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赤い髪のリリス 戦いの風〜世継ぎの王子なのに赤い髪のせいで捨てられたけど、 魔導師になって仲間増やして巫子になって火の神殿再興します〜  作者: LLX
39、ルクレシアの帰宅

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442、逃げたい、逃げたい、帰りたくない、帰れない

自分の前を、白装束の子供が歩く。

何者かわからない、アデルよりもまだ若い、子供だ。

ゆったりしたシャツに百合の紋のベストを羽織り、ズボンから靴まで真っ白な白装束に、服よりも真っ白な髪を、肩で切りそろえた小さな少年だ。


この見慣れない作務衣のような白装束は、神殿の関係者が着る物だ。

神殿は、何故か和服のような服装をすることが多い。

火の神官たちも同様に作務衣のような白装束に頭巾など被り、顔には前垂れを下げている。

まるで白い黒子のようだ。

恐らくは、ヴァシュラムが異界から持ち込んだものだろう。


神は何故か白装束を好む。

このアトラーナで、純白の生地はとかく高級な代物だ。

この生地の出自は精霊の織物が多く、それだけに魔物避けの魔力がある。


少年は白装束の上に、白地に銀糸の刺繍で縁取りした、巫子服の上着でよく使う丈の長いベストを着けている。

だが、巫子が町中を普通に歩いてるなんてあり得ない。

それでも道を歩いているだけで、目立つ姿の少年に、皆頭を下げて道を空ける。

ルクレシアはウンザリした顔で、逃げたくなって足を止めた。


「逃げても構いませんよ、逃げても」


小さな少年が、ご丁寧に二度繰り返して振り向くとニッと笑う。

ムッとして、ルクレシアはまた歩き出した。


「ホホ、良きお覚悟」


「本当に行くのか?行ったって、門で追い返されるのがオチだ」


「すでに知らせを送っています。

どうぞ、何がありましょうと私は同伴するのみでございますので」


「そのまま城内に戻ると思ったのに」


「城内に戻られても、側近を解任されたあなた様に居所はございませんので」


「あんなもの、解任というものか。勝手な奴」


「あなたに今必要なのは、ちゃんとした休息と食事です。

若さで持っているが、今対峙しても無駄死にしか無い。

あなたにはまだ、使命がある。急がなくてはならない。

1日でも2日でもいい、ちゃんとした食事を取り、温かなベッドで1人、ゆっくり休まねばなりません」


「そんな夢みたいな事。もう2年以上、ゆっくり1人で寝た事なんてない。

物を食べても泥を食べてるようだ、ちっとも美味しくない。

僕は、ただ生きてるってだけなんだ。

だいたいお前は何者なんだ?」


「ホホ、私は……そうですね、地の四の巫子とでも」


「巫子が供も無しにこんな所をうろつくものか。

四の巫子なんて、聞いたこともない」


「供は居りますよ、あなたが気づかぬだけ」


空で大きな鳥が一声鳴いてゆっくり旋回している。

あれだというのだろうか、ため息が出る。

何か知ってるらしいが、何を言ってるのかさっぱりだ。

ズシリと重い、ランドレールに送られた装飾品の入ったポケットを確認する。

こんな物持ってたら、きっと盗んだと思われるだろうな。

指にある王家の指輪を撫でた。

彼がまるで婚姻の印のように薬指に付けた指輪。


「その指輪は大切にお持ち下さい。宰相家の大切な指輪です。

それは……」


「わかってるよ、ちゃんと返すから」


それは……もし、本物の宰相が復活しなければ、彼の、本物の宰相の形見になるだろう。

あの美しい息子に渡さねばならない。


町中を抜けると、重い足取りでそこを目指して歩き続ける。

緑の木立が目にまぶしく、嫌な思い出ばかりが思い出されてウンザリする。


家を出た頃、良くこの辺の木に隠れて夜を過ごしたっけ。

2人で小屋を建てようなんて、甘いだけの幻想で、自分がただのお坊ちゃまだと思い知らされた。


たった2年前のことなのに、遠い昔のようだ。

気が重くてため息を付く。


自分に帰る場所なんて無いのに、あの巫子アデルって奴は、パン1個と水差しの水だけで一晩森の中の小屋に匿うと、翌日食事も出さずに帰れと言った。

冗談じゃ無いと突っぱねても、何のそのだ。

あいつに耳はあるのか?

こっちの言う事なんて、半分も聞いてない。

使いをやると言われたのに、丸1日誰も来なかった。

何も無い床で寝て翌朝、ぐうぐう鳴るお腹を押さえて逃げようかと思い始めた所で、ようやくこの少年が1人でやって来た。


「僕は家を出たんだ、花売りまでしてた僕は、家の恥でしか無い。

恥ずかしいと罵声を浴びて追い出されるまでが確定だ。

僕の帰る場所はあの、花街さ」


「そして、また見ず知らずの男に身体を売ると?

おやめなさい、帰る場所があるかないかはまだわからない。

無いと決まってから考えるがよろしいでしょう。


それに……あなた様にはまだやることがあります」


「やること?そんなもの……」


「心に、問うのです。

あなたの中のもう1人が、きっと答えをくれます」


「もう1人?」


ワケがわからず顔を上げる。

その時、道の先に遠く、身なりのいい壮年の男が脇道から現れ、そして慌てた様子で戻ると誰かを呼びに行く。

脇道からもう1人、老年の執事服を着た紳士が現れ、2人でこちらへ急ぎ足で向かってきた。


「坊ちゃま!」


「坊ちゃまぁー!」


忘れたことが無い懐かしい声に、ルクレシアは呼吸を忘れて足を止め、思わずあとに下がる。

白装束の少年が、とっさにグッと手を掴んだ。


「逃げるな」


「あ、あ、あいたく、ない」


「老体にあれ以上走らせるつもりか?

お前のせいで死ぬぞ」


四の巫子だと言うその少年が、瞳孔を縦にして目を見開く。

ルクレシアは、ただおののいて首を振った。

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