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435、ラグンベルクの本心

手を繋ぎ、祭壇に向かって倒れていたリリスとマリナが目を開け、そろって顔を上げる。

闇落ち精霊の動きを見て、マリナが城へ行こうとリリスと祭壇に向かったのだ。

2人は手を合わせて精神体で向かい、王を殺しに来た闇落ち精霊を退散させた。


「あ、いてて、おでこぶつけてます」


リリスが額を抑えて大きく息を付いた。


「も、申しわけありません。見とれて受け損ねました」


オキビとなったエリンが横に控えていながら、うっかり目を奪われているうちにリリスが倒れてしまった。

任せられたのに、神官の初仕事が大失敗で終わって真っ青だ。

何度も頭を下げるので、大丈夫と手を上げた。


「大丈夫ですよ、ちょっとぶつけただけだから」


「リリは姿勢が良すぎるんだよ、もっと身体を丸めてゆっくり倒れるようにしなきゃ。

精神体飛ばす練習が必要だね」


「まあ、心飛ばすより、自分で行った方がやりやすいんですが」


精神体でうろうろするより、自分の足で歩いて、自分の目でしっかり見たい。


「我らもいながら申しわけありません、大丈夫でございますか?」


グレンがリリスの額を見る。赤くなっているだけで、腫れてはいないようだ。

リリスがその手を握り、額に当てると気持ちよさそうにニッコリした。


「あー、グレンの手は冷やっとして気持ちいい」


呼び捨てにしてもらうと、ドキンとして前垂れ越しに見るリリスの顔が明るく見える。


「この上ない幸せ、手が冷たくてようございました」


ウフフと笑って息を付きながら、なんかちょっと残念だなあと思う。

あの王子の身体を乗っ取っている物は、確かに自分たちを恐れていた。

倒せたかもしれないのに、マリナはどうして追わなかったのか不思議だった。


「マリナ、あれは……逃げられたという事でしょうか?」


「逃げられた以外に何があるというのさ。

つまり、リリは何故追わなかったのか?って言いたいんだろう?」


「そうですね、そうなりますね」


リリスがグレンの手を外し、水を飲むマリナの方を向いてあぐらをかく。

疲れた。

実体ではない状態で力を使うのはかなり慣れたはずなのに、なんでこれほど疲れるんだろう。


「疲れただろ?疲れたはずだ」


「バレましたか、どうしてかな?慣れたはずなのに。

村のはずれで日の神にお力をお借りした時はとてもラクでした」


コップをゴウカに渡し、マリナがリリスと向き合って座る。


「そりゃそうさ、追わなかったのはそれだ。

あいつにぶつけた火の玉の火力、見たかい?あれじゃ弱火もいい所だよ」


リリスが、えーーっとビックリする。

自分としては、全力だったからだ。


「あれで弱火?なのですか?」


「そう、あれじゃお芋も焼けないよ。まあ良くてその辺の浮遊霊浄化するくらいだ。

種火不足が深刻だ」


「は〜〜〜」


何だかガッカリする。


「でも質は一級だ。奴の慌てようを見たかい?ククク、僕はスッとしたね」


「私はスッと出来ませんでしたけど」


ククッと笑って、マリナがリリスの手を取る。

そして、顔を近づけた。


「それでも、王の一時避難は完了出来た。あとは僕らの番だ」


「でも、眷属の解放をどうします?僕はそれまでトロ火ですよ?城のどの辺にあると見立てですか?」


「クククッ、リリがわからないわけないよ。

僕らは火の巫子だよ?眷族は、本来僕らの周りにいて当たり前なんだ」


教えてくれないマリナに、ため息しか出ない。

付いていって、もしかしたら眷族が出てくるかもとか思っていたのに、やっぱり出てこなかった。

ガッカリ肩を落としていると、マリナがドアを指さす。


「リリ、それより叔父様のお相手して欲しいなあって、みんな思ってるよ。

この家にラグンベルク公は、なかなかのお荷物だ」


「叔父様じゃありませんってば!もう!

私のような者が、公のおそばにいる方がお荷物ではないのですか?

ベスレムではずいぶん懇意にして頂いて、楽しゅうございましたけど」


「まあ、公の横にいて楽しいなんて気軽に言えるのは、リリくらいの物さ」


ふうん、そうかなあと思う。

だって公はとても気さくで話しやすいし、1度グルクに乗せてもらって一緒にベスレム上空を空中散歩した時はとても楽しかった。


階下へ降りて行くと、居間のドアの前にドア番の兵が2人立っている。

知ってる顔なので、ニッコリ笑って軽く頭を下げた。

ノックして、返答を待ち中に入る。

相手をしていたセフィーリアがテーブルを飛び越え、リリスに抱きついてきた。


「リーリよ!どうじゃ?守備は上手く行ったか?

この退屈な男がのう、お前のことばかり聞くのじゃ。面倒くさい男じゃ」


クスクス笑って、公に頭を下げる。

すると早速、公が隣に座れと椅子を叩いた。


「お疲れは取れましたでしょうか?王子にお会いになられましたか?」


問いかけながら、隣に座ると大きな手が肩に掛かる。

ポンポンと背を叩かれると、何だかとても落ち着いた。


「うむ、体調は万全だ。キアナとは先ほど会ったが、王家の先行きには厳しい物がある。

お前が無事であるのは幸いであった」


「私は……王家の者ではありませんから……」


「わしは認めておらぬ」


驚く言葉が、王の末弟であるラグンベルクから飛び出した。


「お前の父たちにはずっとお前を戻すよう手紙を送り続けたが、何の事かわからぬとこれまで返答が続いていた。

サラカーンは特に、強い言葉で石頭で頑固なのだ。

ああ、あの兄が魔物に乗っ取られるとは。なんと言う不覚よ」


「お命がご無事であればいいのですが」


「そうよのう。せめて王の近くに精霊たちがいれば、悪霊が近くにいればわかったであろうに。

悔やまれる。

だからこそ、世継ぎは真実でなければならぬ。

精霊の心を取り戻す為に。

お前を精霊たちがどれほど大切にしているか、お前が巫子であると聞いて、すべて合点がいった。

だからこそ握りつぶされても、わしはずっと書を送り続けていた。

王は、最近柔軟な姿勢を見せ始めていたのだ。だが、すべては遅すぎた」


「王子がいらっしゃるではありませんか、今更世継ぎを変えるなどあり得ません。

私も望んではいないのです」


「これは、キアナルーサを認めていない訳ではない。

弟には弟の役目がある。王である事がすべてでは無い。

お前が長子なのだ。お前の望む望まぬなど関係ない。

髪の色が何だという。このようなこと、間違っている」


リリスは視線を落とし、小さくため息を付く。

そんな事、望んでいない。

自分は玉座など頭の片隅にもないのだ。


窓から外を見ると、室内とは比べものにならないほど人が中庭にあふれている。

風の丘の村は、その頃、レナントとベスレムからの加勢の兵でごった返していた。

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