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388、巫子はかたりか本物か

日の神の手が消えて、リリスの霊体が下へ下へと落ちて行く。

霊体に重さは無いので、地上近くに戻っていると言った方が本当だろう。

落ちながら、腕を組んでうーむと考えた。


なんだかちょっと、意地悪なところはヴァシュラム様とよく似ている。


まあ、精霊って元来、こう言う方達だし。


ドサンと村の木の上まで落とされて、うーんと頭をひねる。

近くにいた村人が、樹上にまぶしいほどの光の塊が落ちてきて、驚いて家に逃げ帰った。

考えあぐねてリリスが、心の中で問うた。



マリナ!マリナ!今の覚えてますか?



『 まかせた! 』



でしょうね



『 あんなの、普通の人間が覚えてるわけないさ 』



ふーむ、



木の上にあぐらをかいて、心を落ち着け目を閉じる。

精霊の名って、人間には付けないような難しい名が多い。

自分は慣れてる。大丈夫。ゆっくり思い出せ。

間違えるとだいたい機嫌を損ねて、2度と会えない事もある。


シャシュラマシュリカは覚えてる。


シャシュラマシュリカ……

シャシュラマシュリカカシャ……違う。

シャシュラマシュリカ、カシュ……ヤ……ヤ……

カシュ……カヤ……

カシュカシャヤ……シャシュラマシュリカ、カシュシャカヤなんか違う。



『 先頭が村への一本道に来たよ。

 地の巫子が一応、木を通じて結界を張る 』



わかりました、行きます



木から離れないと、術の邪魔になるかな?

ポンと飛び立つと、驚くほど高く上がる。

広い、広い緑の地。

美しいアトラーナ。


広大な低い山々が連なり、森と草原と、そして遠く高台にあるお城。

城下には街があり、そして村が点在する。


国と言ってもそれほど人の数は多くない。

異界よりもうんと少ないけれど、自然の中で自然と共に生きている。

精霊も、この美しい自然の中で生きている。

自然を敬い、自然を恐れ、だからこそ精霊はここにいるのだと思う。


思うけれど、でも……火を欠いた事で、この自然のバランスは歪んでいる。

人が気がつかないところで。

精霊界も、人の世界も……


ああ……でも、

こんな綺麗な景色を見ていると、胸のモヤモヤを吐きだしてしまいたくなる。


世継ぎとか、王族とか、私には関係ない。

今はそんな物より神殿を起こす事で頭はいっぱいだ。いっぱいなんだ!!



「今更!今更そんな事言われてもですねっ!

私は火の神殿起こす事で頭がいっぱいなのですよ!!


王様は王族の誰かがなればいい!

でも、神殿は巫子がいないと成り立たないんだ!


私の代わりは誰もいないのですよっ!!王様!!


あなたたちがいつまでもそんなだから、こんな事になってるんじゃないか!!


この世界に必要なのは、火の神殿なのですよ!!あなたたちは何もわかってない!!」



大空に向かって、大きく手を広げて声を上げた。



「 僕は!僕は!私はーーーーっっ!!


この世界を守りたいーーー!!


守りたい!ただそれだけなんだーーーーーー!!! 」



霊体なので、声になってないと思う。

パンッと、両頬を手で叩いて気を入れる。

ちょっとすっきりした。


よし!


一息に村の入り口へと向かった。




城からは、王子の私兵である傭兵隊を先頭に、一般兵も交じって風の丘のある村を目指していた。

振り返ると、傭兵達は相当の数がいるのに、一般兵は100人もいない。

一般兵達は、巫子のかたりをする2名を捕らえ、加担する村人も抵抗するなら捕らえろと聞いている。

自分たちの仕事は、村人が逃げないように、この小さな村を囲って風の丘まで追い込む事だ。

だが、王子の傭兵達は一様に物騒な得物を持ち、捕らえるだけで済むのかと不安を呼んで、後方の兵達は村が近くなると次第にザワついてきた。


「本当にかたりなのか?あの火を見ただろう?」


「俺達は大変な事をする為に向かってるんじゃなかろうか?」


「俺の従兄弟が昔仕えていた方のご子息が、巫子様に助けて頂いたと言っていたんだ。

俺は恐ろしい、俺は途中で抜けようかと思っている」


「馬鹿な、隊長の顔に泥を塗る気か?」


「でも、あれは本当の巫子様だと思うんだ。お前はどう思った?」


「……お、れは、わからない。でも、王子の命令に背いても、神に背く事は出来ない。

俺は精霊の国の兵士なんだ」


「どうする?」


「どうしよう」


後ろの駆り出された一般兵は、遠く風の丘が見えてくると迷いながらボソボソと話し込む者が現れた。

ザワつく後ろに、傭兵達の一部が舌打ちして引き返してくる。

巨体に大きな斧を持ち、肩に担いで上から見下ろした。


「何をガタガタ言っている!!」


恐ろしさに思わず剣に手が行き、傭兵達の眼光の鋭さに慌てて手を離す。

1人が勇気を出して声を上げた。


「もし! もし、本当の巫子だったらどうするのですか?」


傭兵達は顔を見合わせ、大きな声で笑い出した。


「はっはっはっは!! 面白い事を言う奴だ。

だが、かたりの味方をする奴は同罪だと我らは言われている」


「そ、それはどう言う……」


「俺達はな、村1つ潰してこいと言われてるんだよ。

お前たち腰抜けは聞いてないだろうがな」


「つ、潰して??」


ニイッと無精髭に覆われた傭兵が、不気味に笑った。


「皆殺しだ」


愕然と、一般兵達が顔を見合わせた。

日の神の名前は、メソポタミア神話のシャマシュから付けました。

相当ひねた神様なので、名前もひねくれてるだろうという事で、めっちゃ言いにくい名前にw


巫子を殺す事を恐ろしいと思うか思わないか、他国の人間とアトラーナの人間では元々意識が違います。

他国の傭兵達は精霊の存在は普段から感じていても、聖地が身近ではないので、巫子と魔導師の違いさえも認識が薄いのです。

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