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431、闇落ち精霊の奇襲

ドンドンドンドンドンドン!!


激しくドアを叩かれ、ドアがガタガタと軋む。

このドアがこんな音を立てるなど、常人の力とは思えない。

手で叩いたくらいではこのような音はしないほど、硬く重い扉なのだ。

王は初めて聞く音に、それが次第に手で叩かれているものでは無いことに気がついた。

王妃が王女を庇って抱きしめ、恐怖から目をそらすように目を閉じる。


「お母様!」


王妃にしがみつく王女の姿に、王が大丈夫だと2人の身体に手を回した。

ザレルと騎士たちが王を庇うように立ち、ザレルが剣を抜く。

それに続いて部下たちも剣を抜いた。


「お下がりを」


ドン!ドン!


ガキッ!ガンッ!ミシッ!バンバン!


アトラーナで一番硬いと言われる木が、きしみ始め、そして小さく割れた穴から血の槍が細くドアを突き抜ける。


シュッ!


その瞬間、パンッとザレルがその先を切り、切られた先端が血になって床に落ちた。

残りの槍は、スッとドアの向こうに消える。

落ちた血がぬるりと、うごめいた。


「血っ?!血が何故?!」


「呪われた血です、お下がりを。中を覗きに来たのでしょう」


アデルが落ち着いて答えると、ザレルが血に歩み寄り、剣を突き立てる。


ドンッ!!


だが、血はサッとその剣を避けてドアの下の隙間から消えた。


「逃げた?」


「あれは闇落ち精霊の血です、触れると命を取られます。タチの悪いものです」


「では、女たちや他の者は?!逃げるよう言わねばならぬ!」


「下働きや通いの者にはそっと逃げるよう通達しました。

運が良ければ逃げ切れましょう、王城に勤めるというのはそう言う物です。お気遣いなく」


非情な言葉に、王が唇をかむ。

自分たちは、彼らを残して逃げるしか無いのだ。


「今は生きることをお考えください」


アデルが気を取り直して鏡に手を向ける。

開きかけた道に、再度術をかけ始めた。




その血はドアをすり抜け、ドアの向こうに立っていた王子キアナルーサの姿をした闇落ち精霊の足先に吸い込まれるように消えた。

精霊は大きく目を見開き、驚いた顔でドアを見ている。


「ナゼだ……ナゼ、あいつが、いる? アノ、巫子は……殺したはずだ」


この階を守る兵達は、廊下に折り重なり死んでいる。

彼らは王子の姿の精霊に、なすすべも無く貫かれ、生気を吸われたのだ。


「ソウカ、くくく、木偶か?人形、だな? どこぞの、魔導師、風情が、はかなき、抵抗を」


中に王やその家族、そして騎士、狂獣ザレルまでいるとは。

殺したい者がみな集まっているのは好都合だ。


()く、死ね」


精霊は、片手を伸ばしドアを破壊しようと血の槍を手の平から生み出そうとした。



『 やめよ、この無礼者が 』



突然、横から揺らぎのある声がかけられた。

その揺らぐ声が強い力で精霊の手を止め、王子の顔が無表情にそちらを見た。


「青の、巫子」


廊下の突き当たりに、青い火がポッと生まれる。

精霊が、面倒な奴が来たと苦い顔で笑った。


「やれ、面白き、こと、よ。

戦わぬ、巫子が、戦いに、来た、か」


火はゆらゆらと大きくなり、マリナが火の中に現れた。


『 とんでもない、僕が戦うなんて天変地異の始まりだ 』


「お前も、王家、を、憎んでいる、はず、邪魔を、するな」


『 そうさな、お前の言う通りだ、ここで見ていてもよい。

だが、お前の殺戮一偏(さつりくいっぺん)のやり方は気に食わぬ 』


ボンッと、一瞬で王子の身体が火に包まれた。

一瞬ひるんだ物の、青の火を浴びても王子はケラケラと笑う。


「きかぬ、生ぬるい。なんだ、これが、火の巫子の、火か!クククク、なんと言う、無力!!」


無視してまた王の居室のドアに手を向ける。


だが、その手にボッと赤い火が付いた。


「ぐっ!ま、まさか!!」


ビクンと思わず引いて、手の平の槍を引っ込める。

ジリジリと手の先まで回っていた精霊の血が煙を上げて蒸発して行く。

その手を千切れんばかりに振って消し、歯がみして声を上げた。


「ぐぎっ!ぎぐぐぐぐ!!!お、お、のれ、


赤の、巫子!!』


マリナの背後から、赤い炎がマリナと一緒に燃え上がる。



『『 王に、手を、出すな 』』



リリスの声がマリナと重なり、苦い顔の精霊にマリナが声を上げて笑った。


『 馬鹿め!すべてが貴様の思う通りになると思うな!闇落ち精霊!! 』



『『 火よ!この愚かな精霊を焼き尽くせ! 』』



マリナが頭上に掲げた両手を一気に振り下ろす。



ボゥンッ!!



王子の姿の精霊に向かって、赤い火が火の玉となって襲いかかった。

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