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403、火の巫子は双頭の竜

マリナはキアナルーサの泣き声を背に、祭壇の部屋を出ると、イネスの部屋におもむいた。

ホムラがドアを開け、リリスの傍らにいたエリンが顔を上げると、しっと指を当てる。

カナンはリリスのベッドにもたれたまま、眠ってしまっていた。

近づく気配でハッと身を起こしてこちらを向いた瞬間、マリナがそっと彼の目をふさぐ。


「眠りなさい、お疲れ様。

リリは病気じゃ無いから大丈夫だよ」


ふわりとまたベッドに伏せた彼を、グレンが抱き上げ彼の部屋へと連れ出した。


「さて、僕も休もうかな。

ちょっと赤には聞きたいことがあるからここでいいや。

お前達も休んでいいよ。

ここには巫子3人いるが、ミスリルが火と地を合わせて5人もいる。

ここほど手強い館も無かろう」


ククッと笑ってマリナがリリスからタオルを取ってエリンに全部渡す。

ゴウカがリリスのシャツのボタンを留めて、整えると布団を掛けた。


「じゃ、お休み、私達の神官達。エリンも休むように。

お前達は守護者、休める時に休んで、我らを全力で守ってもらわねば困る」


「承知…… 致しました」


「お休みなさいませ」


神官達が頭を下げて下がると、マリナはするりとリリスのベッドに入ってしまう。

ホムラが1人、ドアの横にあぐらをかいて座った。

イネスのベッドの横で休んでいたサファイアは、頭を下げながらチラリと、隣のベッドでよだれを垂らし寝ているイネスを見て、明日の朝は荒れそうだと大きなため息を付いた。





『 赤、私の赤、君はゼブリスって知ってるかい? 』


目を閉じて、マリナが隣に眠るリリスに心話で話しかける。

リリスはしばらく返事をしなかったが、しばらくして囁くような声で返ってきた。


『 ゼブラと、王子がお呼びだった側近の方でしょうか? 』


『 そうかもしれないな。赤、少しは調子が戻った? 』


マリナがリリスの胸に手を置く。

熱を吸い取り、放散させる。

少しずつ、少しずつ。


ルークの尻を叩かねば、神降ろしをするたびにこれでは、赤の身体が持たない。


『 ありがとう、青。明日の朝は大丈夫と思います。

やはり神降ろしには身体が持ちませんでした。

最近の急激な変化によく耐えていましたが、やはり眷属がいないと受け流すものが何もありませんから、負荷が増えるばかりです。

心の臓を守る為に強制的に身体が睡眠に入ったのかもしれません。

カナン様にはお世話になりっぱなしで申しわけありません 』


『 相変わらずだね、赤は様様が抜けない。うふふ……

そのゼブリスって奴の記憶はある? 』


『 ええ、何です? 黄泉に行くにはまだお若いですよ? 』


『 うん、行ってないから探してみるんだ。

王子が殺したと言ったのに、僕は黄泉でそいつを認識してない 』


『 えっ? 殺した??

…… んー、あの悪霊、凄まじいですね。

とても仲良く見えましたのに。友を殺させますか 』


リリスが会った時の記憶を探り、思い出す。

ボンヤリとした物だが、マリナは気配を受け取る。


『 仕方ない、付けいられる隙を作ったのは彼だ。

だが、死ななかったらどこかで生きている。

意識があれば、赤の記憶の痕跡から追うことが出来るだろう。

…… ふうん、育ちの良さそうな奴だな 』


『 ええ、確かお父様は貴族院の長だと聞いたことがあります。

王家の側近の方はそれなりの地位の方だと。

ザレル様…… 父から、あんな物には近づくなと言われてました。ウフフ…… 」


リリスは父や母のことを語る時はとても嬉しそうだ。

本物では無いのに、何故そこまで絆が強いのか不思議な物だ。


『 赤は父親が大好きだね 』


『 だって、やっと手に入れた家族ですもの。

今まで父や母と呼べなくて、寂しゅうございました 』


『 妬けちゃうなー、私は? 赤にとって私は? 』


『 青は私の半身でしょう? あなたは私 』


マリナが、パッと明るい顔になる。

リリスの首元に頭を押し込んで、肩に頬をくっつけた。


『 私はあなた! 巫子の中でも火の巫子は双頭の竜。

僕はそれが嬉しいよ、僕は1人じゃ無い 』


『 私も同じですよ?

あの魔物は倒して浄化させねばなりません。

これ以上被害が広がらないうちに。

さあ、青も休まないと倒れますよ? 』


『 身体は寝てるよ。

僕は黄泉でずっと起きてたから、精神に睡眠が必要ないんだ。

夜はね、身体を離脱して王都を見て回ってる。

昨夜は王妃を見に行ったよ。

心配なのだろうね、王の部屋の隣に移動してて、王女と寝てた 』


『 良かった、お元気なのですね。王とお話しは? 』


『 してないよ! したくもないね。さ、記憶を渡したらさっさと寝て。

赤が倒れるとみんな大変だよ、大騒ぎ。

まったく、いきなりバッタリは最後にしてよ? 』


『 はいはい、そうですね、少し力の配分がわかった気がします。

………… ね、マリナ…… 』


『 わかってるよ、リリ。

セフィーリア様を見なかった?でしょ? 』


『 恐らく、ここを火に譲り渡したのかと思います。

火と風は共にいると時に被害を呼ぶと母様から聞いた事があるので。

我らの力がどのくらい制御出来ているかをご心配なのかと 』


『 わかった、探してみる。

見つけたら一度帰って欲しいと伝えるよ 』


『 よろしく…… お願いします 』


スウッと、寝息が聞こえる。


『 お休み、リリ 』


マリナの霊体が身体を抜け出し、室内を見下ろす。

隣のベッドで眠るイネスに、降りると額にキスをした。


『 祝福だ、お前の剣が本物になる時が来た。

真の地の巫子、良き巫子になれ 』


ふわりと壁を突き抜け上空へと飛び立つ。

マリナが一度館を見下ろして、そして上空に声をかけた。


『 セフィーリア様! 」


空にはこの館を守るように、薄く大きくこの丘を包み込みようにして、セフィーリアが優しく見守っていた。


火の巫子は2人で1人、心話を普通にします。

声を出すか出さないかは、忘れるほど自然な会話です。

ひっそりとした物ですが、リリスは慣れていない為に、332話等で時にダダ漏れになっていました。

まあ、これからは意識しなければ、もう二度とあんな拡声器みたいな事はないでしょう

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