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赤い髪のリリス 戦いの風〜世継ぎの王子なのに赤い髪のせいで捨てられたけど、 魔導師になって仲間増やして巫子になって火の神殿再興します〜  作者: LLX
29、城を包む暗雲

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344、精霊の国の王の絵

深夜、宰相サラカーンは、兄の言葉が頭から離れず眠れなかった。


『 火の巫子に、火の精霊王に謝罪する 』


あれは、本気の顔だった。


『サラカーン、我が弟よ。

時が来たのだ、変化の時が。


何故と問うか、ならば見よ。

このドラゴン使いと歌われる王の元に、集う精霊王が誰1人いないのは何故だ。

風は私の為に来ているのでは無い。

あれは夫を、息子を案じて城に来たのだ。


精霊の国でありながら、すでに精霊の心はこの国を離れていると言えよう。

サラカーン、私は心配なのだ。

キアナルーサの奇行を見ていると、この国の行く末は……もうすでに先が短い。


あの巫子はなんと言った?

城にある呪いと、そう言ったではないか。

私は、世継ぎが心配でならぬ』



サラカーンが、バッと布団を跳ね飛ばし起き上がった。


「何が心配だというのだ!何が!!

呆けたか兄上!王家はすでに、精霊など必要としていない!!

何故それがわからんのだ!」


頭を抱えて、腹立たしさに、枕を掴み投げつけた。


何度もだ、

何度も何度も、

何度も兄を説得しようとしたが、ますます決意を硬く、考えを変える素振りがない。

明日にも巫子に使いを出すかもしれないと思うと、気が狂いそうだ。


「何故気がつかないんだ。

このアトラーナが変わらねばならないのは、その、“精霊の国” と言う呪縛からの脱却なのだ!!


精霊の国!   精霊の!


じゃあ我ら王家は何だという!


だから先祖は変えたのだ!火の巫子が一件をきっかけに!

火の神は巫子を失ったショックで、人の言いなりになった。

それは良い機会だったのだ!

先祖がやったことを、受け継ぐことこそ我らの仕事!

今更火の神殿だ?!


笑わせる!!」


燭台を取り寝室を出ると、居室の壁にある絵を照らす。

宰相のデスクからもっとも目に入る、王にかしずく四精霊の絵。

燭台をデスクに置き、その重い大きな絵を横にずらした。

絵はしばらく動かさなかった為に、レールの滑車にサビが来たのか重い。

ゴトゴトと横にずらすと、ホコリをかぶった下敷きの分厚い布が現れた。

苦々しい顔で、横に下がるヒモを引くとコロコロ軽い音を立て、ホコリを散らしながら巻き上げて行く。


そこまで厳重に、何が隠されているのか。


そこには古の時代の、壁のタイル絵が鮮やかに描かれている。

サラカーンはそれを見つめ、唇を噛んだ。


それは、地と水と、風の精霊たちに祝福され、天に輝く日の光に照らされる火の神フレアゴートに向かって、ひざまずき、手を合わせる王と王妃の姿。

2人は火の神に祝福を頂き、頭から輝いて喜びに満ちた顔をしている。

おそらくは魔除けの絵だったのだろうそれは、今では隠すべき、忌まわしい絵だ。


「くそっ、こんな事があり得るものか、王家は災厄から300年近く精霊どもを押さえつけてきたのだぞ?

また我らが精霊にかしずくというのか?

馬鹿な!」


この絵が隠されている事を知ったのは、やはり王弟だった年老いた叔父から宰相の座を譲られた時だ。

驚き問いかける自分に、叔父はこの絵を指し、これは間違った時代の記録であると告げた。

火の神殿は許してはならぬ、精霊への慈悲を捨て、火の巫子はすべて殺せと強く言った。


「王家は、精霊より上でなくてはならない。

かしずくのは精霊だ。

そうで無くてはこの300年、存在を殺してきたあの火の巫子たちをなんとする。


罪もない国民を、ただ虐殺してきたことになるではないか!

いいや、それには意味があったはずだ。

あの者達は、この国の、王家の為に死んだのだ。


この国に、火の神殿など、いいや、もうこの国に精霊の神殿などいらないのだ。

神殿は、あれはただの安っぽい宗教でしかない。

安っぽい神など何だという、ただ力を持った精霊と言うだけだ」



『   よく、   言った   』



どこからともなく声がした。

バッとサラカーンが辺りを見回すが、部屋には誰もいない。


「気の……せいか……」


外には見回りの兵の足音が時折密かに響く。

先ほど見回りはすんだはずなのに、ズルリ、ズルリと足を引きずるような音がして、嫌な予感にドアを見る。

顔を背けるとグラスを出して酒を注ぎ、一気に飲み干した。



その外の廊下では、ゆらゆらと、1人の若い兵が廊下の暗いランプの明かりの中、燭台も持たず闇をまとい廊下を歩んでいた。

王族の居住棟には、先祖の代より一切魔導師の目が入らないよう契約している。

魔導師達が守護を名目に王家の私生活を覗く事を嫌った為だが、夜間の兵の数は少なく、廊下を守る兵達は何故かその男が出す毒気に触れると、声も出さず眠ってしまった。


表情のないその若者は、服ははだけて胸を出し、乱れた服装は昼間ならば目立つ姿だ。

だが、夜中のもっとも人が少ない時間帯。灯りも持たず闇のようなもやをまとう彼には誰も気がつかず、宰相の住む上の階まで上ってきていた。


その若い兵が、ゆらりと、宰相の部屋のドア近くで、ふと立ち止まった。

ゆっくり上を向いて、大きく口を開ける。

その兵の口からは、ドロドロと黒い粘液のようによどみがあふれ出し、そしてその兵の顔も見る間に痩せて骨皮になり、髪が抜け落ち、そしてカサカサと白く灰になって、廊下の窓の隙間から消えて行く。


床に広がる黒い澱みは、まるでその男の精気を得たように力強く素早く盛り上がって人の形になり、すっぽりとワンピースのような寝間着を着た裸足の少年の姿へと変わった。


アトラーナは精霊の聖地、精霊の王が集まる国。

何故かは知らないけれど、そこはだから精霊の国と言われ、そこに住む人々も精霊のおかげで発展してきました。

神殿には他国からも人が集まり、良い関係を築き、お金も物も流れ込みます。

小国でありながら豊かになったアトラーナは、しかし王家にとっては精霊のおかげで保たれる安泰な状況が面白くなかったのです。

かしずくのはどちらだ?

それは王家か、精霊か。

精霊の中でも最高神の火の神の失墜は、精霊をかしずく方に向かわせてしまいました。

一度かしずかれた人間は、現状を変えたくない。

昔の絵は、まさに精霊の国の、王家を表す絵です。

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