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446、命がけの捜索

ルークが魔導師の塔に戻り、地下の結界部屋の中でテーブルを避けて部屋の四方にロウソクを立て、杖で術を発動させながら床に魔導陣を書いて行く。

心が揺れる、陣の文字が時々かすむ。


ああ、だめだ。

心にこの思いを秘めていると、陣を完成させられない。


大きく深呼吸して、言葉で心の中を吐きだした。


「私は無能だ、だが、無力では無い。

他の神官たちは洗礼を受けたのか、力の増幅を感じる。

だが私は、ああ、私は、1人取り残されてしまった。

私は、私は、もう火の者では無い。

だが、だが、ホカゲという名を失っても、この胸に秘める火打ち石にはまだ見捨てられていない。

ルークよ、ルークよ、私よ、ホカゲだった者よ、これが、最後だ。

最後のお勤めなのだ、頑張れ、頑張れ。」


ポタリ、ポタリと涙が床に落ちる。

その顔は、赤い線がまだらに模様が浮き出て変貌して行く。

金髪が真っ白に変わり、その髪がザワザワとたてがみのように増え、首まで覆って頭には耳の上に羊のような角が伸びて行った。

まるで、顔はまだら模様のシビルと人間を足したような顔だ。

顔を上げて部屋を見回すその目は、瞳孔が横に開きまた陣に向いた。


「やっぱり、この姿がやりやすい。」


杖の先で書いた文字が輝きを増した。

黒い爪が伸びた手で、コツコツ陣を書いて行く。

やがて書き終わると、陣の中央に立って杖を構えた。


「 我が火打ち石よ、我に力を貸したまえ。


この身、この姿はこの世で生きるには厳しく、我が人の道はここで(つい)えよう。

この力、我が巫子の為に使うことも叶わず、この場でただ朽ちるものなれば、最後に火の同胞の眠る場所を指し示したまえ。

我が命を持ってその封印を解き、我らが同胞を解き放て。

汝らは巫子の力、力の(みなもと)なれば我が巫子は世に放つ光を取り戻すであろう。



我が火打ち石よ!指し示せ!火への道! 」



カーンと久しく聞かなかった火打ち石が鳴り、ボンッとルークの身体から青い火が噴き出した。


その火は輝く陣の内で渦を巻いて天井に吹き出し、部屋の四方へと広がって火の同胞の位置を探る。


「うううううーーーー!!!」


ルークが火に包まれギリギリと歯を食いしばる。

モコモコに生えた白い毛がジリジリと燃え、角がススで汚れていく。



うううう!!く、くそう!駄目だ!不完全燃焼だ!!

やっぱり洗礼を受けていないからだ!失敗する!失敗するう!!

死ぬ!無駄死にだ!!


あまりの苦しさに、ルークが陣の中でよろめいた。


「  たっ  」


言っちゃ駄目だ!


こっ、これだけはっ!


言っちゃ駄目だあああああ!!




「 助けてええええええ!!!!んギャアアアアア!! 」




精神の乱れが、青い火から赤い火へと変わっていく。

もだえ苦しむルークの意識が遠のいたとき、赤い火の光に染まる部屋に、ふわりと1つ光点が現れた。


ガクリと膝を付き、焼け死ぬ苦しさに絶望した瞬間、その輝きが急速にその火を吸い取って行く。

黒いススに汚れたルークがその場に倒れ、ヒクヒク細かに痙攣した。



『 あれ?ルーク、様?で?ございますか? 』



姿の変わったルークに、ちょこんと首を傾げてリリスがのぞき込む。


『 これはどういう状況でしょうか?マリナ、マリナ 』


マリナがリリスの頭の中で返答した。


『 あー、なんかちょっと遅かったな。赤、お腹いっぱい?任せていい? 』


『 ああ、そうですね、なんか呼ばれたので来たついでに、あふれてきた火を食べてしまいました。うん、今なら私にも…… 』


リリスがそっと、ルークに手を伸ばし、彼の頭に触れた。


『 火の紡ぎ糸、傷を癒やし焼かれた場所を再生せよ。弱りし者に火の祝福を 』


ルークの全身で、赤い火花が散ってジャッと何かを焼く音が聞こえた。

一瞬の痛みに、思わず飛び起きる。


「ギャアアああ!!あぁぁ、あ?」


『 どうです?癒やしは久しぶりなので 』


燃える髪を揺らし、ニッコリ微笑むリリスの顔に、ルークが信じられない顔で傾げた。


「え?ほんもの?」


『 どうでしょう、精神体なので、本物とはちょっと違いますかね 』


「え?えーーーー!!なんで?」


『 だって、お呼びになったので。助けてーーーーって。

 あ、ルーク様、角にさわっていいですか?なんか可愛いです〜 』


精神体で、こすこす撫でてもなかなか感触は伝わらない。

んーと渋い顔でリリスが手を離し、しゃがみ込んで膝を抱えてフワフワ浮いて漂い、陣の文字を珍しそうに見た。


『 何なさってたので? これは面白い陣ですね。あとで教えて下さい 』


「はあ、わかりました」


『 魔導の書物から引用でしょうか? 』


「え?いや、オリジナルです」


バッと、陣の消えかけた文字を指さす。

リリスはもう、何を置いても陣の方に興味が向いた。


『 あっ、この文字、違うんじゃ無いですかね?ほら、陣で力を上げたんでしょう?ここは3本線を、こう書いた方が正解だと思いますよ?

あー、そうですよ。ほら、この流れでここに対流が起きて、流れがスムーズに行かないんです。

きっとこの一文字のせいですよ、上手く行かなかった原因。

んーいいですね。面白い 』


「あの、いや、それより何をしていたのか知りたいのでは?」


『 あっ、そうですね。なにをされてました? 』


ニコニコ顔のリリスには、緊張感が無い。

命かけて眷族探しているのに、全然、まったく、何も期待されてない気がする。

何だかガックリルークは肩を落とし、その場に突っ伏してしくしく泣き始めた。


シビルは、アトラーナの羊です。

驚くとイノシシのように群れで猛進することで知られます。

繊維業に力を入れる、ベスレムで良く飼われています。


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