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377、虚構の会議

王は食事を終えてアデルと食堂を出ると、庭を散策して立ち止まり周囲の兵達を見る。

衛兵は頭を下げ、1人の兵がガクンと持っていた槍を落とそうとした。

視線を走らせため息を付き、風にローブをはためかせ空を見た。


「今日は良い風が吹くな」


「セフィーリア様はまだお帰りではないようですが」


「地の王はどうしているのだ?」


「さあ、ヴァシュラム様は神出鬼没ですので」


笑ってアデルが答える。

やがて王家の居住棟に戻ると、アデルが頭を下げて来客棟に戻る為に頭を下げた。


「私はこれで、何かございましたらすぐにお呼び下さい」


「うむ、頼りにしているぞ」


「は、オパール、行くぞ」


自室に立ち去るアデルをいちべつし、王がフロアに歩みを進める。

守衛の兵に変化はないように思える。

階段を上り、自室の前でふと立ち止まると、兵の1人に声をかけた。


「最近、王子はこちらへ来たか?」


兵は口を開きかけ、ブルブル口を閉ざしてまた開く。


「こちらへはお出でではございません」


「そうか」


側近が何か?と声をかける。


「いや、気のせいだ」


王はサッと自室へと歩き出した。


わからない、

どこまでが彼の言うような状況なのか、自分にはわからない。




自室でしばらく茶を飲み、窓から中庭の兵の様子を見下ろしていると、ノックして側近が入り頭を下げた。


「宰相殿下が至急会議を行いたいと仰せでございます」


「サラが?……わかった」


「レナントから姫が城下にお見えのようです」


「レナントから?何故城に顔を出さぬ?」


「姫はどうやら風の丘にいらっしゃるようで。

そこに火の巫子を語る者がいることで、陣が敷かれていると。

村の者も加担しているとの報告がございます」


なるほど、それで会議か。合点がいった。


王が部屋を出てサラカーンの部屋に向かおうとする。

だが、側近が下の者から報告を受け、会議の間にすでに揃っていると聞き急いだ。


「いつも会議の前に一度話をするのに、サラはどうしたのだ」


「申し訳ありません、こちらへ話が来たのが今のことで……」


側近の元騎士アイボリーが、申し訳なさそうに頭を下げる。

いつもなら皆揃う前に話が来るのが定常だ。

王は彼を責めても意味が無いと、会議の間へと急いだ。


部屋につくと、弟の側近のシャールが、申し訳なさそうに頭を下げる。


「お許しも無く申し訳ありません、先に集めよとご指示が……」


「良い、気にするでない」


重いドアが、両方から開かれる。


「王がいらっしゃいました」


会議の間の円卓には、いつもの側近達がずらりと並ぶ。

が、何故かザレルの姿が無く、彼の副官が1人立ち上がり、胸に手を当て頭を下げてそこにいた。


「ザレルはいかがした?魔導師の長がおらぬようだが?」


副官が答えようとするのを遮り、サラカーンが立ち上がり、うやうやしく頭を下げた。


「兄上、今日は議題が風の丘の反逆者についての対応ですので、ご遠慮頂きました。

魔導師も風の丘とは馴れ合っている容疑があります。

兄上はもしや会議をお許し下さらぬだろうと思いまして、先に皆を集めた次第」


「反逆者だと?あれは一度は巫子の審査を許した者、何を根拠に……」


「まあまあ、兄上」


王の言葉に、やはりといった顔で、弟がひどく馴れ馴れしく背を叩く。

サラカーンは、二人きりの時以外は自分を王として敬い(うやまい)、立てていた。

こんな慣れついた行動など、見た事もない。


「まずは!まずは、おかけ下さい。

一同、誓いのご唱和を。アトラーナ繁栄を願い、我が命、アトラーナ王の為に」


「王の為に」


「アトラーナ王の為に」


立ち上がり、その場で胸に手を当て王に頭を垂れて皆が唱和する。

王は、その言葉がどこかいつもより空々しく感じて、一同を見回した。


なにも変わらない。

変わらない、ような気はする。弟以外は。


「では、レティム公より、最近見られる城下での騒ぎのご報告を」


「承知致しました。

最近城下で火の巫子が存在すると噂が立ち、風の丘にそれを信じる者が集結しております。

風の丘は巫子を崇め、村を挙げて風の館をまるで陣のように増築し、兵や騎士、そしてレナントからはルシリア姫まで駆けつける騒ぎ。

地の第2巫子イネス様まで御在館の為に信憑性が上がり、信じる者が続々と集まっております」


「陣とは?」


「申し上げた通り、兵達が寝食の出来る施設を充実させています」


「風殿は?ザレル殿は何故放っておられるのだ!」


「お忘れか?巫子だと言うておるのは、養子になったあの赤い髪の親無し子ぞ」


一同が、揃って苦虫を噛むような顔をする。

そして一斉に罵倒し始めた。


「だから反対だったのだ!あんなどこの馬の骨とも知れぬ下郎!」

「素性もわからぬ者が!」

「このような事態を招いたのは、ザレル殿ですぞ!すぐに騎士長の職を解いて頂きたい!」


口汚く罵って、誰1人擁護する者が無い。

あの、密かに赤い髪の子を私の若い頃そっくりだと、出生を知る年老いた公爵さえ。


「皆落ち着け、罵倒するのは容易だが、話を聞くことも必要だろう。

使いをやり、城に登城させることも考え……」


「やはり!ザレルはやめさせるべきです!」


突然王の言葉を遮り、公爵が立ち上がった。


「城からの追放を!」

「追放を!」


普段なら、これほど皆が一斉に激高することなど無い。

収まるかと思った罵倒が、王の言葉も無視して続けられる。


なんだ?

一体何だ?

この違和感は


王は薄ら寒さを払拭するかのように、思わずテーブルを叩いた。

王は、急速に変化している自分の周囲の様子を感じ取り、薄ら寒く感じています。

宰相の身体を乗っ取ったランドレールは、王の周囲の人々を次々と紐付け、周りから王の知らぬうちにどんどん締めつけていきます。

王の味方は数少なく、孤立していく自分の立ち位置にようやく気がついていました。

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