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383、王は誰もがなれるものでは無いのです

居間でマリナがロウソクの日にかざした手を離し、ククッと笑う。

周りには、姫にレスラカーンや神官と騎士達が並び、リリスが閉じていた目を開いた。

炎の明かりの中には、王が側近と元気付け会う姿が見える。

マリナが炎を手で包みギュッと握ると火が消え、薄暗い部屋にミラン達が窓の暗幕を外した。


「敵に囲まれ、やっと事の重大さがわかったようだ。さて、どこに避難するかは城の魔導師どもに任せよう。

我らはまだ城に直接干渉する時では無い。しかし、これで準備は整うだろう」


ふうっと息を吐いて、リリスを見る。

腕を組み、疲れたように横にいたグレンにもたれる。

グレンは黙って壁役に徹した。


「さて、王の心には、世継ぎをリリにと考えているようだよ。

今更勝手だと、都合が良すぎると僕は思うけどね。

どうする?リリ」


ククッと笑いながら、呆れたようにヒョイと肩を上げる。

霊体で無ければ、ふざけるなと殴ってやろうかと思った。

他の一同がリリスの顔を見る。


「私に王家は関係の無いことです」


思った通りの返答だが、珍しくリリスの言葉が硬くなった。

その手には、アヒルのキアナルーサを抱いている。

彼を思っての言葉かも知れないが、だが、ここにいる者で世継ぎをリリスにと思っている者は間違い無くいた。

思わず、ガーラントが立ち上がり、身を乗り出す。


「しかし、今のアトラーナにはあなたが必要です。

あなたこそ、本当の世継ぎなのです。どうか、王のお気持ちを受け止めて下さい! 」


リリスがゆっくり首を振る。


「私は無知です。王子と比べれば、ろくに教育を受けておりません。

私に素早く的確な判断は出来ませんし、私を知らない方ならば、誰がこんな私についてくるというのでしょう。

人の暮らしを支え、他国から民を守り、そして時に命運をかけた駆け引きに応じなければなりません。

王というのは、誰でもなれるものではないのです」


騎士達が、身を引いて思わず視線を泳がせる。

ミランとブルースがため息交じりにぼやいた。


「全く自分のことがわかってない御仁(ごじん)よ……」


「まことに…… これまでどれだけの事を乗り越えられたか、すっかり忘れておられる」


「俺の苦労をわかってくれるか? 」


ガーラントがため息交じりにドスンと座る。

2人がヒョイと肩を上げ、ねぎらうようにガーラントの肩を叩いた。


「リリガー、僕はもう、身体にガー、戻れないガー」


「いいえ、あなたはまだ生きている。

私は元より親無し子、今更な話です。何故そのような戯言(ざれごと)仰った(おっしゃった)のでしょう」


そう言って抱き上げ、椅子に座らせると立ち上がった。


「まあ、彼は口に出したわけじゃ無い、心にそれがハッキリ見えたのさ」


マリナが笑って首を振る。

やっぱりリリスは王家の事になると意固地だ。無理もない。


リリスは大きくため息を付いて、ドアへ向かった。


「そんな事より兵が来ます。

ミラン様、村人の退避は済んでいますか? 家から出ないようにと」


「ええ、昨夜のうちに。青様の予見が当たってしまいましたね」


ミランの言葉に、グレンが首を振る。


「青様の予見はまさにこれからある事だ。

それを覆す(くつがえす)のは難しい。

だが、ご本人のことは見えぬから油断は出来ぬ」


「騎士様、兵士の方々は加勢を願います。

犬さん、お手伝い下さい。

ホムラ様に乗るのもいいですが、また何を言われるかわかりませんので」


「んん…… わん」


「襲うのは禁止です」


「わん…… わん」


リリスの硬い言葉に、犬さんの返事が戸惑い気味で乗り気ではないようだ。

さっきからキョロキョロしているので、この城から来る悪意がわかるのだろう。

ふと振り返って頭をなで、ハッとして小さく首を振る。


「ああ…… そうでした」


リリスは少し深呼吸してしゃがみ込むと、犬さんの頭から首ををグリグリ撫でた。

うるうると、嬉しそうな声を出す。

忘れていた、この子は地上に出てすぐの小さな子供と同じなのだ。

犬さんは、多くの悪意を持つ人々と対峙するのにまだ使ってはいけないのだと、リリスは少しわかった気がした。

自分は今、この子をタダの便利な乗り物としか考えていなかったような気がする。

こんな未熟な自分が王などと、民衆にはいい迷惑だ。


「ごめんね、お前は家でみんなを守ってくれるかい? 」


「わん、うん、怖い、ざわざわ、こわい」


「そうだね、犬さんのことをわかってあげられなくてごめんね」


「うん、うん、なでして、もっとなでして」


グリグリ頭をなで回す。

首を抱っこすると、ポポッと嬉しそうに身体から火が出た。


「しかし、どうするつもりだい?

僕らを捕らえて、みんなの首を落とせと言ってる宰相の言葉が王の心に残っていたよ?

おお、怖い」


リリスが立ち上がり、パンと両頬を打った。

大きく深呼吸して視線を上げる。

その顔に、もう堅さは無かった。

少し頭が冷えたのだろう。


「そうですね、ここで斬り合いなど相手によからぬ理由を付けられましょう。

村を襲われるのも、荒らされるのも良しとしません。

話し合うつもりでしたが、どうも話し合う雰囲気と人数でも無さそうです。

捕らわれ、罪人になる気はありません」


そう話しながら、窓から空を見る。

空に何が見えるのかと、ミランが並んで空を見た。

しかし青空にポツポツと雲があるだけで、何も見えない。

その時、バタンと廊下に出るドアが開いた。


「水鏡においでなさい! 強そうな兵が結構な数ですわ! 」


薬草倉庫から、シャラナが出てきた。

皆で顔を合わせ、急ぎ見に行く。

薄暗く、静かな環境は水鏡を置くのに丁度いい。


「静かに、そっと中へ。水面に振動は厳禁ですわ」


水盤の水面が揺れないように、そうっと皆が水鏡を囲う。

門前から、鎧を着た屈強な兵達が、列を成して城を出てくる。

城下の人々が集まり、初めて見る光景にザワザワとそれを見送っていた。


リリスはマリナから飛び出した突然の言葉に、戸惑い恐れます。

王というものがなんなのか、何をするのか彼には想像する事も出来ません。

上を見ないように育てられた彼には、馴染みのある巫子には抵抗が無くとも王家には抵抗があります。

ひたすら王家には遠ざけられ、身分を最下にまで落とされ鞭打たれた事さえある身です。

彼は巫子になりたいのであって、王家の事など一切考えていません。

それでも、キアナルーサの先が見えない今、王が思い浮かべるのは彼1人です。

しかし、キアナルーサ自身は生きています。

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