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赤い髪のリリス 戦いの風〜世継ぎの王子なのに赤い髪のせいで捨てられたけど、 魔導師になって仲間増やして巫子になって火の神殿再興します〜  作者: LLX
37、闇落ち精霊の怨念

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429、血の槍

宰相の姿のランドレールが、笑ってルクレシアを手で招いた。


「なんだ、お前も来たのか。

祝杯だ!ここへ来て酌をせよ」


王子を前にして、機嫌良くグラスを上げて笑っている。

執事は何ごともなく給仕を始め、ルクレシアもその手伝いを始めた。


「一体何の祝杯でございますか?」


ランドレールがグラスを差し出し、それに酌をする。

執事はそそくさと部屋をあとにし、部屋にはルクレシアと彼、そして不気味な微笑みをたたえる王子が残された。

ルクレシアの手が震え、ボトルがグラスに当たりカチカチ鳴る。

それに気がつかないほど、ランドレールは高揚していた。


「クククク……邪魔者が消え、我が最高の魔導師が復活したのだ。

見よ、なんと言う頼もしい。

良い事ばかりが続く!」


「それは……ようございました」


「何だ冴えぬな、知らぬのか?あれが消えたというのに。

最大の邪魔者よ!なんと愉快な、無様な姿であっさり消えおった。

もろいもろい、精霊の仲間など、(けが)れれば泡のように消えて無くなる。

ククククク!アハハハハハハ!!」


精霊の仲間??


恐る恐る、王子の顔を見る。

その顔に、ルクレシアはゾッと背筋に寒いものが走った。

土気色をしていた顔が、死人のような青白い顔に変わり、それはまるで墓の中から出てきたような顔をして、不気味に笑っている。

息を吐くと、部屋の中が死人の国へ足を踏み入れたかと思うほど凍り付きそうだった。


「叔父……う、え、血の、契約は、私が預かって、おります。

彼等を、呼び、寄せましょう。良い、エサに、なります」


「おお、それは良い、やはりお前は頼りになる。

最近力が落ちているのはエサが足りないからなのだ。

ろくに使えない輩でも、エサには使える。

地下の封印さえ解ければ、もっともっと力が満たされる。

ククク、地龍も死んだと言うことは、もうすぐ封印も解かれよう。

では、毎日一匹ずつ呼び寄せよう」


宰相の姿のランドレールの言葉に、ククッと王子が笑う。


「何を、甘いことを、エサに、するのは、一息に、すべてだ。

今の、お前は、話に、ならない。

私が、居ぬ間に、いかがした。お前から、毒を、抜いたのは、なんだ?」


上機嫌だった宰相の姿のランドレールがギクリとした。

微笑みをたたえ、狂気に満ちた王子の目が彼の隣のルクレシアに向く。


「それ、だな?」


「違う、お前が消えて、私は1人で力を消耗したのだ。

これはただの気晴らしに過ぎない」


「ならば、何故、紐を付けない。

ならば、何故、交わり、ながら、も、殺さない」


「それはこれの身体が気に入ったからだ」


「それは、生かす、理由に、ならない。同じ、ような、人間は、大勢いる」


「いいや、これの身体が面白いのだ。それが理由になる。

生きていないとなぶりようが無い、面白く無い。

紐付きの下僕など、生きた死人だ」


王子が、大きくため息を付いた。


「ああ……その男に、こだわる、心が醜い。


ああ、そうだ。

欲しい、欲しい、その為に、彼を殺し、私を殺した、まるで、まるで、


アノ…………剣ヲ持ッタ、男ノ、ヨウダ。


お前の心には、吐き気がする、汚物が生まれている。


醜イ、人間の、ヨウナ、


ソノ、感情ヲ、捨テヨ」


それは一瞬だった。


ランドレールが、ルクレシアの身体に覆い被さりそのまま椅子ごとひっくり返る。

ルクレシアが押し倒されて天井を向いたとき、その眼前に血のように赤い槍が鼻をかすめた。

足を引っかけ食事の並んだテーブルが倒れ、大きな音を立てる。


ガタンッ!ガチャンッ!パーンッ!


外から驚いた執事が、飛び込んできた。


「どうなさったので?」


シャッ!

ドスッ!!


「は……??」


執事の目が見開く。

その血の槍は、彼の胸を刺し貫いていた。


「ルーデル!!」


ランドレールが彼の名を叫んだ。

血の槍が執事のあふれる血を吸い、座ったままの王子がペロリと唇を舐める。

血の槍は王子の肩口から飛び出し、まるでゴクリと音を立てて血を飲み込むように波打つ。


「ああ……あああ……」


あまりの凄惨さに気を失いかけたルクレシアの目がカッと開き、王子の姿に手を伸ばして涙を流す。

涙でゆらめく王子の後ろに、血に濡れた精霊の姿が見えた。


グッとランドレールの手に力が入り、彼の身体が抱き上げられ、そのまま隣の寝室へと飛び込む。


「逃げよ、早く!逃げよ!!」


ルクレシアに叫び、彼の身体をベッドに降ろしてドアを閉め、かんぬきを落とす。

そして奥の壁の棚を手前に引いた。

そこからは、隠された細い階段が現れる。王家の秘密の通路なのだろう。


「良かった、この通路そのままだ。

早く、早く!ここから降りて、城を出よ。

扉を閉めたら下に降りて、この王家の指輪をかざし地の精霊を呼べ。

案内をする精霊が現れる。

王家と地の古くからの契約だ、今も変わっていないはずだ」


そう言って、手から指輪を引き抜き彼の薬指に着けると、身体を抱き寄せ最後の口づけをする。

暖かな、いつもの口づけに、これは夢では無いかと言う思いに駆られる。

ギュッと抱きしめ、耳元でささやいた。


「すまない、最後までお前にはそばに居て欲しかった」


「ランドレール、どうして……」


首を振って身体を離すと、肩を押して暗い、光1つ無い闇に向かう階段にルクレシアを押し込んだ。

ドンドンと、ドアが叩かれ血の槍がドアを突き抜ける。


「あっ!あっ!」


それは酷く凶暴で、現実を突きつけた。


「あなたは?あなたはどうするの?一緒に逃げよう!」


「駄目だ、あれが排除しようとしているのはお前だ。

あれは人間を憎んでいる、殺すまで追ってくるだろう。

行け、行くのだ。私はお前を失いたくない」


首からネックレスを取ってルクレシアの首にかけ、指輪をすべて抜いて彼のポケットに入れた。


「これを売って生活の足しにせよ。

もう身体を売ってはならぬ。私以外の男にその美しい身体を開くな」


「もう……もう、会えない?」


「会えるさ、私が王になったらな。

行け、お前の身体は極上であった。私のルクレシアよ、大義であった。

また会おう」


ニッと笑ってドアを閉める。


「ランドレール!!」


ドアの隙間から光が筋になって、そして消えた。

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