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389、傭兵達に問う

アトラーナの兵達が、目を覚ましたように愕然と声を上げた。


「俺達は聞いていない!」


「クククッ、お前たち、王家に逆らうと言うのか?反逆罪は死、あるのみだ!」


横にいた、ひときわがっしりした男が、笑って大きな剣を振り上げた。

意見していた兵達が、凍り付いてその剣を見上げる。



『  剣よ、砂にかえれ  』



振り下ろそうとした瞬間、声とともに空から光が一瞬走り、その剣はビキッと音を立てて巨大な刃が砂鉄に戻ったようにボロボロと崩れ落ちた。


「なっ!! 俺の剣が!!」


「魔導師か?!どこにいる!!」


辺りを見回し、隣の傭兵が斧を振り上げる。

その時、


突然、まぶしいほどの光が音も無く空から落ちてきた。

それは一般兵と傭兵の間に立ち、あまりのまぶしさに兵達が下がる。



『 斧を下ろしなさい 』



頭の中に、言葉が直接響く。

光は次第に輝きを落とし、赤く燃える髪のリリスの姿が中から現れた。


「貴様!この化け物が!!」


戦士が斧を、リリスに向けて振り下ろした。

斧は霊体をすり抜けた瞬間、真っ赤に焼けて溶けた鉄がドロリと落ちる。


「うわっ!あっちっ!!」


鉄だまりは道に落ちると、あっという間に冷えて固まる。


「俺の斧がっ!!この!よくも!」


戦士は斧の柄を投げ捨て、腰から剣を取った。


「おまえか!巫子のかたりは!!」


問われてリリスは、自分を取り囲む傭兵達の今にも襲いかからんとする姿に目を閉じる。


『 正気でない者よ、お前の目に私がかたりに見えるのなら、お前にとってはそうなのだろう 』


「貴様!実体じゃないな?身体はどこだ!?あの、丘だな?


皆!!行くぞ!!」


リリスを無視して前に進もうときびすを返す。

そのあまりの判断の良さに、悪霊の気配を感じる。

傭兵達は悪霊との紐が太く、繋がりの深い者が多い。

ため息が出る。


「丘?あの丘か?!」


「そうだ、あの丘だ!そいつは幽霊みたいの物だ、実体じゃない!相手にするな!」


1人の男にそう言われて、ぞろぞろとまた列が動き、村へと向かいはじめる。



『  一同!待たれませ!!  』



リリスはキッと顔を上げて、耳をつんざくような声で頭に直接呼びかけた。

ギャと声を上げて、頭を押さえる者が多い中、悪霊との結びつきの深い者は変わりない様子でにらみ付ける。

どこか異常で、麻痺しているのかもしれない。


「実体のないものに用は無い!我らは村人もろとも(ぬし)らの首を取りに来た!」



『  ……なんと言う事を……  』



「お主のせいだ、お前がもたらした殺戮と知れ!わっはっはっは!!」


げらげらと、どこか奇妙な様子で一斉に傭兵達が笑う。

後ろの一般兵達は、突然現れた自分を恐れて下がっている。

傭兵たちは、悪霊と太く紐付けされている者が多いだけにどこか異様だ。

普通の村人を殺せと言われても、躊躇無く従うのだろう。


言いなりか、可愛そうに。


火で紐を切っても構わない。だが、乱暴な切り方は、気を狂わせるかも知れないとマリナが言った。

こんな紐付けをして、生者を操る悪霊など初めてなのだと。

元を絶つのが一番安全で簡単なやり方なのだろう。


ギュッと手を握りしめる。

村人の殺される場面など、想像したくもない。

だが、彼らはたとえ悪霊に支配されても戦士なのだ!

そこにあるのは、一方的な殺戮だ。


怒りに、心を決めた。



『 汝は戦士か?! 』



「おお、そうだとも、貴様はその誉れ高い戦士の命である剣や斧を粉々にした。

楽には死なせんぞ、千々に切り刻まれると震えて待つがいい!」



『  ならば問う!!


何故、そなたのような誉れ高い腕の立つ戦士が、守るべき人を問答無用に切り捨てようとなさるのか?!

理由もなく罪無き人を断つ、人の道をはずれし剣は正義の剣にあらず!


それはすでに戦士の剣ではない!!悪漢のならず者の剣であろう!


不埒者(ふらちもの)! 心せよ!!! 』



「なにぃ……」


傭兵がリリスを囲んですごんでくる。

だが、相手は実体のないだけに、手も出せない。


「この……、不埒者はどちらだ!臆病者め!

実体もなく、危害を加えられる事もないからそのような強気に出られるのだ!

我らの足を止めたくば、身体を持って来い!!」


「臆病者!何がならず者か、お前こそ愚かなかたりのくせに、俺が首をはねてやる」


「お前の前で首を落とされる村の奴らを見て、ガタガタ震えるがいいさ!」


ゲラゲラ笑って傭兵達がまた村へ向かおうとする。



『   ……なんと……愚かな……   』



リリスの髪が、ゴウと燃え上がった。

吐く息が火に変わる。

まさに、彼らのあおる言葉は、リリスの逆鱗に触れた。


「み、巫子様……」


「……どうか、怒りをお納め下さい」


一般兵達から、手を合わせてちらほらと言葉が漏れてきた。


そうだ、これがアトラーナの人間なのだ。

だから傭兵を、これまでの王は選択しなかった。

精霊に対するおごりが有る者は、精霊の国の兵にはなれない。

悪霊は、精霊を排除しようとしている。

ならば、その気概を持って対決しなければならないのだろう。



『 売り言葉に買い言葉とは、こう言うことなのでしょう。


私は、でも、嫌いではありません 』



頭の中で、マリナが笑っている。

騎士達には怒られる事は覚悟した!



『 恐れを知らぬ他国の兵士よ、これがアトラーナだと、身をもって知るがいい 』



リリスが怒りの表情で両手を空へと大きく広げた。


霊体だから、リリスは強気に出るのだと思っていますが、この強気は肉体がそこにあっても変わらないと思います。

無鉄砲だと騎士達に何度言われても治る気配もない、それがリリスの筋の通し方です。

傭兵の後ろには、ランドレールがいます。

自らは火が怖くて近寄れません。

自ら出る事はなく、人を操り思い通りに戦わせる、それが彼のこれまでも、そしてこれからものやり方です。

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