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401、オーバーヒート

その夜、カナンは空を見上げて月明かりを仰ぐと、井戸から水をくみ上げ、桶を持って館に入って行く。

イネスの部屋の前でドアの番人のように座るホムラに、軽く頭を下げてノックして中へ入ると、エリンとイネスが、眠っているリリスの横にいた。

イネスがため息を付き、疲れたように自分のベッドに座り、ボスッと横になる。


「リリ、全然目を開けない。癒やしが効いてない気がする。なんでだ〜」


「カナン殿、お疲れでしょう。あとは私がお世話致しますからお休み下さい」


カナンから水を受け取り、エリンがリリスの額のタオルを水に浸すと、絞ってまたリリスの額に載せる。

カナンがリリスの胸に載せていた大判のタオルをザブンとつけて冷たい水にひたし軽く絞り、リリスのシャツの前を開いて胸に触れる。

まだかなり熱く、冷やした大判のタオルを広げて胸に載せ、首に載せているタオルも水に浸して絞ると載せた。


さほど苦しんでいる様子は無い。

だが、彼は城の兵士達を介抱に来た村人や騎士と帰宅途中、突然歩けなくなりそのまま昏倒してしまった。


あまりの高熱で慌てる騎士達だったが、マリナによると日の神降ろしには成功したけど、眷属がいないので熱のコントロールが上手く行かないらしい。

通常、熱の発散は眷族に頼るものらしいので、熱がこもって身体は凄まじく熱くなっていた。


騎士達はそう言えば、旅の途中ではぐれミスリルの兄妹に襲われ、黄泉に行って初めて借り物の指輪を使った時も、彼は熱いと川に入ったのを思い出す。

あまりの熱さに身体が自然と活動をやめたのだろうという。

まるで、ロボットのオーバーヒートのようだ。まあ、それを思い浮かべる物はここにはいない。


「もう一度水につけた方が早くないか?」


イネスが横になったままつぶやく。


「いえ、わからぬ事ですので、青様の仰る指示に従ったが賢明かと。

だんだん熱も引いてきたようです。

一晩眠って休めば大丈夫と仰せでしたし。

病気ではないので、これで様子を見ましょう。

後は私に任せられませ。

エリン様もお休み下さい」


「いえ、ご心配なく。

私はこの方に命を救われた身。出来るだけのことをしたいのです。

他の神官様にも任せて頂きましたし」


「まあ、任せてと仰っても、外にいらっしゃいますが」


カナンが苦笑してドア向こうの廊下にあぐらを組んで座るホムラを指さす。

ふと気がつくと、イネスはとうとう睡魔に負けている。


「巫子様は皆様お疲れですね」


イネスのサンダルを脱がせ、足を上げてそっと布団を掛けた。


「…………リナ……マリナ…………」


リリスが突然、小さく口を開いた。

声をかけようとするカナンに、エリンが手で制する。


「……これは……いけませ……マリナ……はい……は…………


……わかり…………頼みま…………」


リリスが眉をひそめ、小さくつぶやくように寝言を言う。

カナンがエリンと顔を見合わせると、エリンが立ち上がってドアを開けた。

部屋の外にはホムラがあぐらをかいている。


「ホムラ殿、赤様が青様に何か託されたような寝言をおっしゃいました」


ホムラが顔を上げ、うなずいて立ち上がる。


「承知した、青様の元に行く」


部屋に向かいかけた時、居間からアイネコが勢いよく駆けてきた。


「大変ニャーーー!!キニャンが!!」


アイネコが階段を駆け上がり、ホムラの前を駆け抜け白い布が沢山下がる祭壇の部屋に飛び込む。

祭壇の前で、マリナはあぐらを組み目を閉じてうなだれている。

いきなり飛び込んだアイネコを、追って部屋に入ってきたホムラがサッと捕まえた。


「邪魔は……」


「マリにゃ!キニャンが変だニャ!消えそうになったニャ!」


「少し待て」マリナは微動だにせず一言告げる。


「うにょぉ〜〜はやくぅ〜」


じっと(こうべ)を落としてリリスと心話で語り合っていたマリナが、アイネコがジタバタしているとやっと顔を上げた。


「王子が、やはりそうか」


「ぽや〜んとして、消えそうになったニャ!

消えちゃったらどうしよう!」


マリナが部屋を見回し、あーとため息を付く。

スッと外の庭の方角を指さした。


「グレン、水路に落ちて流されてる。

ほぼ粘土状態だから、わかりにくいかもしれない。

僕が誘導するから連れてきて」


「はい、承知しました」


グレンがサッと部屋を出ると、風のように庭に出た。

水路の道は、頭に入っている。

それに沿って、月明かりの下を行くが、暗い水路は水音がするだけで見渡せない。

だが、彼はミスリル、夜目が利く。


『 グレン、もう少し先。その先の角の小川の合流点。

最近みんなで掃除したから結構流されたな〜

草が生えているところに引っかかってる。

あー、急いで、小川に流されたら町中に入っちゃうよ 』


頭に響くマリナの声にのぞき込むと、水路の中でいびつな形のものが水に流され、団子状に固まっている。


『 あーあ、僕がやっと作ったのに、また丸くなってる。取れるかい? 』


「取ります」


グレンがすくい上げようとすると、指の間から抜けそうに柔らかくなっている。

グレンが視線を左右に走らせる。

深夜だけに、人の姿は無い。

彼の白装束から出た手が、変化して爬虫類のような手に変わる。

手に水かきのようなものが出て、バッと指を広げキアナルーサの粘土状の塊をすくい上げた。


ゆるいそれをクルリと丸め、表面をなめらかになでる。

まん丸にかたまり、なぜかピョコンと、アヒルのような足が1本飛び出てきた。

それを持ち、館に急ぐ。

丘を登ると、彼がいつも眺めている居間の窓が開いている。

外から窓を閉めて、祭壇の部屋に急いだ。

オスローを乗っ取ったランドレールが出てきたとき、リリスが出られなかったのは気を失っていたからです。あの一件の時、イネスとサファイアはこの部屋で彼を守っていました。

マリナはリアルで実体が動くことはあまりありません。

火さえあればどこにでも姿を現す事が出来ます。

左手が肘までしか無い彼ですが、彼は火の中の幻影で出てくるときは、片手だったり両手だったりします。

リアルで片手を再生するのも容易なので、不自由を感じたら元に戻すときも来るでしょう。

魔物に翻弄させられたメイスが、リリスも頼れる相棒になって心強い事です。


*カナンをアデルと名前を間違えました、申し訳ないです

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