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赤い髪のリリス 戦いの風〜世継ぎの王子なのに赤い髪のせいで捨てられたけど、 魔導師になって仲間増やして巫子になって火の神殿再興します〜  作者: LLX
32、王家の危機

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380、300年間、弾圧への謝罪

ロルドーが、窓から空を見上げる王の姿を見て、静かに目を閉じる。


あの、初めて捨てた御子を前にした時の、あの驚きは忘れられない。

あまりにも聡明で、最下に落とされながらも自らの力で這い上がるその気力と優れた才覚、判断力。


あの日、世継ぎがお生まれになったその日、

最初の御子の髪の色に騒然となった。

王も王妃も美しい金の御髪(おぐし)で、真っ赤な髪に、まさか王妃が間違いでも起こしたのではと。

祖父の代で一度有ったと、日記を見るまで遺伝という物とは全く知らなかった。


我らは赤い髪の子は排除しなければ王家に災厄をもたらすという、王弟殿下の言葉に従い、なかなか手放すことにうなずかない王に、皆で説得し殺めることを勧めた。


だからこそ、我ら王の側近は、あの御子に関しては罪深いのだ。

今となってはお命を奪うこと無く、城下へ流されたのは良かったというしかない。


我らは王があの御子を元に戻したいと仰るならば、それでもいいと思う。

いいや、キアナルーサ様が現状この様子であれば、それこそあの御子は城外にいたからこそ守られたに違いない。


運命は、あるべき姿へと戻りつつある。

そうなのかも知れぬ。


「ロルドー、これは日の神の導きであろう。

天に居られる日の神は、我らの悪行など見通しておられる。

たとえ神殿など無くても、こうして天に変わらず日の光はあり、そして人は火がなくては灯りさえままならぬ。

わしは臆病者と言われても構わぬ。

火の神を受け入れ、謝罪ののち神殿を起こすことを約束しよう」


「は、アトラーナのあるべき姿は王の仰せのままに。

我らはいかな苦難も受け入れ、王の下、共に民衆を導くことをお約束します」


「民衆への説得は難儀(なんぎ)であろう。

だがあの子なら、いかように落ちた王家であろうと立ち直すことが出来よう。

キアナルーサの生死が不明の今、もうわしに残されたのはあの子しかない」


いや、元からそうであったなら。

あの子は王の器であった。

キアナルーサは良い王弟になっただろう。

歯車を狂わせたのは、この私なのだ。


「王よ、火の巫子とおつなぎ致しました。

寝所へお越し下さい」


「わかった」


寝所は王の居室でも一番狭く、1つしか無い窓も普段からカーテンを閉めている。

ここは有事の逃げ場だ。

ベッドの足下には隠し扉があり、階段で3カ所に逃げることが出来る。

もちろん、1カ所はあのリリスたちが通ったあの地下通路だ。


狭いと言っても、広いベッドにはサイドテーブルや、くつろげるように横にはテーブルに長椅子もあるゆったりした部屋だ。

アデルはずっと、この長椅子で毛布一枚で寝起きして王を守っていた。


テーブル上の水晶玉の横にロウソクが灯されている。

王が入ると、アデルがそのロウソクに一礼した。


「青様、こちらアトラーナ王、ヴィアンローザ様でございます。

王よ、こちらは火の巫子のお一方(ひとかた)、青の火の巫子マリナ・ルー様でございます」


それはだが、ロウソクの小さな火で王が怪訝な顔をする。

挨拶をした物か戸惑っていると、その炎の色が青に変わり、ぼうと大きく燃え上がった。


『 王よ、お初にお目にかかる。

私は赤と青の火の巫子が1人。青の火の巫子マリナ・ルー、生きた聖なる火の(ひつぎ)

この300年の長き時を超えての邂逅(かいこう)に、我ら火の巫子は喜びを隠せませぬ。

王よ、この出会いが良き方へと赴く(おもむく)か、それとも300年がまた400,500と続くのかは、あなた次第だ。

だが、私は火の巫子として、神の代弁者として告げよう。

もう、火の神は待てぬと。

そして巫子は今後、汝ら王家にむざむざ殺められることを断固拒否する。

その意味、よくよく考えられると良かろう」


火の巫子は、王を敬うことをやめ、対等に語りかける。

王は立ち尽くし青い火を見上げながら、下ろした手を握りしめた。


「承知している。

王家の代表として、汝ら火の者に私は謝罪しよう。

火の巫子、火の神、火の眷族に対する(なが)の弾圧行為に、謝意を申す。

すまなかった」


王が目を閉じ、そしてゆっくりと軽く頭を下げた。

青い火がゆらめき、無言の時が流れる。

そして、青い火の向こうから、少年が火をまといながら姿を現した。

青く光り輝くそれは、まさに火の神、火の化身のような美しい少年だったが、握りしめた手は打ち震え、その顔は怒りに燃えている。

そして、唇を噛みしめて王を指さし怨嗟の炎を吐きだした。


「汝、王家の者は謝り方も知らぬと見える。

我ら何代に渡り青と赤は惨殺され、そして神事無き為に黄泉で行き場を無くし、死したのちも、気が遠くなる時をいかに苦しんでいるか汝にわかるか?

このたびの王家の不始末、素知らぬふりでも構わぬのだ。

我が怒りは火の神の怒りと知れ!」


結界がかすかに揺れる。

それほど火の神の怒りは大きいのだろう。

神事にそのような意味があるなど知らなかった。


これは、アトラーナの歴史の転換点です。

精霊との決別を目指すランドレールとは、真逆の行為です。

でもこれは、ランドレール自身がもたらした物です。

孤立させられた王が、最後に頼る者は、頼るしかない者は、これまで弾圧されてきた最高神である火の神。

そして捨ててしまった自分の息子だったのです。

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