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422、王族としてやるべき事

青空の中、一匹のグルクが地の神殿の方角へと飛んでいる。

今日はいい向かい風が穏やかだ。

そのグルクは、優雅に見えるほど、羽ばたきを忘れて風に乗っていた。

騎乗しているのは、地の神殿の老騎士キリエと、その背にマリクが見える。

マリクは荷物と大柄のキリエに挟まれて、苦しそうにも見えた。


「そろそろ休むか、疲れただろう?」


「いえ、キリエ様、休みが多すぎます。まだ飛び立って1日ではありませんか。

のんびりし過ぎです。

あれ?あれはどこかの兵でしょうか。随分と大勢が移動しています」


「ふむ」


キリエが高度を落とすと、マリクが彼等の持っている旗に目をこらす。


「キリエ様!あれはベスレムです!!赤地に剣と雄々しいシビルの絵。

間違いありません!

旗の下に王家の紋章もあります!王旗があるという事は、まさか……」


「息子殿だろう、城主が出るわけが無い。

どちらにしても、ただ頭上を通り過ぎる訳にもいくまい。

降りるぞ、百合の旗を掲げよ」


「承知致しました!」


紋章を掲げ、ゆっくり旋回しながら高度を下げる。

すると、兵の数人が気がついて手を上げ、連絡に走った。




隊列が止まり、休憩に入る。

キリエは案内されてひときわ大きな馬車に向かうと、その乗り口に向かい頭を下げた。


「どうぞ、中にお入りください」


「失礼する」


頭を下げて馬車に乗り込むと、明かり取りの窓から差す日に照らされた足下が見えた。


まさか!!


キリエが、挨拶に来て良かったと思う。

それは、ラグンベルク自身だった。


「地の神殿の……キリエか。久しいな。

だが、何故巫子を置いて戻っている?」


「は、実は、城が」



キリエが、悪霊のことをぼかして説明する。

巫子の足手まといとなることを懸念したのだと告げた。


「なるほど、老いては足手まといとは手厳しいな。

フフ……アデルらしい」


「はい。我が巫子は聡明なお子で。

ラグンベルク様は、城へ向かわれるのですか?今の状況は、あまりお勧め出来かねますが」


「我らは火の巫子に加勢に行くのだよ。

兄を救う為にな」


「火に加担して王を、でございますか。しかし、それでは……」


キリエが渋い顔で魔導師の他にも横に並ぶ2人のベルクの側近を見回す。

ベルクが、ククッと笑って水を飲んだ。


「謀反の懸念か?地の騎士よ」


「はい。恐れながら、不動も一手だと巫子が申しておりました」


「アデルか……小賢しいな。良き、巫子であった……」


奇妙な言葉尻に、キリエが敏感に気がついた。


「何か?ご存じでございますか?」


「良い、我らはお前達より事情を知っているようだな」


ラグンベルクが、傍らの魔導師の女グレタガーラに指を立てる。

グレタが杖をつき、少しため息を付いた。


「アデル様は、お隠れになられたかも知れません」


「なっ!なんとっ?!死んだと仰せか?!!まさか!!」


キリエたちにとって、その言葉は思わぬものだった。

だが、あのアデルが負けたとすれば、自分たちに何が出来ただろう。

恐らく “何も出来なかった” それが巫子の戦いなのだとわかっている。

2人で顔を見合わせ、腹を据えて息を吐く。

キリエはラグンベルクに胸に手を当て一礼する。

これからどこに向かうべきかはわかっていた。


「恐れながら、これにて失礼つかまつります。

我ら、一刻も早く神殿へ戻らねばなりません」


「火の所にイネスが来ていると聞いたが。神殿に戻るか」


「は、二の巫子にも守がおります、参じても我らでは力不足です」


壮年の経験豊富な騎士が、自分では役に立たないと言い切る。

その潔さにニヤリと笑った。


「身の丈を知るか、我らただの人間、万で向かっても勝てぬ事はある」


「承知しております。我らがおりましても無力であったことでしょう」


厳しい顔のキリエに、同情するラグンベルクが目を閉じる。


「辛いのう、ただの人間である事は」


「巫子の背を、お支えする事が我らの勤め。我らに出来ることをするのみでございます。

では」


一礼して2人は馬車を出ると、グルクで一気に地の神殿に向かう。

その羽ばたきの音を聞きながら、ラグンベルクが頬杖をついた。


「魔物か……

さて、なんの力も持たぬ者が集まって、どこまで出来るのか。

青の巫子は手はあると言うたが、はてさて、難儀な物よ」


いきなり燭台の火の中に現れた白銀の髪の巫子の姿が浮かぶ。

手が足らぬ、力を貸せと、いきなり遠慮も無しにぶつけた巫子に、苦笑した。

だが、その巫子の言葉は、苦い記憶を彼の中から引きずり出したのだ。



『 ラグンベルクよ、我は火の青の巫子マリナ・ルー。

知っているぞ、お前も子供の頃、赤い髪の巫子を見殺しにしたな。

その出来事は、お前の心の傷となっているはずだ。

ならば我らに手を貸せ。贖罪しょくざいせよ。その機会を与えてやろう 』



青の巫子と名乗るこの横暴にも見える巫子の提案に、彼は大きく目を見開いた。


あの日、巫子を名乗り登城した、あの赤い髪の少女。

微笑む姿は尊い程の美しさで、陽光の下でまぶしく輝いて見えた。

夕食後、潜んでサラ兄と会いに行った美しい少女は、明るくコロコロと笑い、その姿に恋心さえ浮かべた。


だが、その……少女は!!


翌朝、父王の元に、罪人として落とされた首が差し出された。


その、死に顔さえ可憐で、止まらぬ涙に父王に激しく叱責された。


ただただ口伝を守り、王家の権威を守ることだけを優先させる。

精霊の国の王家でありながら、そのいびつな口伝が許せない。


贖罪をせよというなら、せねばならぬ。

それは王族の1人として、やるべき事のように感じられた。

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