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赤い髪のリリス 戦いの風〜世継ぎの王子なのに赤い髪のせいで捨てられたけど、 魔導師になって仲間増やして巫子になって火の神殿再興します〜  作者: LLX
37、闇落ち精霊の怨念

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433/581

432、アトラーナ王、籠城

闇落ち精霊が身を落とし、火に向けて血の盾を作る。


ゴオッ!


「ひ!い!」


身を伏せ盾を火に向けると、その火が盾に絡みつくようにぶち当たって散った。

盾は火に焼かれ、煙を上げて蒸発する。


「ぎ、あ、あ、ぐうっ、く、くそっ!」


手の平を向け、血の矢をマリナに向け飛ばす。

無駄なことはわかっている。だが、その隙を縫ってその場を飛び出した。


「い、い、い、致し方、無い!」


歯を噛みしめ、廊下を一気に駆け抜け、階段を飛び出した。


ドーン!ダンダンッ!


受け身も知らず踊り場にそのまま落ちて、弾みで下へと転げ落ちる。

折れた腕を血で直し、痛みも感じずそのまま宰相の部屋へと逃げ込んでいった。


マリナが火に包まれたまま空中を飛んで階段を見下ろす。

すでにそこには王子の姿は無く、余程慌てたのかきちんと履いていなかったのか、サンダルが片方転がっていた。


『 知ってるぞ、あれは灰被り姫だ。アハハハ! 』


追うこともせず、マリナが落ちている靴を笑う。


『 クククク、逃げたか腰抜けめ!戦わないのはそっちじゃないか 』


『 戦わないのに、青は好戦的で困ります 』


マリナの声と重なるように、リリスの困った声が漏れてきた。


『 戦えるのに、赤のやる気が上がらないから僕は困ってるよ。

ごらん、あれがあいつのやり方だ 』


マリナが折り重なる兵の死体に目をやり、手を合わせる。

その目には、突然の死に戸惑う兵達の霊体が、顔を見合わせ立ち尽くしていた。


『 汝ら道を見失いし者達よ、導きに従い輪廻の川を目指したまえ。

心配はいらぬ。心安らかに、時が満ちたのち新たなる生を受けよ。さあ、顔を上げ導きの光を見るのだ」


マリナが兵達に向け光を飛ばす。

兵は軽装の鎧を脱ぎ捨て、顔を上げて光に吸い込まれ消えていった。


リリスが悲しげに吐息を漏らす。


『 ああ、とうとう死者が出てしまいました 』


『 ルークよ、早く眷属を解放せよ。お前の働きを待つ余裕は無いぞ 』


マリナが火の中に消え、リリスの息づかいも消える。

2人の火は青と赤がからみ合うようにしばらく漂い、そして消えていった。





「王よ、道が開きました。お急ぎを」


ドアの中では、アデルが鏡を触媒にして、壁に道を通していた。

グッと手を握る王に、アデルがひっそりと声をかける。


「王よ、これは恥などではありませぬ」


「わかっている」


王が自室を見回し、見慣れた窓からの景色に目をやる。

そして、皆を見回しうなずいた。


「我ら騎士、お供致します」


ザレルが部下と共に頭を下げる。


「うむ、頼りにしているぞ」


「はっ」


王がクルリと壁に空いた道を向く。

果たして何日になるのか、何週間かもわからない。

ロルドーが壁にあった剣をうやうやしく差し出し、王はそれを受け取ると腰のベルトに刺した。


「この年寄りも命尽きるまで、お供致します」


「よし、では行くぞ」


「は」


「お持ちになるものは?」


「無い!」


王が一歩を踏み出し、長年住んだ部屋を後にする。

そして先頭に立ち、アデルの通した道を通って皆と道を渡りきった。

その先にはルークが頭を下げ、数人の騎士や兵士、そして女官や下女たちが待っている。

アデルが道を閉じ、胸に手を当て王に頭を下げる。

王が、大きく息を付き、ルークにうなずいた。


「では、手はず通りに頼む」


「承知しました。では、城の結界を解き、この来客の館へ移動させます。

ニード、速やかに行え」


ニードがうなずいてその場で杖をクルリと回し、カンカンッと床を鳴らす。


「西の(かなめ)イール!東の(かなめ)ラーン!北の(かなめ)ジール!南の(かなめ)セイラーンよ!我が名をもってその場の任を解き、新たな場に移動せよ!

美しき4姉妹の強固な結束は精霊の中でも最高位を誇るものなり!

汝らの名は語り継がれ、このアトラーナの地の守護女神として崇められん!」


ニードが杖で館の四方を指し、カンカーンッとまた杖を突き鳴らした。

その音と共に、城の四方の結界が光を放ち、地面を舐めるように光がうごめく。


「イール!ラーン!ジール!セイラーン!

我が名をもって新たな結界の場を築け!イールイール・サナガルド・ドーン!」


その呪文と共に光がこの棟に集約してドスンと館を揺らし、その来客の館は強固な守りで魔物は入ることが出来なくなった。


「これで良いのか?」


「食料は三室に貯蔵しました。

この来客の館は生活に必要な場がすべてそろっておりますゆえ、籠城には向いております」


「ふむ、お前達もここには詰めるのか?」


「はい、この地の魔導師が共におりますゆえ、ご安心を。

口は悪うございますが、結界作りでは右に出る者おりません。

このたびの魔物は城内におりましたので、どうにも出来ませんでしたが」


「お前はどうするのだ?」


「はい、私はまだ仕事がございますので。

大事な仕事が」


ルークが、ひっそりと唇に指を当てる。


「私は魔導師の塔の長。火の巫子が登城されるのであれば、迎える準備をせねばならないのです。

私は私の仕事を致します。それはここにいては出来ない事なのです」


「息子は……弟は……どうなっているのだろうか?」


問われてルークがチラリとアデルを見る。

アデルは以前と変わらず、ニッコリ笑っている。

一体これが誰なのかわからない、あのアデルは確かに死んだのだ。


「残念ながら、ただいまの状況は最悪でございます。

手は尽くしますが、現状、火の巫子にまかせるしかありません」


「火の……巫子なら何とか出来るというのか?

その、悪霊を相手にして」


「先ほど襲ってきた魔物を一旦後退させたのは、密かにお見えになった火の巫子のお力。

今は悪霊よりもタチが悪いものが暴れています。

城内で死者がこれ以上増えないように手を尽くします」


「死者?!だと??」


驚きの言葉がルークの口から飛び出し、王の顔から血の気が下がる。


「我が国に……光はあるのか?」


アデルに、苦しい言葉で問う。


「今こそ精霊と人間が団結して立ち向かうのです。

火の巫子が中心となって、人を、精霊を集めています。時を待つのです」


王妃が、両手で顔を覆って泣き崩れる。

自分たちは、あまりに無力だった。

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