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378、アトラーナ王排除

誰も自分に耳を傾けない、いつもと違う雰囲気にゾッとして、思わずテーブルを叩いた。


「黙れ!」


王の一喝に、ザッと皆が一斉に王を向く。

思わず目を見開く。

まるでそれは、操られたように、すべてが同時で奇妙な連帯感があった。

宰相が、構わず立ち上がり皆に手を上げる。


「城下に陣を敷くなど、もってのほか!これこそ謀反の証!

王よ!謀反の村として、村ごと焼き払い、引っ捕らえるが良いかと存じます!

そして巫子のかたりは重罪!

人心を惑わせた罪は重い!」


「ならぬ」王が思わず言葉を漏らす。


「捕らえよ!そして裁きなどいらぬ!

これ以上無い苦しみを与えて殺し、死後100日城下に(しかばね)を晒すとしようぞ!」


「ならぬ!!」


王の言葉を無視して、おお!と一同が声を合わせて同意する。


「巫子のかたりは2人いるという。

2人を捕らえてその前で村人すべての首を落とし、騙り(かたり)に加担すればこうなるのだと見せしめましょう!」


「おお!それがよい!そのあと城下の広場で串刺しにして火あぶりに!」


「よい!」

「それは良い!」


王が愕然と皆を見る。

皆、どこを見ているのかわからない。先日まで熱心に論議をしていた側近達が、まるで何かに操られているように言葉を一致させ、そして誘導していく。

まるで、自分の、王のことなど忘れたように。

そして、横にいる弟だけが、何故かほくそ笑んで見えた。


「な……んという野蛮な……ここは精霊の国なのだぞ?」


「くくっ、精霊など、これからは排除していく所存です。

もう、精霊などこの国には必要が無いのですよ」


「何を言う、アトラーナは精霊の国だからこそ、この数百年を戦も無く安泰に過ごしてこられたのだ。

お前は何もわかっていない」


「何もわかっていないのは兄上ですよ。

見てご覧なさい、堕落しきった臣下達を。

欲と色にまみれた民衆達を」


王が、一体何を言っているのかわからず怪訝な表情で弟を見る。


「お前は何を見ているのだ?

皆、その日を幸せに生きることに尽くしているでは無いか。

民に剣を向けるなど、このわしが許さぬ!」


弟が、弟ではないように醜悪な表情でニイッと笑う。

王はゾッとして、思わず2歩下がった。

それを見て、バッと宰相が手を上げる。


「これは王命である!反逆者を討ち滅ぼし、村ごと見せしめにせよ!」


「ははっ!」


ザッと、一同が頭を下げる。

しかし、騎士長の副官だけは、目を閉じて座っていた。


「では!兵を集め、すぐにでも風の村へと向かわせます!」


王が、びくりと顔を上げる。


「やめよ!兵を向かわせるなど許さぬ!」


「では、王子の信頼する優秀な兵をお貸し下さい」


「おお、それは良い、王子は優秀な戦士を集めていらっしゃる!」


「すぐにでも人選を!」


自分の言葉など、まるで通らない。

王が席を離れ、臣下の1人1人の肩を揺らす。


「レスト!カリーナ!長老!一体どうしたのだ!」


だが、彼らはドロリとした視線に、まるで生気のないタダの人形のようだ。

そしてその服から出た手を見ると、ドス黒く肌の色が変色している。


「はっ」 なんだ、これは……


王が息を呑み、恐ろしい物を見たように数歩下がって行く。

誰も気がつかない王子の足下には黒い澱が机の下を薄く広がり、騎士以外の人々の足から伝い上がり、身体を毒して操っている。


会議の前に先に集めたのは、澱を飲ませて内と外からこの一同を汚し、配下に治める為だ。

紐は細くとも、ここで決まることは絶対なのだ。

あとで覆すのは、全員の同意が必要で難しい。

しかも、またその場には必ず王子がいるのだ。


だがザレルの副官の足には、一度は澱が這い上がってもはじかれてしまう。

何故騎士にだけ手が出せないのか、王子は副官を見るとギリギリと唇を噛む。


ふと、副官が顔を上げる。

そしてゆっくりこちらを向くと、閉じていた目を見開く。

その向こうに、ザレルの獣じみた瞳が見えるような気がした。


ギンッ


と、その刺すような瞳が、王子を睨めつける。


「ひっ」


小さく声を上げ、すくみ上がり王子が口をふさぐ。


一体何だ?あれはタダの人間のはず。


そしてまたザレルの副官は、目を閉じ、無言で聞いている。

次々と騎士を排除する言葉にも、無言で通す。

何が決まっても口を開くなと言われているのかもしれない。


「騎士は排除して決めよ!よろしいか、副官殿。

ザレル殿には、後々裁定あるまですべての事柄から騎士を排除すると伝えよ!」


無言でザレルの副官は、目を閉じうなずく。

そうせよと、言われてきているのだろう。


「よし、兵と戦士を集結させよ!」


ハッと気がつくと、皆が一斉に立ち上がった。


ガタガタと、側近達が口々に同じ事を語り、王に一礼をすることなく勝手に部屋をあとにする。

弟の宰相がキアナルーサの前に立ち、ククッと笑って王にうやうやしく礼をした。


「それでは親愛なる兄上、我らは吉報を待つと致しましょう」


「何が吉報だというのだ!サラカーンよ!汝は何者か?!」


「これは異な事、私は弟ではありませぬか。

やれやれ、兄上は少し、お疲れでございますな。時々呆けたことをおっしゃる。

これは隠居も視野に入れられるがよろしかろう」


嘲笑する弟に、グイと押しのけ、後ろにいるキアナルーサに詰め寄る。


「お前は自分の叔父に何をしたのだ」


王子はククッと笑って、サラカーンの手を取り、その手にキスをする。


「そのような、ここで言うのもはばかられます」


「何を……不埒なことを……」


カッと王が赤面して思わず手を上げる。

それを弟が前に出ると、盾になった。


「おやめ下さい兄上。たった1人の息子でありますのに。大切なお世継ぎに何をなさいます。

それでは失礼致します」


2人は仲睦まじく、弟が王子の肩を抱き部屋を出て行く。

ピタリと身体を委ね合い、まるでそれは思い人同士のようだ。


「このような……不埒な光景を見ることになろうとは……」


唇を噛み、視線を巡らせる。

自分の味方が、正気である者がどれほど残っているのか。


途方に暮れていると、横から会議に出ていたザレルの副官が、手紙を差し出し耳元に囁いた。


「恐れながら、騎士長より手紙を預かって参りました。

今はおそばにいること叶いませぬが、心は常にお守り申しておりますと」


ハッと振り向くと、今の光景にも動じず胸に手を当てる騎士がそこにいた。

ホッと息を吐き、軽くうなずき手紙を受け取る。

側近にも渡さず、その手紙は自分の手にしっかりと握り、王は自室へと歩き始めた。

王がどんどん追い詰められます。

ランドレールが王を掌握しないのは、生殺しでいたぶって楽しみたいだけです。

妹を殺した自分の父親と、現王を彼は混同しています。

彼が急に動き出したのは、火の巫子が揃ったこともありますが、ルクレシアという相棒が出来たからです。

悪霊でも1人はよほど心細かったのでしょう。

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