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426、火の守護者

「この身、この命かけて、あなた様にお仕え致します。

私の真名まことなはラスクリオ、あなた様の盾となり、槍にもなりましょう。

我が巫子よ、よくぞご無事でお育ちになりました。

その尊きお言葉で我が真名を唱えるとき、この身はいつでもあなたの下へ馳せ参じます」


ホムラの獣の目をした半獣の顔が、誓いを持ってリリスを巫子として見つめる。

リリスが目を細め、ホッとしたように息を細く吐いた。


「ああ、やっと、やっとその時が来たのですね」


リリスが立ち上がり目を閉じると、その髪がボウと燃え上がる。

開いた両目が真紅に燃えた。


「 マリナ 」


遠く離れたリリスの声に、応えるように祭壇の前にいたマリナが立ち上がった。


「ようやく、ようやく、この時が来た。

私の赤を捕らえていた呪言の枷が外され、覆っていた(かすみ)が晴れた」


マリナの心がリリスと同調して、リリスの心の中にマリナが降りてきた。



『 さあ、私の赤よ、共に儀礼を行おう 』



マリナの言葉と共に、燃えるような息吹が身体の底から湧き上がるのを感じる。


「でも……、こんな何も無い所でいいのでしょうか?」



『 精霊たちが祝福してくれるよ。

本来、我らの神事の場に、人間はいるべきでは無いのだ 』



「わかりました。ここは聖域、神に近い場所。では」


両手を合わせ、パンッと1つ鳴らす。


木立の間から明るく照らすように日の光が差し込み、その場がシンと静まり空気が変わった。



「我が尊き御方々(おんかたがた)に申し上げる。

青の巫子、赤の巫子の名において、我らの守護者、火の神官をここに命名致します」



エリンが目を見開き、ホムラの横にひざまずいた。

祭壇の前のマリナが、祭壇に向けて手を合わせ、そして左右のロウソクへと手を伸ばす。



『 赤の巫子リリス、青の巫子マリナ・ルー、我ら共にここにあり。

火打ち石が認めし者よ、汝の行くすえ火と共にあり。

尊き御方々のもと、我らの命は1つになりて、御方々に仕える者なり 』



ロウソクの火が大きく燃え上がり、マリナの手の中に火が移る。

両手のその火を1つにまとめ、左右に振ると火が帯となって燃えあがる。

それを上へと投げる仕草の瞬間、スッと宙に吸い込まれて消えた。


リリスが空に手を伸ばし、宙に現れた火を受け取る。

その火をクルリと回し、火の輪を作るとパンと柏手を打つ。

すると火はパッと散って、指さす2人の頭上に向けて集まって行く。

くるくると輪となって燃えながら、2つに分かれた火は2人の頭上に浮いた。


「よし、では」


リリスが手を合わせて目を閉じ、大きく息を付いた。


「ラスクリオ」


「はっ、ここに」


ホムラが膝を付いたまま、前に出て頭を下げた。


「ラスクリオよ、汝にあらためて守護者ホムラの名を与える。

火の守護者、神官として、火の神、日の神にお仕えし、我がもとで生きよ」


「はっ、この命、火の方々の為にお使い下さい」


リリスが、彼に手を伸ばしかけて止めた。


「それは駄目です。もっとご自分を大切になさって下さいませ。

命の大切さを知ってこそ命を守れるのですから。ご自分の命をもっとですね」


「もっ!申しわけありません!」


ホムラが驚いて頭を地につける。

心の中で、思わずマリナが吹きだした。



『 プフッ、赤らしいね。それ、赤が言う?まるっとお返しするよ。

もっと自分の命を大切にしてくれなきゃ。

でさ、今、神事なんだけど 』



「あ」


コホンと、リリスが赤くなった。


「だって、油断するとみんな僕らに命をかけてくるんだもの。

私は、ちゃんと自分の為に生きて欲しいんだ。

だからホムラ、私の為に、そして自分の信じるものの為に生きて下さい」


ホムラの頭にそっと手を触れると、彼の頭上にあった火がスッとその手を介して彼の身体に吸い込まれた。

胸の中に火が灯り、カッと熱くなる。

それは巫子を失ったときから、久しく感じていなかった熱さだった。


「おお……なんと言う暖かさ。有り難き幸せ。全力で、これからは必ず、全力でお守り致します」


「フフッ、よろしくお願いしますね。

では、エリン」


「はい」


「エリン、汝に守護者オキビの名を与える。

オキビとは、炎は見えずともその身の中でふつふつと熱い火を燃やす者。そう聞きました。

いかなる時も落ち着いて物事を判断し、内の炎を燃やして我らの力となりたまえ」


「承知致しました。

お役に立てるよう、全力で努めさせて頂きます」


「はい、よろしくお願いします」


エリンの頭を触れると、スッと火が彼の中に吸い込まれる。

その瞬間、感じたことがなかった火打ち石の存在が、胸の中でカッと熱く感じられた。


「これが、これが、ああ、なんでしょう。胸の中で火を感じます。

まるで、炉に火を入れたようです」


「オキビよ、これでお主の中の火打ち石が動き出す。まさに、火が灯ったのだ。

火が馴染むと、我らと心で言葉が交わせるようになる」


ホムラがエリンに語りかける。

それは、仲間入りした彼への祝いの言葉だった。


『 では、こちらにいる2人にも 』


祭壇の前で、マリナが2人に手を添える。



『 スイ、汝に守護者グレンの名を与える。

 シシー、汝に守護者ゴウカの名を与える。

 火の守護者、神官として、火の神、日の神にお仕えし、我ら巫子の為に生きよ 』


「承知致しました」

「仰せのままに」


マリナが彼らの頭に触れて、火を入れる。

リリスがうなずき、手を空に向けて掲げ、そして願いを込めて、声の限り大きな声で叫んだ。



「火よ!火よ来たれ!火打ち石を鳴らせ!我が神官ここにあり!


皆よ聞け!我ら火の者ここにあり!!


アトラーナの人々よ!


火の神殿を再興せよ!


煌々と燃ゆる火を崇めよ!空に輝く日を崇めよ!

されば世は明るく照らされ、精霊の国は栄えるだろう!


汝らの!

汝らすべての、生きとし生けるものの行く末に祝福あれ!」



山中で声高らかにリリスの声が響く。

その声は山びこのようにアトラーナに広がり、人々が心に響く声に振り向いた。

そしてその瞬間、本城の謁見の広間に、何故かカーーンと高らかな火打ち石の音が鳴り響き、兵達がざわめいた。

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