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414、風の丘の会議

軽やかな小鳥の羽ばたきが聞こえ始め、窓から白み始めた空がようやく見えてきた。

そんな爽やかな朝、ふと嫌な予感に目覚めた地の巫子イネスは、バッと飛び起きると隣のリリスのベッドを見て絶望的な顔で悲鳴を飲み込みながら、やっぱり声を上げた。



「えーーーーーーーーーー!!」



リリスと同室になってウキウキしてたのに、いつも目が覚めるとマリナはリリスのベッドに潜り込んでいる。

昨日散々クレーム付けて、自室で寝るからとかうそぶいて、やっぱり寝てるじゃないか!!


「クソッ何だよこいつはっ!!こいつは〜〜〜〜!!」


浮かぶ涙をゴクリと飲み込み、イネスが飛び起きるとマリナにかかる布団をめくり、フォークリフトのようにザッと身体の下に手を差し込んで自分のベッドに移動させる。

そしてやおらにリリスの隣に入り込んだ。

狭いベッドは2人で寝ると密着度が凄くてドキドキする。

あったかいリリスにピットリぐいぐい身体を寄せて、ウフフフと不気味に笑った。


「フフッ、これで良し」


「う〜ん、何です?どうしました?」


元々早起きのリリスが身を起こそうとするのを、ガシッと押さえる。


「も少し寝ろ」


「え?なんでイネス様がここに??」


「いいから寝ろ」


「あ、もう明るいですね。僕は起きて皆様の朝食の準備を……ふああぁ……あ?」


サッと起き上がり、大きく伸びをしているとグイッと上着の裾を引っ張られた。


「頼むから寝てくれよ〜〜ちょっとでいいからさ〜〜」


イネスがうるうる目をうるませ、ポロリと一粒、涙が枕にしみこんで行く。


「ええ〜〜」


一瞬引いたリリスが、仕方なくもう一度布団に潜り込んだ。


「仕方ない地の巫子様ですね」


「えへへ」


何だか嬉しそうに目を閉じる。

リリスだって2度寝は気持ちいい。



「 あ? ああ? 」



ムカつく声が、イネスの背後から聞こえた。

バサッと、イネスがリリスの頭に布団を掛ける。


「え?な、何が起きているんですか??

青がめちゃくちゃ怒ってるんですけど」


「いいから、寝ろ!」


起きようとするリリスを、狭いベッド上でギュウッと抱きしめる。

ふわっと頬に赤い髪が触れ、ハッとリリスを抱いていることに、何故かあらためて気がついた。


はあ〜ッと息を吐いて、髪に顔を擦り付けスウッと息をする。

なんか〜、いい匂い。森の匂いがする〜


イネスがスーハーしていると、上からドサンとメイスが落ちてきた。


「ぐあっ!」


「ぎゃっ!ちょっ!朝から何やってんですか!」


「どけ!この!」


「なにがどけだ!この!赤は僕のだ、離れろ!無礼者!」


「誰が無礼だ無礼者!」


「無礼者が何が無礼だこの無礼者!」


結局、朝っぱらから険悪な2人の、無礼者の言い合いが始まってしまった。

リリスは自分の上と横で怒鳴り合い罵り合いでたまった物では無い。


「やめて、やめてくださいってば!誰か、助けてぇっ!」





「はあ〜…………」


朝食を取りながら、イネスが渋い顔で大きくため息を付く。

リリスもゆるいウエーブの髪は乱れてボサボサで、手ぐしでも治らない重症だ。

ゴウカが木の櫛で解こうとしたが、痛いだけで余計絡まってしまった。

お待ちくださいと言われたが、その後彼の姿は見ていない。


「ほんと嫌な奴〜」


イネスがぼそっと漏らす。


「だからー、もうせぬから許せ。

と言うか、なんで赤と一緒に寝ただけで私が謝らねばならんのだ」


ぷいぷい腹を立てるイネスに、食事を取りながらマリナがなだめる。

リリスはすっかり体調を戻し、イネスと並んで食事を取っていた。


「私はどちらが同室でも構わないんですが、朝からあの騒ぎはご遠慮願いとうございます」


ボサボサの頭で食べてると、ブフッとブルースたちが吹き出す。


「巫子殿、頭がボサボサですなー」


笑っていると、後ろに立つ神官に睨まれた。

怖い。


「ホホ、微笑ましいこと」


ルシリア姫が面白そうに笑って、真面目な顔になった。


「青様、赤様、武具の準備も進んでおりますわ。

レナントとベスレムからも、助け手がこちらへ向かっていると兄様から連絡がありました」


「えっ、レナントからはわかるが、ベスレム?」


ガーラントが横から驚いて声を上げた。

姫はニッコリ笑って顔を上げる。


「兄様は、トランと内々の不可侵締結を結ばれたわ。

これは本城には知らせてないと言うから、独断の条約交渉ね」


「御館様が、独断?だって?……」


ブルースが食事をやめて腕を組む。


「本城は今、まともな判断は仰げないと私が判断して知らせました。

よろしくて?」


「は、姫様のお考え通りに」


こっちはこっちで怖い。


「隣国との状況は落ち着いたから、兄様はこちらへ兵を送ることを決めたの。

兵の数が拮抗していると、自然と殺し合いになってしまうわ。

一方、圧倒的な数で立ち向かうと、兵は戦う気力を無くしてしまう。

それを期待しての増兵よ。

とは言え、城下でここまで人が集まらないとは思わなかったわ」


その言葉に、レスラカーンが手を上げる。


「先日オスローから使いが密かに来た。

城下に結集の折には力を貸すと。先日村へ来た者達の多くが、自主的に登城を控えている。

やはりあの村の粛清という命令には反感を持った者が多い。

オスロー自身があのような目に遭ったことで、部下達には密かに話は回っていると。

今城内は手薄になっている事だろう」


「なるほど、だがその話は悪霊には筒抜けなのでしょう?危険は無いのですか?」


ミランが少し心配する。が、シャラナが首を振った。


「今、登城を控えているのは騎士も同じですわ。気味悪く思って、辞めた兵も多くいると聞くし。

魔導師の塔も、塔に籠城している状況、今は汚される者が1人でも少ないよう、身を守ることで精一杯なのよ」


ザワザワと、1人1人が不安に駆られ小声でささやき合う。

コンコンと、姫がテーブルをスプーンで叩いた。

火の巫子の元に集まるのは一般市民。

なかなか兵や騎士は集ってくれません。

それはそうです、謀反を起こそうとしていると、疑いをかけられるのはたまったものじゃありません。

それほど、彼等は勝ち目の見えない少人数なのです。

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