ど、どうしよう。
どうすれば。
「あ、あの、私のことは、呼び捨てで良いのですが、あと、私はあなた様の下僕ですので、お守りいただく必要は……」
『 はい!よろしくお願いしますね!頑張ります!
あ!! ルーク様、これ、この書物あとでお借りしても良いでしょうか?
これとこちらの本も!こっちも!あっと、これも見たことありません! 』
「はあ、どうぞ。喜んで」
『 本当ですか?!嬉しゅうございます! 』
あ、駄目だ、赤様、キラッキラのお顔で、すっかり魔導師に戻っておられる。
あー、うん、お可愛らしい。
のだが、ここは心を鬼にして!
本棚に夢中のリリスにそうっと近づく。
スッと揉み手で下からのぞき込んだ。
「あの〜、行く前に、出来ますれば、私にも儀礼を〜」
『 はい? 』
気がついていただけない!!
2度は言いにくい!言いにくい!
言いにくいんだあっ!!
ニッコリ首を傾げるリリスに、汗をダラダラ流して、シビル(羊)の顔で目を細めて手もみする。
たとえ火打ち石を持っていても、巫子の洗礼が無いと半分も力が出せない。
ここで失敗を繰り返す事は出来なかった。




