415、リリス、セフィーリアと再会する
姫が立ち上がって手を上げた。
「ご静粛に。話を戻しましょう。
とにかく、ここにシャラナが来てくれたのは助かるわ。水鏡で伝えることが出来るから。
パドルーの水月の剣も水鏡を使えるけど、彼女の水月は長時間の交信が出来ないの」
パドルーの持っている剣、水月は短時間は持ちこたえるが、長くなると眠ってしまう。
剣はそれぞれが性格と得意があるらしい。
「ベスレムにはグレタガーラがいるから、水鏡が使えるわ。
何より、まずはあの方に知らせなくてはならない理由は1つよ。
有事があれば、あの方には王位継承権が戻される。
よろしくて?王や王子、そして宰相殿に何かあった時、次の王はラグンベルク様になるかもしれないわ」
「それはおかしい、次の王は赤がなるべきだ。
今更復帰など片腹痛い」
青がお茶を飲みながら、フンと鼻で笑う。
だが、騎士達も皆、顎に手をやり視線が泳いだ。
「それをおっしゃるなら赤様も同じ、どちらが継ぐかで一騒動も考えられる」
「とんだ伏兵だ、俺はリリス殿しか頭になかった」
「まったくですね、まさか、玉座を狙っている者が他にもいるとは」
ミランの言葉に、はいっとリリスがスプーンを握ったまま手を上げた。
「私は玉座狙ってませんので、その辺お忘れ無く。
まして、王子はここに存命でございます。
失礼ですので皆様、お言葉にはお気をつけ下さい」
「グァー!」
テーブルの端っこで、千切ったパンをスープにひたしたものを食べていたキアナルーサが、元気にアヒルの姿で手を上げる。
彼はゼブリスからのことづてを聞いて、復活していた。
「まあ、玉座の話は王子の状況次第ね。権力争いなんて不毛だわ。
助け手がどれほどの数が来るのかは教えてくれなかったから、期待して待ちましょう。
とりあえずは受け入れ準備を」
「そうだな、建てた10棟の宿舎には最大200かな。
それで足りると思うが、食料はどうだ?」
レスラが手を上げ、少し思い出しながら伝えた。
「昨日話を聞いて、厨房仲間と話し合った。
村長に相談したら、教会に炊き出し用の大鍋があるらしいので外に釜を作る。
食材は近隣の村に余剰が無いか、村長も馬車を出して小麦、芋、野菜、かき集められるだけ集めると。
急な話だ、どこも自分たちの分は確保したいから、思うほどには余剰は無いかと思うが……
レナントの馬車も村人を同乗して回っている。
小麦だけはここにも余剰があるので、腹を空かせることは無いだろう」
「ええ、母様が、相当昔の飢饉を目にして、小麦だけは備蓄するのだとおっしゃって、村人が一週間は食える分を目安に常時倉庫に積んでいます。
……そうだ。母様に食料の手配を助力いただきましょう。
精霊たちにお願いすれば……どこにいても来て下さると……
母様……あれ?!母様が、あれ?何で?母様がいる!」
リリスがそう言って、立ち上がると外へ飛び出した。
「母様!母様!リリスのお願いです!かあさまーーー!!」
空へ向かって叫ぶと、風を巻いてセフィーリアが降りてきた。
「リーリ!私のリーリ!わかったのだな?私のことがわかったのだな?」
「はい!ずっと、そこにいらっしゃったのですね?」
セフィーリアの姿を見て、リリスが飛び込んで行く。
彼女のギュッと抱きしめる手に力が入り、キャーーーッと悲鳴を上げ、リリスを振り回しくるくる回った。
「うれしいのう!うれしや!!なんじゃ、今日はとても良き日じゃ!」
「お母様!お会いしとうございました!ずっと見守っていただいてたのですね!」
「そうじゃ、リーリが火の力と馴染むまでの辛抱じゃと、わらわは会いたい気持ちを抑えて、毎日涙を飲んでおったのじゃ。
よし!リーリは食料に困っておるのだな?話は聞いた!お買い物へ行くぞ!」
二度と離す物かとばかりに、ギュッと抱きしめて空へと飛び上がる。
だが、慌ててリリスが彼女の服を引っ張った。
「え?!え?!ちょ、ちょっと待って下さい!
私は会議があるので今は行けません」
「えーーーーーー!!!
やだーーー!!一緒に行くのじゃーーーーー!!」
何だか、セフィーリアのやる気が一気にトーンダウンしてゆく。
リリスが願うように、パンッと手を合わせた。
「母様!母様の大きな手にいっぱい食べ物を運んで下さったら、なんて夢のようなことでしょう!
リリスはそれを考えるだけで元気が出ます!
ああ、母様がいて下さって良かった。
リリスはなんて幸せなことでしょう。
だから、行ってらっしゃいませ!
リリスの喜びは、一緒にいるあの仲間達の喜び!
レナントやベスレムから、いっぱい兵隊さんがいらっしゃるのです!
リリスが準備万端でお迎え出来ると、わあ凄い!って、みんなおっしゃいます!」
リリスが手を合わせてうるうるとした目で訴える。
フッと息を吐き、地上に降りるとリリスを手から降ろした。
「仕方ないのう。だが!わしは子離れせぬからな!」
「は?子離れ?」
「なんでもない、では、リーリの頼みじゃ、ここで聞かぬは母の名折れ。
で、何が必要じゃ?」
「えっ、えーと、とりあえず、肉、野菜、果物、ある物何でも。
重なっても無いよりマシです。対価はちゃんと払って下さいね?!」
「わかった!リーリの、お母様すっごーい!を目指して行ってくるぞ!」
「お願いします!お母様がいらっしゃって良かった!やっぱりお母様は頼りになります!」
ポッと、真っ白い肌のセフィーリアの頬が赤くなる。
またギュッとリリスを抱きしめると、一気に空へと飛び立った。
それを見送って、クルリとリリスが振り返り、頭の上に両手で丸を作った。
「恐らく、これで食料はオッケーかと!」
屋敷の中から2人を見ていた一同が、座った目でため息を吐く。
「俺ァ、精霊王をおだてて利用する巫子ってぁ初めて見ましたぜ」
「全くだ、末恐ろしいガキだ」
レナントの兵達がぼやくと、神官達がコホンと咳をする。
ニッコリ笑うリリスは、詐欺師にもなれそうだ。
「さ!皆様会議の続きを!ハイハイ、中へ入って!」
「へーい」
当人に追い立てられて中に入る。
困り顔のグレンに、リリスが唇に指を立てた。
「母様は精霊王でも、私にとっては母様ですから。
力のある方に頼るしか無い今、それが母様である事は幸運でございます」
「はあ、私も何も言いようがございません」
「うふふっ!母様、とてもお優しくて、ずっと会いたいと思っておりました。
そうか、私の中の火が、安定するのを見守って下さったのですね。そっか……」
何だか嬉しそうなリリスを見るのも久しぶりだ。
「お好きなのですね、風の王を」
「だって!母様ですもの!」
笑って館に駆けて行くリリスにグレンが驚く。
彼はまだ15の子供だったのだと、ようやく気がついた気がした。
セフィーリアはリリスのお願いなんて、めったに無い物に自分から飛びつきますよ!
超ウルトラハッピー!お願いされた!って感じです。
ただ、リリスが言った、対価を支払えを覚えているかが心配ですw