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348、レスラカーンの直感

ハッと、レスラカーンが目覚めて身を起こす。


何か胸騒ぎがして、手探りでベルを探した。

時間が遅いのはわかっている。

それでも、気遣いなど出来ないような胸騒ぎだった。


リンリンリン


涼やかな音に、警備の兵が気がつき、ドアのノックが鳴った。

それより早く、ライアが上着を着て腰に剣を下げながら続き部屋から現れる。


「いかがなされました?レスラカーン様」


「胸騒ぎがする。父の所に行きたい」


起き出す彼に、ライアが止める。


「夜遅くございます。気になるのでしたら、ライアが外の兵に聞いて参ります」


「いや、自分で行きたいんだ。このままでは眠れない」


起きだし、サンダルも履かず杖を持って歩き出す彼に、どこか切迫した感じを受ける。

ライアはとにかくサンダルを履かせ、手を持ち宰相の部屋へと急いだ。



宰相の部屋は、同じ階だが少し離れた場所にある。

角を曲がって途中の兵に変わりは無いか問うが、ほんの一瞬でもうっかり寝ていた事もあって、後ろめたい事のある兵は一様に大丈夫と一点張りだ。


「本当なのか?お前達の言葉は硬く、いつもの様子ではない。

私を甘く見るな。

私はお前達の言葉だけを聞くのでは無い。顔の見えぬ私がお前達から受けるのは、その動揺だ。

通せ、父上の顔を見ねば私は安心できぬ」


「とっ、とにかくお静かに、お時間をお考え下さい。どうか、どうか」


宰相は恐ろしい男だ。押し切ろうとする彼に、罰を恐れる兵が思わず手を出す。

だが彼は、その手を払い、ピシャリと言った。


「そこを退きなさい、息子が父を心配しているだけだ。顔を見たら戻ります」


ライアが兵を退かせ、レスラカーンが構わず歩みを進める。

父の部屋の直前にくると、彼が口を押さえ思わず立ち止まった。


「なにか、変な……臭いがする」


「確かに……なにか死骸のような……」


ライアが見回していると、レスラカーンが父親の部屋のドアを叩き始めてしまった。


トントントン  トントントン  トントントン


厚いドアに、響かない音をもどかしく思うのか、ドアを探り始める。

それがまるで父にすがりついているような彼の不安感を表しているようで、ライアは耳元に語りかけた。


「兵が見ております。私にお任せを」


「す、すまぬ。ドアの、どこを叩いて良いのかわからぬのだ」


「申し訳ありません、これはライアがやるべき事です」


コンコン、コンコン、コンコン、コンコンコン


響く音でしつこくドアを叩いていると、やがて静かに、重いドアが開いた。


ギィィィ  ……


暗闇から、人の姿が浮かび上がる。


「父上!……じゃ、……ない……」


何故か、恐ろしい物でも感じたように、レスラカーンが一歩下がった。



「  ナニ か?  」



うつむくその人物が、静かに顔を上げる。

手に持つロウソクに下から照らされるその顔は、世継ぎの王子のキアナルーサだった。


ゴクンと息を呑み、ライアが自然にレスラカーンを守るように前に出る。


「王子?王子が?いつの間に?」


周りの兵が驚いて顔を見合わせる。

いつの間に王子が訪れたのか、気がついてなかったなど誰も口に出せなかった。


「もう良い、お前達は下がれ。

王子にお聞きしたいことがある。下がれ、離れよ」


とっさに、ライアが兵達を数部屋先に下がらせる。

声を潜め、彼らに聞こえぬように顔を近づけた。


「どうしてあなたがここに、この時間にいらっしゃるのです」


ライアの強気の問いに、キアナルーサはくっと笑って、開いていた服の合わせのボタンを上から留めていく。

不敵に笑うその顔には、素朴さが微塵も残さず消え失せ、何故か艶めいた顔に見えた。

ふわりと浮いた服の合わせからは、裸体が見えてライアが思わず大きく目を見開いた。


「相談に乗って頂いて、話が込み入り今の時間になったのだ。

叔父上様に悩みを聞いて頂くことに何の不都合があるか。

お前達がどうこう言うことではない。

叔父上様はお疲れだ。フフフ……この事は父と母には内密にせよ。良いな」


「な、何を、内密にと」


「不粋な物よ、叔父上はお疲れであった。私も悩みを聞いて頂いた。

その結果どうなったかなど、お前に言う必要もなかろう」


「こ、のような不埒なことが……!」


ライアが声を震わせる。


「何を子供のようなことを。

お前こそ、今の生活を変えたくなければ、見なかったことにせよ」


不敵なキアナルーサに、レスラカーンがライアの肩に手を置いた。


「ライア、何がどうしたのだ。キアナが何かしているのか?」


「そ、それは……後ほど」


言葉を濁すライアに王子はククッと不気味に笑い、ドアから出て静かにドアを閉めた。


「無礼であろう、夜中に騒がしく情交の邪魔をする不粋なやからよ。

部屋に戻る。兵の同行はいらぬ、お前達もさっさと部屋に戻れ」


そう告げて歩き始め、ふと立ち止まり振り返った。


「レスラカーン、その年で父に頼るのもいい加減にしたらどうだ?

それで宰相を継ぎたいなど、片腹痛い。

私は足手まといになるような甘ったれた臣下はいらぬ」


呆然と立ちすくむレスラがハッと我に返る。


「も……申し訳…………」


ククッと笑って、幽鬼のように去って行く王子を見送り、ライアがハッとレスラの手の震えに気がついた。

父に会って、など言い出さないうちに、彼の手を取った。


「レスラカーン様、部屋に戻りましょう。もう遅うございます」


愕然と部屋の方に顔を上げ、無言でうなずく彼の手を引き、兵を置いて急いで部屋に戻る。

部屋に入るなり、レスラは顔を覆って激しく首を振った。


「あ……れはなんだ?!今は夜中なのだろう?何だあの口ぶりは!父と情交?情交だと?!まるで……」


下卑た花売りのような……とは、口に出せなかった。

ショックが大きすぎて、涙も出ない。

ただただ、手が、身体が、ブルブル震える。


「お静かに、レスラカーン様。どうか座って、落ち着いて下さい」


そう言う自分も落ち着いていない。

あの、姿……宰相と王子が……情交だと??

相手はキアナルーサだぞ?あの、美しさにも遠い、平凡な!宰相は気でも狂ったのか?

どう見ても、いや、まるで、人が変わったような……


「ライア、私は……魔導師の塔へ行きたい」


「魔導師の?それは…………」


「ライア」


レスラカーンが、大きく深呼吸するとライアの耳に口を近づけ囁いた。

そして、しっと指を立てる。


父の優しく厳しい声が浮かんでは消える。

そんな事をする人ではない。父は厳格を絵に描いた人だ。何かあったに違いない。

落ち着け、落ち着け、感じたことを伝えなければ。

これは、大切なことだ。

だが、口にするのは危険なことでもある。

今も、見られているかもしれない。これは、ただ事では無い。


恐らく、父は、狙われたのだ。

青い蝶に注意せよと忠告を受けた物と関係するに違いない。

何か呪いを帯びた物が、城内にあると魔導師達は言っていた。恐らく、王子も父も狙われたのだ。


そして…………


「ニャン」


ちょうどその時、アイネコが、窓の外から小さく鳴いた。

レスラカーンが希望の声を聞いたように、大きく目を見開き立ち上がる。

ライアが窓を開けて彼女を招き入れると、この苦しみを紛らわせるように彼女のしなやかな身体を抱きしめ、なめらかな毛並みを撫でた。


たった二人の親子です。

そして、レスラカーンの母は火の巫子です。

彼のカンの良さは母譲りかも知れません。

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