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370、宰相家で起きたこと

昼食の時間になると、食堂の大きなテーブルにガヤガヤと巫子や騎士達、そして姫も席に着く。

レナントの騎士は、最初遠慮がちに端っこに固まっていたが、2日、3日と過ぎるとだんだん混じってばらけて座るようになってきた。

村人は家に戻ったり庭で食べたり、庭にはベンチとテーブルがあるので、手伝う戦士や騎士も混じって歓談したりして自由に食べている。

飯が食えると聞いて、ちゃっかり昼だけ食いに来る村の者もいて、最初金が問題になったが、寄進する者が増えた上に、名のある貴族まで名を伏せた上で寄付を申し出たので、全く金の心配は無くなった。

今は厨房の増築と風呂を外に作っているらしい。

一体ここで何するのかわからないが、レスラはその理由を聞くのが今は怖かった。


「おい、マリナ! お前リリにくっつきすぎだ! 席を替われ! 」


始終リリスにべったりのマリナに、とうとうイネスが声を上げた。

リリスが2人の真ん中に座ればいいと思うが、必ずマリナが3人の真ん中に座る。

きっと嫌がらせだと思う。


「うっるさいなー、いいよ、僕と赤はどんなに離れようと心は繋がってるからね」


「ムキーー! なんかイラッとするこいつ! 」


「まあまあ、リリスはお二人とも大好きですよ? 」


「そっ、そんな事! わかってるし…… でも! それとこれとは別だ! 」


ガタガタブツクサ言いながらも席を替わる音が響く。

青の巫子と地の巫子は犬猿の仲のようだ。


「レスラカーン様、おそばにいることが出来ず、いてててて……

すいません、重い物ばかり持たされて、腕と腰が悲鳴を上げております。

お見苦しいところを…… 」


ライアが横から食事の介助をしてくれる。

随分鍛えられて痛そうだ。


「ふふっ…… 私も厨房の手伝い、とても楽しかったよ」


「無礼な物言いばかりの輩ですが、どうかお許しを。村人とはこう言う物でございます」


「うん、わかってるよ。

なんか…… とても、新しい風が入ったような、そんな、新鮮な気分だったよ。

まるで…… 光って言うものがあんなものなら、心に光が見えたんだ。

父上は、きっと生きてる」


「レスラカーン様…… あ、こちらがスープでございます」


「ほら、このスープに入ってる豆、私がスジを取ったんだよ? 凄いだろう?

厨房の夫人達の人使いの荒さと言ったら、もう驚きしかなかった。

私の目が見えないなんて関係ないんだ。

でも、良くできたって頭を撫でられた時、私の心は子供に返ってしまったよ」


表情から硬さが消えて、いつものレスラカーンに戻っている気がする。

レスラカーンは、村人の手の温かさや朗らかさに、きっと癒されたのだと思う。

ライアはその嬉しそうな顔にホッと胸をなで下ろし、ここに来て良かったと思っていた。





「そんで赤様よ、これからどうするんだ? 」


ムシャムシャ食べながら、ブルースが問うてきた。

確かに、建物充実させるのも大切だろうが、どう進むかも重要だ。


「そうですね。指輪も手に入れた今、次に何をするべきかは決まっています。

城にいる悪霊の排除と先代の指輪の破壊です」


ホムラが、顔を上げた。


「リリサ様の指輪を、やはり破壊なされるのですか? 」


「ええ、取り戻すのではなく、壊すことを目的とします」


「そう…… ですか…… 」


ホムラは少し気落ちして見える。

だが指輪が悪霊に力を与えてきた状況を見ると、それはすでに巫子の指輪では無い。


「何故指輪を悪霊が持っているのかが気になりますが、それを知るのは悪霊だけでしょう。

王子の身体を取り戻すことも大切ですが、何より今は城の様子を知る為、魔導師の塔と連絡を取ることが必要です。

今、シャラナ様が水鏡を準備されています。

青の体調も戻ってきていますし、私も指輪が馴染んで力の調節が上手く行きつつあります」


リリスが目を閉じ、ふうと息を吐く。

まだ彼の目は両方が赤く微妙に輝き、色違いになっていない。

夜中に出会うと、猫の目のように光ってビックリする。

マリナによると、平時は色違いになって、それでようやく指輪を制御出来た印なのだと話した。


リリスは神官連れて、山に行って毎日瞑想しているらしい。

何かしたいのに、手伝いたいのに、それが出来ない。

心がそれをさせようとしないのはきっと指輪の仕業だろうと話した。

それを聞いて前で、マリナが忠告するようにさじでコンコン皿を叩きながら彼に言う。

自分の身体のことがまだ見えないリリスに、少し不服そうだ。


「僕はいいけどさ、赤はまだ心の疲れが残っている。

もう少し休んだ方が良い。君の身体の後ろに揺らぎが見える、今は休む時だ。

急いても何もいい方に走らない。


君は人の身体で最高の力を引き出して戦って、もし運良く指輪が手に入らなければ死んでいたんだよ?

やり過ぎだよ、引くことを知らない。そして全部一人でやろうとする。


自分の身体の不調を感じにくいのは赤の悪いところだ。

だからすぐに無理をする。それは直して欲しいね。

目が両方赤いのは、体調悪い証拠だよ。

指輪が赤に力を貸しているんだ。」


コンコンコンコン!

音がどんどん強くなる。

それだけわかって欲しい、心配なのだろう。


「わかってるよ、すまない。

黒い鹿退治はもの凄く消耗した。でも返せば、向こうも消耗したはずだ。

でも、宰相の件を見ると、そう見えないのは何故だろう」


「そこだよ、そこ」


マリナが残ったスープを皿から直に口に流し込む。

モグモグ食べてゴクンすると、立ち上がりレスラカーンにスプーンを向けた。


「レスラカーン、さあ話すのは今だ。何があったと思う? そして君は何を経験した?

頭にまとまってないとか、いきなり話せないとか、威厳が損なわれるとかは無しだ。

これは、君の技量が試される時だ。

どれだけ話せてどれだけの情報を我々に渡せるか、君が宰相を目指すならば。」


不意打ちを食らって、レスラカーンが見えない目を左右に動かす。

大きく息を吸って目を閉じる。大丈夫、気持ちは落ち着いている。

ここに誰がいても、隠し事はしないと決めていた。


「あれは、何かわからない。

私の、たった1人の肉親である父との繋がりの深さからだと思う。

あの夜、私はひどい胸騒ぎを覚えて目が覚め、そして深夜にもかかわらず父の部屋に急いだ。

だが、父の部屋から現れたのは……… 王子だったのだ」


ライアが唇を噛む。その姿が目に浮かぶ。

彼より驚いたのは、王子の姿を目にしたライアだった。


「ライア、私の目はお前だ。どんな姿だった? どんな……

なんでもいい、お前は私に何も話さなかった。

それは、あまりに衝撃的だったからだ。

でも、話すんだ」


でも、言うべきかわからない。あまりにも破廉恥だ。


「それは…… お父上の尊厳にも関わります」


「良い。隠し事は、人の手を借りようと思うならばするべきではない。

語って笑いものにされたならば、それは我らに手を貸そうと思わない者達だ。

だが、こちらの者達は力を貸すと言うてくれた。

ならば隠し事をしてはいけない」


逆にピシャリと告げられて、興味本位でニヤニヤと耳を傾けていたブルース達がドキリと背筋を伸ばした。

彼は、真剣な面持ちの彼は、恥を承知で語っても父親を救いたいのだ。


母親を知らないレスラカーンにとって、村の夫人達の手を取り教える接し方はとても心安らぐものでした。

彼の嬉しそうな姿は、ライアには何よりの喜びです。

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