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337、元王様の忠告

アトラーナが、滅びる……

そうだ、青も言っていた。

火の神殿が、このまま再興されなければ国が、滅びる……

ああ、やはり、やはり……この国は、すでに大きく歪んでいる。


「青も同じ事を言っておりました。でも……まさか、そのような事が」


「わしを誰と心得る。巫子にして王、ヴァルケン王である。

トランは言うまでもなく、他の2国は甘い顔をして近づくが、手ぐすね引いて待っている。

アトラーナは精霊の国だからこそ守られてきたのだ。

ただの小国であれば、あっという間に滅びよう。

良いな、他の2国にも油断してはならん。


娘を嫁にやっても気休めだ。次の瞬間人質になる。

嫁をもらうのが肝心だぞ?

わしの妻はのう、トランの貴族の嫁だったが、殺して奪ってやった。

ま、お前達にはわからぬ事よ。あれは美人でなあ、一目惚れだ」


引きつった顔のリリスに、ニイッと笑ってみせる。


「奪った女を惚れさせるのも男の矜持よ、わしの生きた時代はそうであった。

まあ、天地が返ってもお前が王になる事は無いだろうがな。

気に入った女は奪ってこその王だ。

わははははは!!」


野蛮だな〜


リリスの目が据わってちょびちょび杯の酒のような薬のような水を飲む。

とは言え笑い事ではない。

考えてみれば、そう言うときのためにラーナブラッドの誓いまでして忠誠を頂くのではないのか?


「でも、精霊王は、そう言う国の大事の時には……」


「精霊は人の争いには手を貸さぬ。

それだけのことを、あの王家はな……わしの不甲斐ない子孫どもはしてきたのだ。

精霊たちの絶望感は深く、人に何も求めぬ代わりに何も与える気は無い。


アトラーナは聖地だ。

だが、このまま火の神殿が無ければ、土地の気が落ちて聖地でもなくなる。

わしはこの黄泉から見て、今のままなら聖地はトランへ移るだろうと考えている」


「トランへ?」


「そうだ、トランとアトラーナは元々1つの国。

特に地の神殿は昔は数カ所あってな。隣国、トラン側にもあったのだ。

だが、ヴァシュラムは他の神殿が集中しているアトラーナを残して、トランからは神官を引き上げさせた。

つまりそれからわかる事は、トランも聖地の資格があるという事だ。


トランは地の神殿と繋がりが深いが、それは今でも地の神殿にトランへ移って欲しいと思っているからだ。

地が移せば水も移る。

風も、火も追従するだろう。

トランであれば、火の神殿の再興には喜んで力を貸してくれる。

王家は精霊を敬う気持ちがある、その余裕がある。


だがな、わしはこの国の王だ。やはりアトラーナを守りたい。


ギリギリまで、そう願っている」


ヴァルケンが、遠くを見て愛した国の行く末を案じている。

彼はトランと、幾度も激しい戦いをくぐり抜けてきた英雄王だ。

リリスが、杯を膝に置き、大きくため息を付いた。

もう、あとがない。

それがズシリと重荷になる。


「深く考えるな。お前はそう言うところがマジメすぎる。

何も王家に認められずとも良いのだ。

町の一軒家で民に囲まれ、神事を始めても良い。

だがな、それは手を尽くしたあとの事だ。


青には、赤と共に戦えと送り出した。

行きすぎたことをしても、行き着くところは同じ。

生きていればやり直しは利く。

まずはやってみるのだ。

恐れるな、お前はもう、すでに沢山の味方に囲まれている」


「師よ、……1人でアトラーナを背負うには、荷が重すぎる。

重すぎるのです……」


気弱な事を言うリリスに、グイと肩を抱いて何度も背をバンバンと叩く。


「何を言う。お前はすでに1人では無いではないか。

力を合わせて、すべての精霊を、そして今あの王城にいる人々を救え!」


「すべての?精霊を、王達を……救う?」


「そうだ、城はすでにけがれた物にむしばまれている。

王妃も、お前の妹も、そして王も、泥水の中にいる。


精霊に至っては然り!!火のない世界は歪んでいるのだ!

怒れ、もっと怒れ、そして身のうちの火を燃やせ、あの悪霊は卑怯で手強いぞ」


気がつくと、他の元巫子たちも集まってギュウギュウとひしめきながら、リリスに声を合わせる。


「「  怒れ! もっともっと、怒れ!!  お前の炎を燃やせ!

なぜ怒らんのだ!火の神殿が無いことに怒れ!  」」


「「  そうだ!王家をねじ伏せろ!

そして我らを早くここから救い出せ!!  」」


1人の元巫子が勢い余って、リリスの桶から酒を自分の杯にそそいで飲み干し、踊り出す。


「もう数千年の宴会にも飽きた!早う神殿を作れ!ええい!ここは踊るしかあるまい!」


「そうだそうだ!もう飽きたぞーー!!わはははは!」


「おおっ!向こうで子供の亡者が迷って泣いておる!わしが川まで連れて行ってくる!

それまでに神事を復活しろよ!弟子ぃっ!」


1人の元巫子が風に巻かれて消える。

そうだ、あの一瞬の体感が、ここでは半年か一年近かった。

青もそうだったに違いない。

つまり、現世の300年を待つこの人達は、気の遠くなる期間をここに閉じ込められているのだ。

飲んで騒いで、慰め合って、耐えているのだ。

リリスが、大きく目を見開いて顔を上げた。


戦わなければ!


青も、そう思ったに違いない。


戦いの、風を起こさねば!!


それは、国と国との戦いではない。

これは、精霊界と王家の戦いなのかもしれない。


それでも!!戦わねば!!


リリスの顔つきが変わり、そして立ち上がった。


「正規の順を踏もうとした、私の考えは、甘かったのですね」


「ならば、なんとする?!」



「王と戦って、そして、神殿をもぎ取ってきます!!」



リリスがやったこともない仕草が、初めて、自然に出た。


右手を前に差し出し、拳をギュッと握る。


元巫子たちが、こぞってその手に手を重ねた。



「 「 「  我らは!! 期待する!!!!  」 」 」



リリスが大きくうなずき、そして、後ろの川に歩み寄る。

その手に大きな桶を生み出し、ドボンと川の水をくみ上げた。


ガッとそれを両手でささえ、口に持っていくとゴクンゴクンと飲み干していく。



ゴクッ ゴクッ ゴクッ ゴッ ゴッ ゴッ ゴッ ゴッ ゴクッ ゴクッ ゴクッ


ゴクッ ゴクッ ゴクッ ゴクッ ゴクッ ゴッ ゴッ ゴッ ゴッ ゴッゴクッ ゴクッ ゴクッ


「  ぷはーーーーーーーっっ!!  」


大きく息を付く。

身体の中の火種に火がついた。

油をかけたように、その火が大きく心を満たして行くのがわかる。


元巫子たちが呆然と見ていると、真っ赤な顔でリリスがカラの桶をポイと放った。

桶は落ちて砂になる。



パーーーーンッ



黄泉中に響き渡るように、両手で顔の前に手を合わせる。

おおっ!と、元巫子たちからどよめきが起こり、目を輝かせた。



「  行ってきます!!  」



リリスの言葉に、パッと元巫子たちが笑って送り出す。



「 「 「  行ってこい!!! 」 」 」



ゴウゴウと、風を巻き上げリリスの身体が舞い上がる。

そして次の瞬間、手を振って見送る元巫子たちの前から、一陣の風を残して消え去った。


いつ来ても黄泉で酒盛りしている元火の巫子たち。

迷う者がいれは川に誘導し、生前の悩みあれば話を聞く。

そしてまた酒盛り。

呆れていたリリスは、実はその酒盛りには意味があるのだと知ります。

彼らは折れそうな心を皆で支え合って酒盛りしています。

リリスとメイスは希望の光です。

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