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346、宰相サラカーンの秘密の告白

キアナルーサが、そっと、唇に指を立てる。

そして、甘く囁いた。


「叔父様、ご安心下さい。

あなたが叔母様を殺してしまったこと、誰にも話しておりません。

ええ、これは私とあなたとの秘密。

2人だけの秘密です」


「ど、どうしてそれを……!」


サラカーンが、大きく後ろによろめいた。

愕然と顔を覆い、頬をかきむしる。

頭を抱えてガクンと膝を折り、床に手をつき何度も首を振った。


「ち、違う、あれは、妻は、お産で死んだのだ。

産後の肥立ちが悪く、……ああ!息子は難産だった!


違うっ!違う!違う!違う!違うっ!    違うっ!」


「叔父様、私はあなたの苦しみを知ってしまった。

知ってしまったのです。

ずっと、どれほど苦しまれているのかと、何も知らぬ父や母、そしてレスラカーンには腹立たしく思っていました」


「ち、違う、違うのだ。あの子は、何も知らない。

自分のせいで母を失ったと、自分を責めている可愛そうな子なのだ」


ボロボロ涙を流し、キアナルーサにすがりつく。

そして、何度も首を振った。


「息子は、だから、あの子は悪くない。

あの子には、謝っても謝りきれぬ。

せめて、一介の貴族であれば、あの子は母を失わずにすんだ物を…………


妻は、お産が終わった数日後、彼女はレスラに乳を与えながら告白したのだ。

幸せそうな顔で。

これでようやく、フレアゴートの力になれると。

彼女は、自分は…………


ああ……


ああ……


青の……青の巫子だと!


私は、その意味がわからなかった。

火の巫子に、青と赤があるなど。

だが、私は確かに口伝を聞いていたのだ。

“火の巫子をそろえるな” と。


その頃、赤い髪の者が郊外の村で奇跡を起こしていると聞いて調べさせ、殺すよう指示していた。

我が子は美しい金の髪で…………、安堵していたのだ。巫子など、関係ないと。

それが、こんな……!まさか妻が巫子だったなんて。

あれは何でもない、下級貴族の優しい娘だったのに。

一目で恋に落ちて、身分違いを押してようやく結婚できた。

心から……心から、愛してやまない妻だったのに」


キアナルーサが、涙を流してすがりつく叔父の顔を愛おしそうに優しく抱きしめる。


ああ、あと一押しだ、宰相サラカーン、さあ、早く崩れなさい。

そうすればラクになる。

あなたと私の間が、ドンドン近くなる。

私の中に、溶け込んでしまうのです。

ああ、早く、早く、あなたの熱を私に、あなたの精気を私に。


「おお、なんと言う、悲劇でしょう。

あなたはそれで、殺してしまったのですね。

王家の口伝を厳守して」


「ああ、ああ、私も、愛する妻を殺したくなどなかった。

だが、相談した魔導師ゲールは毒を差し出し言ったのだ。

王族なれば、道は1つだと。

私は愕然として、いっそ魔導師どもの井戸に、それを投げ込もうかとも思ったとも。

だが、真っ暗な井戸に心情を吐き出すくらいしか……、私は、無力だった。


私は、祝杯だと妻に、レスファーナに毒を盛った。そうするしかなかった。

彼女はベッドの上であの子を抱いて幸せな顔で、そして、何も知らずに毒を飲み干し……


そして、


口からあふれる血を流しながら、

震える手で、抱いていたあの子を私に差し出し……

小さく、かすれた声で、頼みますと…………


だが、それからが私のさらなる地獄だった。

彼女は激しく苦しみ、のたうち回り、何度も血を吐いて、あまりの苦しみように、私は恐ろしくなって部屋から逃げ出した。

だが、部屋を血の海にしても、彼女は死んでいなかったのだ。


ああ、

ああ、


私が何をしたというのだ。

私は、私は呪われているのか?


ああ、

ああ!!


私は、短剣で刺すしかなかった。 この手で !!

私は!彼女の胸を!


ああああああああああ!!!


おのれ、おのれ!ゲールめ!あれは苦しまずに、眠るように逝くと言うたのに!!

憎しやゲール!!憎しや…………ううう」


ゲール……か……先代魔導師の塔の長。

あの男ならば、言いそうなことだ。礼を言うぞ、融通の利かぬ愚かな魔導師。


「ゲール……は、旅に出たと聞きましたが?」


「…………あれは…………


シリウスの城で、拷問にかけて、苦しめて、苦しめて、そして、殺して、埋めた…………」


苦しそうに、憎しみを込めて言葉を絞り出す。


ククッ、相応しい末路よ。


ランドレールは笑いながら、キアナルーサの顔で悲しくうつむいた。


「そう……そうでしたか……

叔父様は、敵を討ったのですね」


顔を両手で覆い、宰相が何度もうなずく。


激しい告白に、苦しみを抱えていた心情を吐き出す彼に、キアナルーサが同情して背中を抱いて語りかけた。


「ああ、そんな酷い、恐ろしいことが…………


なのに王は、あの王は。


あなたがそんな思いをしているとも知らず、赤い髪の子を殺さなかった。

なんと言う裏切り。

なんと言う……ひどい仕打ちでしょう。

あなたは妻を失ったのに、王は何も失っていない」


ギリギリと、サラカーンが歯を食いしばり、そして床に手をつき手を握りしめる。


「レスファーナ……彼女は美しく、優しい、慈愛に満ちた人だった。

ああ、私は一目で恋に落ちたのに。

私はあれほど幸せだったのに。


ああ…………


ああ……




憎い、



兄者が……王族が、すべてが、憎い。



憎いっ!!」



ニイイィ


く、く、く、


ランドレールが、心の中で声を上げて笑う。

それは、この国の宰相サラカーンが、堕ちた瞬間だった。


自分は妻さえ殺したのに、王はリリスを生かし、そして手放すだけに終わってしまった。

その衝撃は、妻を殺した激しい後悔と共に、手下を使ったリリスへの激しいせっかんになりました。

そして、妻への懺悔のように、一人息子を大切に、大切に真綿で包むように溺愛してきたのです。

しかしそれは、レスラカーンには重い愛情に目が見えない引け目ばかりを生んで、身動き取れない辛さでしかなかったのです。

罪深い人です。

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