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赤い髪のリリス 戦いの風〜世継ぎの王子なのに赤い髪のせいで捨てられたけど、 魔導師になって仲間増やして巫子になって火の神殿再興します〜  作者: LLX
35、地の巫子アデル

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419、オパールの咆哮


「ひっ!ぐああ、ぐうううううう!!!」



王の部屋にいたアデルが、腹を押さえてその場に倒れ込んだ。

ちょうど王は気分転換も兼ねて、庭へおもむいている。

だが、ここは場所が悪かった。


「し、しまった!まずい、まずい、ここを、ここを出なければ!」


あまりの苦痛に腹を押さえてうずくまる。

うめき声を殺して、ベッドに手をつき必死で立ち上がった。


「ううっ、くっ、ぐうううう」


倒れるな、倒れるなアデル。

耐えるんだ、頑張れ、頑張れ!


自分を鼓舞しながら、小刻みに息を付きドアを開ける。

よろめきながら部屋を出て、壁伝いによろよろと歩き出した。

衛兵たちが気がついて、駆け寄る顔に向けて手を広げる。


「戻れ、私はここにいない!」


彼等は、何も見えないようにキョロキョロと辺りを見回すと、持ち場に戻った。


「く、くそ!くそっ!!こ……んな事になる。なんて!!ぐうっ!」


喉からあふれ出し、とっさに廊下にある飾り台の布を取り、グッとあふれて来る口を押さえた。

よろめきながら階段を降り、そして壁により掛かりながら廊下の突き当たりまで歩くと、ルクレシアが使う渡り廊下へと外に出た。

その瞬間だった。



「ぐぶうっ!!」



バシャアッッ!!バシャッ!


アデルの口から、大量のどす黒い精霊の血があふれて行く。

白い巫子服を汚し、バタバタバタと激しい音を立てて、闇落ちした精霊の石からあふれ出た血が、とうとうアデルの口から外へと解放されてしまった。


「げえっ、げええっ!!」


渡り廊下が血に染まり、板の隙間から屋根へと流れ落ちる。

すると、その血がまるで生きているように王子の部屋へと走り出した。

アデルがよろめきながら、壁により掛かり胸を掴む。

目がかすみ、強烈な胸の痛みに顔を歪めた。


「だ……駄目だ……うう……この……ままでは…………

なんと、無様な…………こんな、死に方を……

か、母様……母様……も、申しわけ……

お、御方様……こ、この不甲斐なき……ゆ、ゆる…………イネスさ、様……」


悪気に汚染されたアデルの身体が、一気に乾いて行く。


「オ……パール、オパール……た、助け……


来て、……来て!……ひ、1人は、1人は嫌だ……怖い……こわ……ごふっ、ごほっ!」


ボロボロ涙を流し、思わず自分のミスリルの名を呼んだ。

もう、どうにもならないのはわかっている。

聖獣である自分が、悪気を腹に入れるなど自殺行為だと、あの時、誰も倒せないとわかっている場で言えるわけがなかった。

涙も乾き、かすむ目で、そこにあるはずの空を見る。


オパール、オパール!早く、早く来て


怖い、怖いんだ、1人で逝くのが……怖い……


ああ、駄目だ、あいつに悟られちゃ駄目なのに。

こんな時に、僕が消えたら……



「母様、か、かあさ……次を、一刻もは……やく、次の兄弟を!


ガハァッ!ごほっ!ごほ、ごほっ!」



ドサリと倒れるアデルの身体がビクビクと痙攣しながら、顔の半分がいびつに龍の顔に変わる。


「アデル様!」


駆けつけたオパールが、アデルをそっと抱きかかえた。

普段表情の無い顔が歪み、唇をかむ。

どうしようもないことなのに、守れなかった悔しさに満ちて行く。

アデルがホッと微笑み、かすれた声でつぶやいた。


「オパー……ル、次……を、待て……


お前も、と……共に……たたか……ごふっガハッ」


アデルが咳をすると、口から血と共に砂が吐き出される。

オパールが急いでアデルの口元を腰から取った布で拭くと、顔にある龍のウロコがゴッソリ取れてしまう。

息を呑んで、それがこの世の終わりのように感じられて手が震えた。


「ア、アデル様……オパールも、オパールもすぐに、すぐに、お供致します。

どうか、黄泉にてお待ちください」


その言葉に、アデルが乾いて見えなくなった目で宙を探る。

重い手を上げると、オパールがその手を握った。



「馬鹿……だな、駄目だ……よ。オパー……次を、次を、たの……


ち、力に…………ああ…………


あ、ありが……と…………楽し…………かっ…………」



バサリと砂になった手が崩れ、アデルの身体が砂に変わって崩れ落ちる。


「ああ!!ああ、ああああ!!!」


オパールが、手の間からこぼれ落ちる砂を必死でかき集める。

だがその砂は彼の手から逃げるように板の隙間から屋根を伝い、一陣の風に乗って消えていく。


「ああああああああああああ!!

あああああああああああああああ!!」


オパールが、追うように風に向かって手を伸ばす。

そして、大きく息を吐きパタリと手を下ろすと、息を呑んで残された血だらけの服を抱きしめた。

服に残るぬくもりが、次第に冷えて行く。


「ううっ、ううううう」


それに耐えかねて顔をうずめると、腰から短剣を取り首に当てる。

一気にその剣に力を入れたとき、そっと何かが手に触れた。



『  駄目って、言っただろう?  』



「ハッ!!」


耳元に、アデルの声がした気がして短剣を落とし、ハッと顔を上げる。

忙しくあたりを探すが、何も見えない。

あふれる涙で景色がかすんで行く。

ギュッと巫子服を抱きしめ、声なき声で、オパールが咆哮する。

それでも、そこにもう、アデルの姿はなかった。


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