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374、ルクレシアと王妃

ルクレシアが大きく息を吸って心を落ち着ける。

胸から手を離し、部屋の隅で2人庇いあうように手を握ってこちらをチラチラと様子をうかがう小姓達にため息を付いた。

独り言をつぶやくように話す自分は、さぞ不気味なのだろう。


「魔導師との接触を断つ事など無駄だ。

王はお前のことをすでに警戒している。

だから王妃を塔に差し向けたんだ、馬鹿め。


すでに宰相も手に入れたんだろう?

王が死ぬのを待つより、さっさと謀反でも起こせばいいんだ。

お前は何を遠回りしている。

すでに死んでる身体のクセに、まるでやることは命に限りのある生者のように遠回りだ。


何故取り巻きが増えた時に行動を起こさなかった、お前はすでに期を逸している。

僕に何も話さないのは分が悪いことを知られたくなかったからだ。

僕は馬鹿じゃない、お前の下僕でもない。

なんて頭の悪い悪霊だ。

お前は300年前、一度失敗したのだろう?それをまた繰り返すのか?

悪霊なら悪霊らしいやり方を考えろ。

味方1人いない、忠実な家臣1人いない王子なんて。

なんて人望の無い奴だ。僕と同じじゃないか」


言いたいことを言い終わるとルクレシアが立ち上がり、小姓には、ここにいるようにと言って部屋を出る。

女の足は遅い。

ドレスなんか着ているから、逃げる時は真っ先に捕まるんだ。

靴を鳴らしてあとを追う。


カッカッカッカッ


途中兵が出てきたが、用があると手で遮りすり抜けた。


「お待ちを、どうかご無礼をお許し下さい」


声をかけると王妃の取り巻きが振り向き、前に出て王妃の盾になる。


「そなたは王子の側近だな? 何用か」


1人が前に出て遮り、顎を上げて見下した。

だから城の人間は嫌いなんだ、反吐が出る。

ルクレシアが心でツバを吐きながら、切れ長の目で優しく微笑み、胸に手を当て頭を下げる。


「王妃様にまだ、きちんとご挨拶をしていなかったことを思い出しまして、こうして参りました。

いきなりの失礼、お詫び致します。

このたび王子の側近になりましたルクレシア・ダンレンドと申します。

少しお話しがございまして、お時間頂ければこの上なく…… 」


「まあ! あなたが新しい側近ね。

まあ! ダンレンド侯爵の…… 最近お母様とお会い出来ていないわ、お元気なのかしら?

いいわ、少し話をしたいから…… そうね、近くに使える部屋はある? 」


王妃は爽やかな印象のルクレシアに微笑み、兵をドアに立たせ近くの客間に入って行く。

王妃に頭を下げるミザリーが、キラリと目を光らせ彼を見上げる。

それを見逃さず彼は心で舌打ちした。


僕が呼び止めた時から、僕の動きを知っていたように1人反応が早い。

この女、どこか他の女と違う…… 厄介な印象だ。

王家は宰相以外ミスリルを持っていないと父親に聞いたことがあるが、まさか…


「その方、剣を兵に預けよ」


女官の1人がルクレシアに指図する。

が、彼の身体を調べても、ナイフ1本持たなかった。


「お前は側近であろう、王子をどう守ろうというのか? 」


眉をひそめる女官の問いに、彼は顔を上げて静かに言った。


「この命でお守りしましょう」


兵なんかその辺にいるじゃないか。

僕は剣なんか5年は持ってないし、必要も無い。


眉をひそめる女官に部屋に通されると、奥に王妃が座して女官達が左右に立ち、前の床を指さす。

客と対面の簡易な部屋だ。

王妃に一礼すると、自己紹介を始めた。

あんな家でも自分が生まれた家だ。

格ばかり高くて大嫌いだが、こう言う時は利用させてもらう。


「あなたのお母様には、若い頃から随分助けてもらったのよ。

穏やかで優しい方、今もお変わりないのかしら?」


「ええ、家で変わりなく過ごしております」


僕が母親なんぞの今を知るわけがない。

いつもヒステリックに、思い通りにならない僕に泣きながらわめき散らすだけだ。

もうここ2年ほどは無視されて、あの人にとって僕はいないことになっている。

2つ下の弟だけが生きがいなのだ。


王妃はひどく機嫌が良くなって、母のことばかり聞いて来る。

適当に返事を返しているうちに、王妃が母としてどれほど王子を心配しているか語り始めた。


「それほど心配されることはないように存じますが。

おつかいしていますと、王家の今後を思慮深く思い描いておいでなのが良くわかります」


「あなたのお母様と同じよ、息子のことは心配でたまらないのよ」


うるさい女だ。

うちの母親とか言う奴と少しも変わりない。


「今のままでは隣国との婚約にヒビが入ってしまうわ。

あなたから、少し行動を控えるようにいさめて頂戴」


「どのような行動を? でございますか?

何分来たばかりで存じ上げないことも多ございます。」


クスッ、知ってるけど笑ってわざと聞いてみた。

果たして自分の息子が見境無く男に手を付けているなど、なんと言うのだろう。

自分もミスリルのラティに調べさせて驚いたのだ。

あまりの奔放さに。

自分は誰かの特別になれるのかも知れないと、随分迷いながらここへ来てみたが、あいつにとって自分もただの遊びだった。

くだらない、息をするのさえおっくうだ。

何が愛だ、ふざけるな。


少し困ったように、王妃が顔を引いて背筋を伸ばす。


さあ、うろたえろよ、王妃サマ。

育ちのいい女が、こんな事、言うのも恥ずかしいだろうさ。

いい気なものだ、これほど人に守られて、実情も知らず笑っていられる。


ルクレシアは、ほくそ笑みながら、彼女の答えを待った。

王妃は輿入れしてきた時、先に侯爵家へ嫁いでいたルクレシアの母親とは大変仲が良く、城内や上流階級の人間関係の情報交換をして、助け合っていました。

それが急に姿を見せなくなったので、心配していたのです。

ルクレシアの母親にしてみれば、後継ぎが家を出たあげく花売りに身を落とすなどと、とても顔を合わせられない状況に陥っていたからでしょう。

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