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409、ルクレシアの本心

ミザリーの手が、驚きに止まった。

次の質問を求められ、かえって混乱する。

ルクレシアは彼女を跳ね飛ばすのも忘れ、クスッと笑った。


「他に質問は?」


「も、目的は?何故王子を?」


「さあね、あいつは汚した相手を苦も無く乗っ取る。

僕が最初に会った時は、城の兵の身体だった。

くくく、凄い、受けるこちらが気絶しそうなほど絶倫だったな。

聞きたいかい?」


楽しそうに話す彼に、ミザリーが眉をひそめる。


「ご遠慮致します」


「クク、王子だったのなら、王子の身体が必要だったのだろうさ。

王族なら王族の生活しか知らないだろう。

目的?そんな事、簡単さ。この国を手に入れる。

力を持った誰もが考えそうな簡単なことだ。

もういいかい?僕の守が切れそうだ。君の身体を引き裂いてしまう。

僕は守に人を殺させたくないんだ」


ミザリーがサッと身を落とし、ラティの鋭い爪を避けた。

幅の無い橋の上、隠れるところは無い。


「ガアーーッ!!主様から離れろ!」


背後から襲ってくるラティへ、スカートを上げ振り向きざまに蹴りを出すと、戦った経験の少ないラティは思わずよろめく。

その瞬間、ミザリーが飛び込み、拳でラティの腹を殴り飛ばした。


「ギャンッ!」


殴り倒されて、痛みに身体を丸めると背中の毛がザワザワと波立つ。


また身体中、針になる!

いいや、いっそそれなら武器になる!


牙を剥いて、ラティがなるがままに身を任せる。

だが、それに気がついているのかいないのか、ミザリーはルクレシアの前に立ちラティに忠告を始めた。


「お前、その戦い方では、私が避けたら主が死ぬぞ。

修行が足りぬ、はぐれか。

主を守りたければ、主の前に立て。

私が主を引き倒す前に私を止めろ。

私がナイフを突き立てる機会があまりにも多すぎる。

何の為の守だ」


ラティが、ハッと顔を上げる。

ミザリーが小さく首を振る。その守り方では駄目だと。

その忠告は、ラティの変貌を止め、彼の心の熱をサッと引かせた。


うう……


うめいて、ラティが手をつき、ミザリーを見上げる。


「主様を、守りたい……だけなんだ」


涙が浮かんで、ぐすりと鼻をすすった。


「技量が無いからと、安易に力を出すな。

我らの力はここぞという時の為の物。

だが、使いこなす為の鍛錬は必要だ。

お前はまだ鍛錬が出来ていない、安易な行動は主さえも危うくするぞ」


ビクンとラティが震える。

ルクレシアを、自らの力で殺すかもしれないと。

彼女は止めてくれたのか。


ルクレシアが息を吐き、身を起こすと笑った。


「ふふっ、僕の守はお前達の里の出では無い。

そのくらいにしてくれないか?まだ子供なんだ」


「そのようでございますね。

では私は、おいとま致します。

色々と教えて頂き感謝致します。

また、お会いすることもありましょう」


「どうやったら強くなれる?!ラティは知りたい!」


声を上げる彼を、振り向き彼女が見つめる。

そして首を振った。


「里ははぐれが入ることを許さない。だからお前は自分で強くなるしかない。

お前が強くなる為には師が必要だろう。

だが、現状を見よ、もうすでにその時では無い。

お前の主はあの魔物の懐に入ることで魔物の動きを抑えている。

それはとても危険なことだ」


死にかけたルクレシアの顔が、パッと脳裏に思い浮かぶ。

ラティが涙を流しながら顔を上げた。


「ぼ……くは、この御方を守りたい、ただそれだけなんだ」


「常に、先を読むことが大切だが、お前にはそれが無理だろう。

我らミスリルは、一見個別に動いて見えるが横の繋がりは重要だ。

それぞれの主に別れ、主の動き次第で共闘と別れを繰り返す。個であるが時に面で守るのだ。

我らでさえ、1人の御方を1人で守る事は難しい。

助け手を探せ。私に言えるのはそれだけだ」


それは、ラティにとって難題だ。

彼に手を貸す者がいるはずが無い。

ルクレシアには、十分にそれが予測される。

だからこそ、ラティに逃げて欲しいと思うのだ。


「では、私はこれにて」


丁寧に一礼するミザリーに、ルクレシアが立ち上がって手を胸に当てた。


「守にご指南感謝する。

また会うこともあろう」


彼がまばたきをする瞬間、彼女の姿が消える。

ルクレシアが服を直すと、サッとラティがそれを手伝った。


「良い、お前は私を守らなくてもいいのだ。

彼女の言葉は忘れよ」


「いえ、修行もしていない私は、目が覚める思いでした。

ラティはあなたをお守りしたいのです」


ルクレシアが困った子だと彼の頭を撫で、不意に指に痛みを感じる。

見ると、指からぷっくりと血が出て流れる。

ラティがその血を見て、ブルリと震えた。


「お前の力とは、これか……あとで話しをしよう。私も知らねばならぬ」


「はい……」


ルクレシアが、扉を開けると宰相の部屋へと向かう。

馬鹿を装ったが、彼女には通じなかったようだ。

あれは、ラティに調べさせてもわからなかった眼の鋭い王妃の側近か。


『 お前の主はあの魔物の懐に入ることで魔物の動きを抑えている 』


フフッ、さすが鋭いな。

だが、自分が彼と共にいる理由は、彼女が感じたものとは少し違う。

彼女は王家を守る為にと思ったのかもしれない。

だが、違う。


自分はここへ来て、彼と言う、本物の魔物と向き合ってしまった。

王家を、この城をどんどん浸食していく(さま)は、普通なら寒気がしただろう。

自分は最初、心躍(こころおど)っていた。

だが、それが真に破滅をもたらす事だと、思いとどまるのに時間はかからなかった。


自分が肌を重ねた男達は皆、明日を見ていた。

出世を望み、金儲けを口にし、時に家族のことをうっかり漏らして苦笑する。

それは、苛立つほどに夢を見て、志を高く持つ男達。

自分は自然と、視線が上にある男達ばかりをベッドに誘っていたのだ。

そう、皆、明日もこの国が存在していると疑わない。


そして、最後に出会った彼は野望が突出していた。


しかし……今、彼は、壊れ始めている。

殺されかけて、確信を持って目が覚めた。

自分は、彼の為に、彼が壊れぬようにここにいる。

悪霊に、魔物になってしまった彼は、きっと誰かが倒しに来る。

彼が壊れて巨大な化け物にならぬように、私は死んでも彼の枷にならねばならぬ。


だからこそ、ラティを自分から引き離したい。

あの子を一刻も早く解放しなければ。あの子も壊れてしまう。


ルクレシアは宰相の部屋のドアの前に来ると取っ手に手を掛けながら、これからをどう行動した物かと、小さくため息を付きドアを開いた。

ルクレシアは彼の為には動かない。

でも、彼のかせにはなろうとしています。

足を引っ張るのでは無く、見守るという事です。

悪霊となった彼の心の内があまりにも自分と似ていたので、同調からの同情もあります。

誰かが彼を倒しに来るまで。

それが誰でもいいのです。

共に死んでもいいのです。

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