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391、はあ???って言いたい気持ち

リリスが厳しい表情で地に押さえつけられた兵達を見下ろす。

フウッと吐く息に炎が混じる。

その様子は、まるで伝説に聞いた火のドラゴンのようだ。

手は怒りに硬く握られ、キッと傭兵達を、その背後に見える悪霊を見据えた。


「 (つるぎ)は火と鉄の砂から出来ている。

 我は火の巫子、その意味なき剣など全て砂に戻して見せよう 」



毅然と言い切る、太陽のように輝く巫子にその場の皆が目を見開く。


「な、何だってんだ、巫子って一体何なんだ? 」


リリスは息を吐き、その男と一般兵を切ろうとした戦士の腕を指さす。

傭兵達が、恐れおののいた。



「 無礼な者共よ、その手で精霊の国の民を切るべからず。

しばし不自由な時を送り、守られた時を思い出すが良い 」



すると、風も無いのに剣であった砂が、サラサラと意志を持つように地を這い、2人の両腕に巻き付いて行く。


「な、なんだ?砂が、砂が! 何をする?! やめてくれ!! 」


グルグルと上腕から手首まで腕が見えないほどに巻き付き覆い尽くすと、熱を出さず赤く輝き、砂が鉄に変わる。

その腕は鉄の鎧に覆われたように重く、そして肘が固定され曲げる事が出来ない。


「ま! さか!! 腕が動かない!! 」


「ひ、ひ、助けて、助けてくれ! 」


「嫌だ、外してくれ! 誰か! 外してええっ!! 」


「はずしてくれえ!! 」


肘が曲がらなくなってしまい泣きながら懇願する傭兵をいちべつして、顔を上げると他の傭兵達を見る。

彼らは地に這いながら、思わず戦慄した。


「おっ、お許しを!! 」


恐怖から1人が声を上げると、次々と声が上がった。


「お許しを! 」

「お許し下さい! 」

「戻ります!村人に危害は加えません!! 」


次々に声が上がり、一体後ろで何があったかわからない者も、まぶしく光るリリスの姿に何か恐ろしい事があったのかと恐怖を呼んで一緒になって声を上げはじめた。


リリスが見回し、ああ…… と悲しげにため息を付く。



「 お前たちの浅い(こころざし)よ、それは誉れ(ほまれ)高き戦士に遠い。

  修行し直してくるがいい。


  汝らの得物(えもの)よ砂に戻れ。


  大地の精霊よ、この者達を故郷へと戻せ 」



リリスの声に応えるように、彼等の武器が一斉にドサリと重い鉄の砂に変わった。

傭兵達のいる場の地面が一瞬輝き、そして地面から無数の手が伸びてくるとズブズブと彼らの身体を地中に引き込んで行く。



「 ギャアアアアアア!! 」


「「 助けてくれええ!! 」」



まるで先ほどまで固かった地面が、一瞬で底なし沼に変わったように、傭兵達の身体が小さな手に引きずり込まれて行く。

阿鼻叫喚の声を残して、傭兵達がすっかり地面に姿を消した時、息を付いて腰に手をやり、リリスがつぶやいた。


「 ふうっ、もう! ちゃんと修行し治してくださいよ?

  ほいほい悪霊と縁を結ぶなど、戦士の名折れです! 」


パッと火花のようなものを散らして髪をサッとかき上げる。

そして、ふと空を見上げて我に返った。


「 あーーーーーー!! 」


ビクッと残された兵達が地面に這いつくばったまま見上げた。


「 何です? これ、凄い広範囲の方達に力が及んでいます。

  ああああああ、怒りにまかせてやってしまいました。

  力を絞らなくては、丘の騎士様方まで迷惑をかけます 」


慌てて多少ガッカリしながら、手を合わせ目前の兵達だけを押さえつけるよう力を絞る。

その頃、近隣の村や城下の町では、地面に張り付いた剣を持つ者が解放されて、一体何だったのだろうと不可思議な状況に首をひねりながら立ち上がっていた。


「 よし 」


振り向くと、一般兵達がまだ地面に押さえつけられている。

顔を上げて兵達の紐を見る。

やはり彼等にも、細い紐が無数に伸びて見える。

悪霊にとって、力の弱い一般兵など魅力に欠けるのだろう。


傭兵達も影響なかったようだし、間接的な紐付けなら…… 切ってみる!



「 火よ、悪霊との絆を断て 」



リリスが両手をパンッと合わせ、左手をサッと兵達に一閃する。

その手からは巨大な炎の塊が兵の身体を舐めるように次々と走り、兵達からは恐怖で悲鳴が上がる。


「ぎゃああああああああ!! 」

「ぎゃああああ!! しぬ! しぬううう!! 」


最後尾まで火が舐め尽くすと、城からの紐がすっかり焼け落ち浄化されていた。

リリスが、近くの兵の元に歩み寄り、しゃがみこんでのぞき込む。


「 ご気分は? お変わりないですか? 」


「は? はい、なんと言いましょうか、なんだか頭が明瞭で。

すっきりしたところで、この縛りを解いて頂けないでしょうか? 」


「 村を襲わないなら解きましょう 」


リリスが聞いた男は、他の兵とは格段に装備もしっかりして、横に側近らしき男も従えている。

少し道に外れているのは、馬から転げ落ちたせいだろう。

恐らくはこの男が隊長に違いない。


「それは…… 上の指示を仰がねば、私1人では…… 上のご命令なので…… 」


「 は? はあ…… 」


男の視線が泳ぎ、後ろの副官らしき装備のあつらえが美しい男に視線を向ける。

が、その男はリリスと目が合うとそっぽを向いてしまった。

リリスは驚いたように目を見開き、そして顔を上げ彼が率いてきた沢山の兵を見渡す。


自分で判断出来ない…… これだけの兵の命を預かりながら……

人の言う事にしか従えないなんて……


それが今の王家を写しているようで、怒りを通り越し、呆然とうなだれるしかなかった。

これだけの力を見せても、保身に走る隊長さん。

リリスは呆気にとられて「はあ??」って感じ。

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