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369、レスラカーンは忙しい

外で明るく話す人々の声に誘われて、歩みを進める。

ここは昼間はひどく騒がしく、村人達がまだ何か立てているのか木を叩く音が時々甲高く鳴り響く。

風が吹いて、髪が頬を撫でる。そう言えば髪を切ったんだと、レスラカーンは改めて思った。

長い髪を、肩で真っ直ぐに切ったら、地の巫子と同じ髪型だと指摘され、思い切ってもっと短く切ってみた。

巫子は構わぬと言ってくれたが、短い髪なんて子供の頃以来で、これは頭が軽くなってラクだ。

リリスに借りた服も、簡易なズボンとシャツに丈の長いベストで動きやすい。


「偉いお兄ちゃん! 偉いお兄ちゃん、あんただよ!

こっち来て! 豆のスジ取っておくれ! ボーッと立ってるんじゃないよ! 」


なかなか話をする機会をくれないリリスたちにイラついて、外の空気を吸おうかと庭に出た途端、何かを手伝えとライアが呼ばれた。

半場強引に引っ張って行かれ、ここにいて下さいと言われた物の、まだ敷地の間取りになれてないので、どこをどう歩いていいのかわからない。

適当な木で作ってもらった杖が、軽すぎて少し違和感があって長い。

元々彼は仕込み剣入りの杖をもっていたので、もう少し重い方が慣れている。


「あとでライアに少し先を切って貰おうかな」


コンコン横にある何かを叩いてみる。

すると横から腕をグイと引かれた。


「偉い兄ちゃん! さっきから呼んでんのに、呼ばれたら返事くらいしな! 」


「え、偉いお兄ちゃんとは、私のことか? 」


「そうだよ、みんなそう言ってるよ。

お供付きの偉い兄ちゃんだろ? きれーな兄ちゃんとどっちがいいんだい? 」


「え、え…… と、レスラカーンと呼んで頂きたい」


「はっはっはっは! なんだあんた見かけも美人さんなのに、名前も女みたいだねえ!

…………え? 女? 」


「男だ、正真正銘、間違いなく男だ」


髪切っといて良かった。何言われるかわかった物じゃない。


「みんなー!! この偉そうな坊ちゃん、名前はレスラだってよ! レスラ! 」


「ちょ、そのような… 大きな声で…… 」


デカい声で紹介され、面食らって恥ずかしい。顔が真っ赤になる。

そんな間もなく、ガシッと手を握られた。


「あははは! なんだい、可愛い子だねえ! ほら、レスラちゃん、厨房に行くよ! 」


「レスラちゃん!? 何故?? 厨房? 私はやらねばならないことが…… 」


「声が聞こえるだろ? 男共は食うんだよ!

食事を作ることより大事なことなんてあるもんか!

あんたはヒョロッとしてるから、力仕事は無理そうだからね!

こっちこっち、厨房で手伝いな、仕事は山ほどあるよ! 」


そう言って、農婦なのか皮の厚そうなゴワゴワした手で手を繋いでグイグイ引いていく。


「壁が右にあるから、棒で叩いてみな。正面から壁伝いにね、ほら一番左端に軒の柱があるだろ、これが厨房のドアの目印だよ。

そら、外でこの椅子に座って。いいかい、この豆だよ、手に取ってご覧やり方を教えるから」


豆のさやを手に取らせると、レスラの手を取りプチッと折ってスジを取る。


「サヤの両側から端を折ると、スジの感覚があるだろ? 」


「うむ、このスウッとした感覚だな? 」


「これ両方から全部取って、左のボールに入れるんだよ。

昼に使うんだからね! さっさとやるんだよ、サボってないか、見に来るからね! 」


なんでも手を取って教えてくれる。

知り合いに目が不自由な者でもいるのか、妙に教え慣れている女だ。


「わかったかい? 返事は? 」


「承知した。サボらぬので、監視は不要だ」


「はあ? わかった!! でいいんだよ、面倒くさいねえ。背筋伸ばしてシャンとしな! 」


バンと背を叩かれ、ハッと顔を上げる。庶民はみんな短気で声が大きくてビックリする。


「わ、わかった! 」赤い顔で、慌てて元気に返した。


村の女は誰も彼もがひどく元気で、物静かな城の女たちとは正反対だ。

レスラが椅子に座って、豆を手探りで取る。

プチッと折ると、ツウッと抵抗がある。


「あ、これだな、うん。面白いな」


「ニャーン、レスラもお手伝いにゃ? 」


アイネコがやって来て横に座ったようだ。撫でようとしたけど、猫の毛が入ると怒られるかもしれない。


「うむ、食べ物なのでね、撫でてやれぬが許せ」


「にゃるほどニャ〜、散歩して来る。頑張ってニャ」


「うむ、またあとで撫でさせておくれ」「ニャン」


手探りでやってると慣れて、次々手に取り無心で作業していく。

途中で見に来た女が、おや! と思いがけなく声を上げた。


「あんた、集中してやってるじゃないか。あははは!

綺麗な手をして、どっかのお坊ちゃまかと思ったけど、文句も言わないしいい子だよ!

レスラちゃん、あと半分頑張りな!」


そう言って、頭をポンポンと撫でていく。

なんだか、レスラは悪い気もしないで、少し気が晴れてきた。

ライアは肉体労働にこき使われて、時々悲鳴のように声が聞こえる。

クスクス笑いながら、スジを取っているうちに豆がなくなった。



結局、豆が済んだら次は玉ねぎの皮取りに、イモのだいたい皮むきと、次々やらされて色々考えるヒマも無く時間が過ぎた。昼からもまた来いと言われている。


「ああ…… なんか、こんなに働いたの初めてだ」


結局ライアは昼食の時間まで来ることなく、昼になると先にぐったり食堂の椅子に座って足を投げ出した。


「目が見えないことは些細なことか…… 」


恐る恐る庶民の中に入れば、初日からこれだ。

私の人生、ずっと家や城の中に引きこもって、静かな中に響く使用人の声と物音しか聞いてこなかった。

こんな喧騒、初めてだ。


「あーー! ここにいた!

レスラちゃん! なにサボってんだい! ほらこっち来て食事の準備!

一人分を皿に入れていくんだよ!

レスラちゃんはサラダ入れて、1つの皿にパン以外を載せていくからね。

皿は洗いながら使い回すから、手が空いたら拭く方に回りな。

木の皿だから落としても割れないからね、気兼ねなくやるんだよ。

もうすぐ腹すかせた男達が群がってくるんだから、早く早く!

準備しないと自分が食われるよ! 」


「え? え? あっ! わかった!! 」


慌てて杖を取り、声の方へと急ぐ。

ここでは落ち込むヒマも、考えるヒマも何もかもが吹っ飛んだ。

リリスとマリナは、心急くレスラカーンとちっともゆっくり話をしてくれません。

父親を1日も早く何とか救って欲しい、黄泉からの言づても早く聞きたい。

心は焦るばかりです。

村人達は、セフィーリアの館をまるで仮の神殿のように見立て、宿泊所を建て終わると調理場や風呂まで建て始めました。その指導は地の神殿を参考にイネスがやっています。

王家の一件のあとも、ここを神殿として使えるようにと言う心配りもあります。

セフィーリアの許しは無いですが、彼女は家の事に関しては無頓着です。

いっそ、リリスが長くここにいてくれるなら、その方が彼女には嬉しいでしょう。

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