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349、焦る魔導師達

「ニャンかキアン見失にゃってにゃー、仕方にゃいからレスラの部屋にいったにょ。

ニャンか食べるのにゃい?おにゃか減ったにゃー」


毛繕いしながらぼやく黒猫が、積み重ねられた本の上でくつろぐ。

しかし魔導師の塔の長ルークは、黒猫になっている異界人アイの持ってきたレスラカーンの手紙を読んでそれどころではなかった。


「ニード!来い!」


来る気配のないもう一人に、杖を持ちドンドン床を鳴らす。

いつも元気に飛び出すクセに、出てこないときは後ろめたいときだ。

つまり、何かあったことを示して、非常にわかりやすい。


来ない相棒に、額に青筋立てたルークが、ドンとひときわ大きく杖を突いた。

すると、床を突き抜けストンとルークの身体が下の階に降りる。

地の魔導師ニードの部屋は、あらゆる色の石やワケのわからない置物、干した植物、ビン一杯の種や木の像、割れた壺、壊れた鏡、本当にワケのわからない物であふれかえり本は端っこでホコリをかぶっている。

これはすべて、彼が修行と称して放浪の途中収集した、何らかの精霊や魔導に関連した物らしい。

彼を呼び寄せた時、馬車一杯に積んできたので本かと思ったら全部ガラクタで絶句した。


横を通ると、突然、ぶら下がってる石に翼が生えてバタバタし始めた。

それをきっかけに、幾何学的な模様の彫ってある木に木が彫ってある壁掛けから、モ〜と牛みたいな声が出る。

床にゴロゴロ転がる小石に足が生えて一斉に走り始めた。

いちばんいやなのは、壁の派手な装飾の鏡が、光り出したかと思うと大きな目が開いてこちらをギョロリと見る。

思わずルークが、近くの膝掛けを取って鏡にかけた。


無人でも変な物音がするのは、だいたいこの部屋からだ。

人の気配を感じて壁際の棚の裏を見る。


「や、やあ、おさじゃないか。なんだい?」


壁と棚に挟まれて、滝汗流して隠れていた。


「わかっているようだな、結界担当。貴様、禁を破ってでも王子から目を離すなと言っただろうが」


そう言って、棚をグイグイ背中で押す。


「ぎゃあああああ、死ぬ!死ぬうう!!押すなああ!!」


フンと鼻を鳴らして、腕を掴むと引きずり出した。


「いだだだだだ!!いたい!いたーーーい!!


だって、最近あのニセ王子、夜中に庭で若い兵士見つけちゃ草木の影に隠れてアレしてるんだもん。

だんだん見てる俺もつらくなってきた」


ふうっと何だか、たそがれている。

魔導力が落ちると性交がタブーとされている魔導師には、人の性行為見るのは確かにつらい。


「だから?で?」


「えーと、そういう訳でー、ちょっと目を離しただけなんすよ。

現場からは若い兵しか出てこなかったし、そいつまで追わなかったんだもん」


「で?その場の王子は?宰相は?」


「王子は〜どこ行ったか出てこなかった。つまり見失った。

で、突然何故か、宰相の部屋から王子が現れたわけよ」


「わけよ、じゃない!

どうするんだ、これは重大案件だぞ?!

レスラカーン様から手紙が来た。見ろ!」


「え〜」


受け取って、何も無いところに座ろうとすると、タカタカと椅子が走ってきた。

ニードの部屋は、支離滅裂だ。いるだけで頭が痛い。


ニードがその短いメモというほどの手紙を読み、愕然と顔を上げる。


「これって……宰相が?じょーこー??肉体関係??

……王子は偽物だと確信したってあるぞ?

まさか、あれって、ただニセ王子が盛ってたんじゃ無くて、襲って眷族増やしてたのか?!

凄い数の男を襲ってたぞ?!」


レスラカーンには、王子に何らかの問題が生じているかもしれないと言ってある。

王族の誰もが現実を受け入れられず鈍感を装う中で、レスラカーンだけは目が見えない分、王子の変化を敏感に感じ取っていたからだ。

今もっとも城内にいる王族でまともなのは彼だけかも知れない。


「ああ、まずいぞ、宰相を寝取られた。

恐らく、奴は宰相を自分の配下に置いたのだ。

宰相は王より扱いにくい。指1つで軍も動かす、ミスリルも持っている。

そして、知られていないが、彼は元々暗躍する影の王だ。

暗殺などお手の物、我らとて危うい。

これはますます動きにくいぞ。


クソ、またマリナ様に役立たずの烙印を押されてしまう。

いや、それよりレスラカーン様がまず邪魔者になる。

王弟王子が騒げば、ニセ王子は疑いの目を向けられる。

貴族もレスラカーン様につく者も多いだろう。彼も王位継承権を持っている。

ニセ王子は、最近人が変わったような行動を隠さなくなってきている。

男色もそれの1つだ。

偽物の口実を与えられる前に動き出すだろう。

とにかくレスラカーン様の避難を優先させよう」


「それだ、俺がいい物持ってる。

ほら、先日神殿に行ったとき、身代わり石もらってきた。

ヴァシュラム様特製の本物だぜ?ただ、神殿に3個しかなかったんだよなあ。

全部持ってきちゃった」


そう言って、吊した干し草をかき分け、取り出した袋から黒いまん丸の石を取り出した。


「使い方は簡単、使う人間の血を落とすだけ」


「これか、初めて見る。

よし、急いだ方がいい、決行は明日明るいうちだ。

私が現し身を作って猫に同行する。

レスラ様の部屋には身代わり石で作った身代わりを置いて偽装する。

お前はその一瞬結界を解け、魔導で道を作ってここに誘導する」


「どこに避難させるんだ?」


「とりあえず結界内のここの地下にかくまう。その後はまた考える。

最悪城外に出て頂くことも考えよう」


「猫って、あいつ?」


「ああ、アイを使う、その為にここにいるんだ。

まずはレスラカーン王子を盗んでもらおうか」


ニッとルークらしくない顔で笑い、元々考えていた方法を話し合う。

だが、ふと首を傾げた。


「それにしても、本物の王子はどうなってるんだ?」


「中で寝てるんじゃないの?」


ふーむと、ルークが腕を組む。


「自分の思う性対象と違う性行為だよ?王子は無類の可愛い女の子好きの面食い。

それが相手は年上のおっさん手前の男。

自分の身体で行われる、男色行為なんて耐えられるかい?君」


ガタンッと、いきなりニードが立ち上がった。


「い、い、い、嫌だ! 俺は胸はぺたんこでもお尻の大きい女の子がいい!

僕は、プルプル震えながら四つん這いで椅子になって、大きくてふっくらしたお尻で背中に座ってもらうんだ!

そしてそして、彼女の素足でこの手を、グリグリ踏みつけてもらって〜〜、あああああ!いい!な!なー!」


何だか何かのスイッチ入ったように、鼻息荒く、ニードが自分を抱きしめくねくねする。


「なーとか言ったってわかるか、お前の変態度がドンドン上がっているのは良くわかった。

実践したら壁に埋めるから覚えとけ」


「いやだ〜、ルークもさっ!一度女の子に殴られるとズキュンと来るんだから〜」


「来るか、変態」


こいつのどうしようもなさは十分わかっているとして、あのニセ王子は急にたがが外れたように動くようになった。

これは、もしかして…………考えるより動きが速いかもしれない。


くねくねするニードの横で、顎をさすり視線を巡らせる。

キアナルーサが自分の身体を逃げ出したことなど、まだ知らない彼らだった。


魔導師の塔は、城内にありますが独立した魔導師の総本山です。

ところが、あれだけいた魔導師達のほとんどを役に立たない雑魚とルークは判断し、全部一切合切追い出して、有能で使える奴らを集めようとしていた途中です。

まだ3人しかいません。

何故そこまで思い切ったことをしてしまったのか、それはルークが先見だからです。

この悪霊の出現を、彼はそれが何かはわからなくとも、大変なことになるということを、予見していたからこそです。

しかし3人、やはり手が足りません。

そしてルークも、自分が火の関係者だという事は、今はまだ、隠さねばならないのです。前途多難です。

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