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387、日の神に願う

リリスがもう一度、手を打ち合わせて願う。


どうか、どうか、日よ、火よ、応えて下さい。


「我が(あるじ)にして、日の御方(おんかた)に物申す!

汝慈愛に満ち満ちて、御身ますます栄えあれ!

我、赤の火の巫子リリスなり!

その尊きお力を、どうかこの身に与えたまえ!



どうか………… 」



窓明かりに向けて、手を差し出した。

日の光がリリスに向けてサッと差し込み、リリスの赤い髪がボッと燃え上がる。

その両手に火が灯り、リリスはその火を頭上に掲げるようにして両手を広げる。

火はそれに応じるように大きくなり、部屋を炎の色に満たして行く。



「新たなる炎はここに生み出せり!

火は我が血と力の源となり、神の威信を世に知らしめる物となる!


火よ!我が血と力となれ!我は赤の火の巫子、常世(とこよ)現世(うつしよ)の橋渡し。

開け火の道、恐れ多くもかしこみ日と火の御神の息吹をここに!」


ボウと両手の火を左右に振り、そして頭上で左右の手を勢いよく交差する。

その炎はリリスの頭上で大きく渦巻き、彼の身体を包み込むと、ボボッと音を残して消え去った。


「日よ、我が願い聞き届けたまえ!」



パーーーーン!!



祭壇に差し込む光の中に、村へとやってくる大勢の兵の姿が映る。

背後で、皆がおお!とざわめく。

マリナがフフッと笑って、つぶやいた。


「見事」


「いえ、まだ確かにお応え頂いていません」


リリスは光に向け、大きく手を広げて右から左へと一閃した。


ボウッ!!


彼の手から、大きく火の塊が光の方へと吸い込まれて行く。


「とりあえず道は通しました」


「上出来だよ」


「では、参ります」


「僕は見てるよ」


「承知しました」


マリナが軽く告げると、リリスの身体からスッと透き通った彼の身体が抜けて、窓から差し込む光へ向かう。

残された身体は目を閉じ、うつむいてゆらゆらとゆらめき、サッとホムラが身体をすくい上げた。





リリスは一気に村の入り口に向かいかけ、ふとその場に止まると雲の切れ間から覗く太陽に向かって飛んだ。

高く、高く、あまりのまぶしさに普通なら目を閉じるのだろうが霊体なら気にもならない。

眼下の村も小さく、どんどん小さく見えなくなり、空が群青色になった頃、突然その声が聞こえた。



『   汝!  ……   どこへ行く?   』




やっと聞こえた日の神の声に、リリスがパッと嬉しそうに、その場に止まった。



「 主様!!お久しゅうございます。

あの時は大変お世話になり…… 」



ぺこりとお日様に向けて頭を下げると、遮るように言葉が続いた。



『  どこに行く!それ以上登る事、ならぬ!!戻れなくなる!  』



「 日の神のお力添えを頂きたいのです。

今地上では、火の眷族がどこかに封印されたままでございます。

このままでは…… 」


リリスが頭を下げ、願い出る。



『  指輪では足らぬと申すか!! 不遜なり!!  』



「 日の神よ、どうかお聞き届け下さい 」


リリスが顔を上げて、微笑んで告げた。



『  何を欲する?!  』



「 恐れながら……、  あなた様の、存在が 」



思わぬ言葉に、日の神が一息置いて吠えた。



『   不遜なり!!!   』



ゴオーーーーンン



空は晴れ渡っているというのに、雷鳴のような音が鳴り響く。

リリスがドスンときた振動に霊体が揺れて、フッと消えそうになる。

高度がガクンと落ちてクルリと一回りすると、どこからともなく巨大な光る手が現れ、彼の身体をすくい上げた。



『   何故、汝、我を必要とするのか述べよ   』



ホッと息を吐き、心を整理する。

リリスは手を合わせ、静かに嘆願した。


「 恐れながら…………、

火の巫子が死して、人が日の神を愚かにも忘れ去ったのち、人の命は短く、代が幾度も変わるほどの長い長い年月が流れました。

そののち人の世は悪気が大きく育ちましてございます。


指輪を預かる私は、日の神をお祀りする神の館さえ持たず、あなた様の恩恵に手を合わせるはずの人の子たちは、邪気払いを受ける事無く、悪気に飲まれつつございます。

これはもちろん、人の大きな過ち。

その為に日の神のお手を煩わせるなどもってのほか。

しかし、


しかし!!


今は大いなるあなた様のお力が、存在が、必要なのでございます!

どうか、日の神を祀る為、人に偉大なあなた様のお力を知らしめる為、どうか私にその名をお示し下さい 」


ヴァルケンは、なかなか日の神は名を教えてくれず、そしてその名は覚えにくいと言った。

名を知らないと、たとえ指輪を持っていてもその力の半分も出せないだろう。

それまでの巫子がきちんと国を清めて管理してきた時代と違って、今は城でさえ悪霊に乗っ取られるような時代だ。

力はあって困らない。

いや、過ぎる力が今必要なのだ。


合わせる手に力が入る。


どうか、

どうか、

あなたの名を!真名を!!




『  シャシュラマシュリカカシュカシャラ  』




「 は…… ? 」




『   以上である!!   』




「  はぁーーーーーー????  」




神の手が消え、リリスの霊体が、すとーーーんと落ちて行く。



「 なんですかーーーー!!その早口言葉はーーーーー!! 」



『  早口言葉とは不遜なり〜〜  』



日の神の声が、楽しそうに聞こえる。

きっと、人には覚えにくいのを楽しんでるに違いない。

精霊は誰もが、人が困るのを楽しんでいるように意地悪だった。


これまでの火の巫子が誰も覚えられなかった日の神の名前。

1度間違えると一切顔を出さず、正確な名を呼べる者はいませんでした。

それはたった1回、隙を突いたようにパッと言って消えます。

リリスの記憶力がどこまで覚えられるか、彼はセフィーリアの弟子でも一番の記憶力。

日の神はどうせ覚えられないと高をくくってます。

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