386、日と火の双子神
城内でリュシーの散歩に付き添うフェイクが、大きく目を見開き空を見た。
呼応する事が出来ない。
自分が何者かがわかってしまう。
自分は精霊、身体は1つではない。
だが、分霊してもヴァシュラムのように、1つが弱体化しては巫子の力になれない。
あれを見ると、状況次第では悪手だと良くわかった。
今、あの白い髪の地の巫子はたいそう苦しんでいる事だろう。
巫子は大切にしなければ、代わりは無いのだ。
代わりは、無いのだ……どんなに愛しても、力を送っても、剣1つで死んでしまう。
無知な者から守ってやらねば、また失ってしまう……
リュシーを花に囲まれたベンチに座らせ、小振りの白い花を1つ摘むとリュシーに与えた。
嬉しそうに、指先でくるくる回し、日の光に高く掲げる。
花弁が日に透き通り、フェイクが並んで座るとそれにフーッと細く長く息を吐く。
息が白い炎に変わり、くるくる回す花に合わせて小さく渦巻き、キラリと光ってパッと散った。
「キャッ!きれい!ね、きれいだったよ!もう一回して!
ねえ、ねえ、」
はしゃぐリュシーに微笑み、フェイクは膝にもたれて甘えてくる彼の頭を撫でると、無言で空を見る。
フッと、胸に暖かな光が入り込み、懐かしい声が聞こえた。
” なぜだ?! 何故ここに??!! 黒い、闇のるつぼのふちに! ”
日よ、久しいな
我が巫子が呼んでいるが、今、我はこの子を守らねばならぬ故、応える事が出来ぬ……
” それは地の子か! ガラリアは? あの美しい人の子は?! ”
あれは今、地と1つになり、人で無くなったので、力を押さえるのに時間がかかかっている
” は! 1つだと?? 笑止!! 笑止なり!! ”
この子は我らと人間の諍いに巻き込まれて親と引き離されてしまった
我はガラリアが迎えに来るまで守る
ふう〜〜〜ん…………
どうでもいいような、無関心な返事が返ってくる。
本当に無関心で、ただ上から見下ろしている、恐ろしいほどの力を持っていながら。
だが、これはそれで、丁度いいのだろう。
” この声、赤か あれは、 面白い !!
無の状況で、良く抗う、見事なり!! ”
指輪を与えたか、我は赤にはまだ何も与える事叶わぬ。羨ましい物よ
” 何故、目を取り戻さぬ !! ”
我が力を戻すと、指輪も力を取り戻す
リリサレーンの指輪は、我と気の道が出来ている
” だから言うたのだ! すぐ死ぬ人に、 入れ込まざるべし!! ”
言葉も無い
指輪を壊さねば、我は力を取り戻せぬ
頼む
赤の巫子を委ねる
” 人の子など、どうでも良い!!
だが、
どうでも良いが、嫌いでは無い ”
では託す
……………………
託されよ! 汝はいつも見ているだけでは無いか!
” むう…… 不遜なり ”
不遜などではない、頼っているのだ、ともに1つの光から分かたれし日よ
” ……………………
我は…… 昼を照らし、お前は、夜を明るく照らす
そしてお前は、生短き生き物の近くに常にある
我らは光より分かたれた双子神
その、お前が、委ねるというのか………… ”
委ねる 我らの巫子の、 力になれ!!
” 断る !!! ”
スッと心から温かな光が消えて行く。
ふうううう……
大きく息を吐いて、フェイクが空を見た。
「お空がきれいね。ガーラはまだかなぁ?」
「もう少しだ、もう少し、もう少しで来る」
「本当?!うん、僕は待てるよ!待ってる!」
「いい子だ」
フェイクは膝に頭を乗せて寝そべるリュシーの頭を撫でながら、横から来た兵士をチラリと見る。
その足下から、黒い澱がススッと伸びて椅子を這い上がる。
リュシーに触れる瞬間、それに火が付き兵士の方へと舐めるように火が走る。
「ひっ!!」
兵士は目を見開くと、慌てて逃げ去っていった。
日の神は一方的でドンッと話します。
それはギラギラ輝くお日様のようです。
一方火の神フレアゴートは静かに話し、暖かな灯火のようで対照的です。
どちらも元より形などありません。
日の神は形を作った事があるのかも不明。
セフィーリアのように形を作るのは、それは守りたい者と接する為の便宜上です。
何しろ彼らは精霊王。神様です。




