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413、ラティは意気地無し

ラティが部屋の中を見て、呆然と立ち尽くす。

1人は金の長い髪をした白い肌に白くゆったりとした服、緑の瞳の光の塊のような少年。

そしてもう1人は、黒い髪に黒い瞳、そして真っ黒な服の闇のような少年。


ラティを見ると、白い少年が嬉しそうに飛びつき、ラティの手を取り部屋の中へと導く。

ラティが入った瞬間、部屋のドアはバタンと閉まり、結界か何かのように一瞬光る。

ハッと急に怖くなって、ラティが白い少年の手を振りほどこうと手を上げた。


「止めよ、リュシーが傷つく」


「リュシー?誰?」


黒い少年フェイクは、白い少年に手を伸ばす。


「リュシーおいで」


「フェイク、この子が泣いてたんだよ?可哀想、助けてあげるの」


「いい子だ、さあ、おいで」


リュシーは、無邪気にラティの手を引いてフェイクの所まで来ると横の長椅子にラティと一緒に座る。

ビクビクと見回すラティに、フェイクは彼の前に来ると顔をのぞき込んだ。


「これの望みは聞かねばならぬ。汝は何を求めるのか?」


「えっ?ラ、ラティは……」


「ラティ!可愛いお名前だね、僕はリュシーだよ。

ここでね、ガーラを待っているの。こっちはお友達のフェイクだよ」


「ラティは……」


リュシーの無邪気な優しさに触れて、また涙があふれ出す。

リュシーが横からその涙をペロリとなめて、ギュッと手を握った。


「わかった!しゅぎょう、と、たすけで、だ」


ふむ、と、フェイクが顎に手をやる。


「良かろう、汝に導き手の師を与えよう。死人(しびと)の国への旅立ちを許可する」


「えっ?ラティにはそんな時間は……」


つぶやいた瞬間、ラティの眼がぐるりと白目になり、ドサンと椅子から落ちて倒れ込む。

リュシーが、ツンツンと、その身体を指でつついた。






「おい、起きろ」


誰かが声をかけるが、気がつかない。

また声をかけようとして、顔を背けると思い切りラティの身体を蹴った。

ポーーンと彼の身体が飛んで行き、ドサンと砂の中に落ちる。


「うう……痛い……なに?」


頭から落ちて、首をさすり顔を上げる。

ザンッと、大きな男の足が眼前に落ちてきた。

そうっと上を見上げる。

白い服の筋肉の隆とした真っ赤な髪の男が、腕を組みジロリとラティを見下ろしている。


「だ、誰?」


「立てぃ!王の前ぞ!シャンとせぬか!」


地響きのする怒声に、ラティが飛び上がった。

赤い髪の男は、ラティの周りをゆっくりと巡り、一周してニイッと笑う。


「ククク、ミスリルか、久しいのう。

黄泉に生者のミスリルが来るなどめったに無いがな。

お前を強くせよと言われたが、相違ないか?!」


「え??……は、はい!間違いありません!」


「良し!まずはこれに酒……じゃなかった、川の水を汲んでこい!」


ザッと足下の砂の中から桶を取り出し、ラティに差し出す。

黙って指さす先を見ると、川があった。

桶を持って、川に走りドボンと入れる。

桶はあっという間に溶けて川の中に消えた。


「えっ??!!」


砂で出来た桶は、川の水で崩れてしまう。

立ち上がり後ろを見ると、赤い髪の男が首を振った。


「やれ、我が弟子は一度で汲んで見せたが、あれは特別か。

あれは今だに桶が砂などとは、気がついてもおらぬ。

さて、

ぬしはミスリルでありながら、全くなってない。

それでは真後ろに敵が来ても気がつかぬであろう。

ここはお前の肉を鍛えるのでは無い。

鍛えるのはここだ」


ドンッと、拳で胸を叩く。


「でも、ラティは強くなりたいんです。心なんかどうでもいいんです」


「なにいっ!!  馬鹿者ッ!!!  」


声から巨大なハンマーのように圧力が来て、ラティの身体が吹っ飛んだ。

また頭からドスンと着地して、ゴロゴロ転がっていく。


「それ見よ、お前の身体はとっさの判断が出来ぬ。

蹴られたままゴロゴロ銅鍋のように転がるだけよ。

お前の身体はミスリル、鍛えずとも生まれつき成しておる。

だが!お前は心が未熟だ。

短期間でビシバシ鍛えてやる。

この!ヴァルケン王自らだ!頭を下げよ!(あが)めよ!ひれ伏せ!感涙せよ!許す!!」


え、え、えーと、


「いてて……あの、ここどこですか?」


「何じゃ、そんな事もわからんのか。

ここは、黄泉だ!!」


「よ……み???って???」


イラッイライライライラ


赤い髪の男の目が、イラついてつり上がった。

ザッと片足を後ろに引いた途端、ラティが悲鳴を上げて逃げ出す。


「蹴らないでよおっ!!わかんない、ここが何処かわかんない!

ラティはルクレシアを守らないと駄目なのに!」


男はザッザッザッと歩み寄ると、ラティをつまみ上げた。


「ここは死の国だ。死人の国よ!わかったかっ!!」


「え?えっ?えええっっ!えーーーーーーーーーっ!!

ラ、ラティ……死んじゃった?」


「心に決めた主がいるなら腕を磨け!

主の死んだ姿が見たければ帰れ!

わしはお前などどうでもいい!!」


ポンと彼を投げ捨ててクルリと身を返し、砂の荒野に踏み出して行く。

ラティが、目を見開きザッとその場にひれ伏した。


「教えて下さい!僕は主を守りたい!!

僕は急がなきゃならないんだ!」


王がニヤリと笑って振り向くと、赤い髪を一本抜いて、フッとラティへ向けて吹いた。

一本の髪はヒラヒラと、白い砂の上、彼の前に落ちる。


「拾うが良い」


ラティが言われるまま手を差し出す。

拾い上げる瞬間、髪はピンと張って1本の針になり、彼の手に刺さって消えた。


「痛っ!あ、あれ?無い」


「その手で砂の中に手を入れると桶が出来る。

回数はその手の指の数だ。水が汲めたら合格とする」


風が巻き、王の姿はその中に消えて行く。

ラティが慌てて王に向かって駆けた。


「待って!ラティには無理です!急ぐんです!」


「意気地の無き事よ、ふがいない。なに、ここの時間と現世の時間は差異がある。

それが早いか遅いかはお前次第。

時の隔たり無く、黄泉へ自由に行き来出来るのは火の巫子のみ。

巫子でも無いお前なれば、それは大きい隔たりとなろう」


「ならば余計に急がなければならないのに!

王様!どこかの王様!僕は教えてくれなきゃ無理です!」


「無理と決めた時、お前の歩みは止まる!歩け!

前に進むことを望まぬ者など、教える価値も無い!ワハハハハ!!」


「えーーーーー!!」


消えた王の姿を探して、辺りを見回す。

ラティは呆然と、指先に肉球の名残のある手を眺める。


「なんて酷い奴だろう。王様なんてウソだ。

でも、一刻も早く帰らなくちゃ、帰るすべなんか知らないけど。

僕にはきっと、これが必要なんだ」


チクチクする手を見て大きく息を吐き、両手でバンッと顔を叩くと、顔を上げて川に向かった。


守りたい、なのになにをしていいのかわからない。その力も無い。

ミザリーは、時に共闘もすると言いました。

横の関係で協力して主を守るのだと。

ならば何故宰相は守られなかったのか、それはランドレールが王子の身体だからです。

表向き叔父の部屋を甥が訪ねた。そして深い仲になった。それだけのことです。


見えない敵から守るすべのない彼等は、ただ自分が汚されないように身を守っています。

どう動いていいのか戸惑っているのは、ミスリルたちも同じかもしれません。

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