356、ようやく家に戻りました!
ホムラのたてがみにつかまって、リリスが身を乗り出す。
エリンが、少しもじっとしていないリリスに苦笑しながら彼の腰をしっかりと抱いた。
「リリス様、もう少し落ち着いて。落ちますよ」
「大丈夫!大丈夫です!風の精霊たちが集まってきました!
ほら、お二方、御館が見えてきましたよ。
おや?何でしょう?随分建物が増えてますよ?わあ!何だろう?いっぱい人がいます!
何か始まるんでしょうか?」
「村人が多いですな、私は手前で降りて人に戻ります」
ホムラは、人に戻るところを見られない方が良いと思ったのだろう。
しかし、ふとリリスがとんでもないことを提案した。
「いえ、いつものように中庭へ。
受け入れられるかどうかは後回しにしましょう。
あなた方の中で、恐らく一番人に受け入れられやすいのはあなただと思います」
「えっ??!私がでございますか?」
ホムラが驚いてグルクの顔で振り向いた。
「だって、覚えていますか?あのレナントの人々を。
巫子がいる。それだけで人は受け入れやすくなっています。
さあ!勇気を出して、みんなのど真ん中へ!」
「えー、それは勇気がいりますね、ホムラ殿」
「ううむ、なんと言う難題……」
「リリス様が、我々に様を外せないのといい勝負の難題で」
エリンが苦笑いで返す。
ホムラは多少気を落としたふうで、腹を決めて人々の待つセフィーリアの館の中庭へと向かった。
「どうだ?!どうだ?見えるか?」
「ブルース殿、少しお静かに」
ミランが、落ち着かないブルースをたしなめるが、彼もガーラントも落ち着きが無い。
中庭で、村人を合わせ大勢の人々が巫子の到着を待ちわびる。
皆で突貫で作り上げた家が中庭の周りにぐるりと出来て、納屋にはレナントの馬車やミュー馬も並んで、セフィーリアの館はまるで小さな村のようだ。
「上だろ?上から来るんだろ?」
ブルースが、明るい声でゴウカに語りかける。
「ホムラが一緒ですから、上からだと思うんですが……
この村人の数では、異形と見られるのを拒むやもしれません」
「みんなには話したから、大丈夫だ。
巫子に仕える者にビックリするなとな!」
「無理ですよ、そんないきなり……」
ゴウカがあきらめ顔で、顔の前垂れを上げかけて下ろす。
やがて、リリスの姿のマリナがグレンに抱かれ、一足先に来たルシリア姫と歩んできた。
「来るよ」
指さすその声と同時に、屋根の上の地の巫子イネスが声を上げた。
「おーい!リーリー!!おかえりーーー!!」
ハッと皆が見上げると、大きなグルクに乗ったマリナの姿のリリスが
手を振っている。
「おお!あれが巫子様だ!もう1人の火の巫子様だ!」
胸で手を合わせる村人が、次第に降りてくるグルクを心待ちにする。
マリナの姿は神々しく髪が赤く輝き、手を振る姿は遠目でも美しい。
リリスを乗せたホムラは戸惑いがちに上空を回り、リリスに力づけられながら、ようやく降りてくるとバサリと1つ羽ばたいて、優しく地上に降りた。
「わあっ!皆様どうなさったのですか?!これは!
凄い凄い!いっぱい泊まるところが出来ていますね!
わあっ!納屋にもちゃんと綺麗に馬屋が作ってある!
ビックリです!リリスはどなたにお礼を言ったらいいのでしょうか?!」
ただいまも忘れて、リリスがしきりに周りを見て興奮している。
沢山の村人が集まっているなんて、今までこんな事見た事もない。
「みんなビックリしてるぜ、巫子様。
早く降りてからまずは挨拶だ!」
ブルースが笑って、ガーラントが彼の身体をエリンから受け取る。
ストンと地上に降りると、周りを見回した。
村人達は、ポカンと口を開けてみている。
村長が、前に出てお辞儀した。
「なんと美しい火の巫子様だ、ようこそ風の丘の村へよくおいで下さいました」
マリナの身体のリリスは、驚いて深々とお辞儀する。
ポンと元気に顔を上げるとほっぺを赤くして、サラサラの白金の髪が赤く輝く。
ずいと顔を寄せるリリスに、思わず村長が一歩引いた。
「お久しぶりでございます!村長さん!リリスはビックリしました!
あっ!レナントの方もご無事でお付きになったのですね!」
リリスはいつものようにニコニコ元気に周囲に語りかける。
村人は戸惑いがちに、お互い顔を見合わせた。
「魔物っ子が入れ替わってやしねえかい?」
大工の棟梁が、ついぼやいて奥さんにドスンと突かれた。
リリスがにっこり笑って、村長にぴょこんとお辞儀する。
「 え、あ!今、訳あって身体を、マリナと入れ換えているのです!
村長さん!村の方達がこんな立派な物を?
リリスはビックリして言葉も出ません!
マリナですか?マリナですね?やっぱり本物の巫子様は違いますね!
マリナは凄いので、いっぱい教えて頂くことがありそうです!
マリナ!青!青はどこ?ここにいるんでしょう?!意地悪しないで出てきて!」
焦るリリスがみんなを見回す。
すると、ガーラントが彼の腕を握った。
「落ち着け、まずは我らの言葉を聞いてくれ」
「え!?あ、はい。申し訳…………」
振り向いた彼を、ガーラントがポンポン肩を叩いて両手を取り落ち着かせると、その前に片膝を付く。
それに習って、騎士や戦士全員が彼に向かって膝を付いた。
「赤の巫子、リリス・ランディール殿、
遠方での魔物退治、お疲れでございました。
ご無事のお帰り、一同心待ちにしておりました。
お帰りなさいませ!」
「お帰りなさいませ!巫子殿!」
「ご無事で何より!」
皆が頭を下げ、リリスが驚いて直立不動で硬直する。
目をぐるぐる回して、一体何が起きているのか、なんと返せばいいのか頭が回らない。
見回せば、騎士も姫も村人達も、皆自分に頭を下げていた。
生まれた時から人の下の下で働き、学校にも村人の反対で行かせて貰えず、悪魔と呼ばれ、魔物扱いされたリリスです。その村人が皆、巫子と認めて頭を垂れます。
リリスはただビックリして目をぐるぐるです。
彼は虐げられた思い出も、虐げられたと思ってないので、小さい頃からお世話になった村の人くらいにしか思っていないかも知れません。
器が大きいとかそう言うものでは無く、ただ、赤い髪だからみんな嫌うのは当たり前のことと受け入れていたのです




