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336、元赤の巫子の教え

酒を注いで、甘露になれと願う。

じわじわと酒は白く濁り、杯のネコを横に向けると一口飲んだ。


「ああ、やっぱり美味しい。

身体の火種をすっかり使い果たしたので、心にも染み入ります」


「美味いという事は、お前は黄泉に馴染んでいるという事だ。

よう頑張ったな、褒美を取らすぞ、もう一杯飲め。

火種が切れたときはこの酒に限る。これは心を温める。わしら火の者にとっては心の薬だ」


手にひしゃくを生み出し、桶から汲んでまたリリスの杯にナミナミと入れる。

リリスも寒々としたこの精神体に、一口だけと口に入れる。

スッと、身体に力がわいてくる。


あれ?これは酒じゃなくて薬?

きっと、心の火を絶やさない為の薬のような物だ。


「おお、そうだ、そうだ。

弟子よ、日からもらった指輪を見せよ。

日を呼び寄せるとは、なかなかやるな。わしもあれの声を聞いたのは洗礼の時だけだ。姿さえ見せなんだ。


おお、これが新しい指輪か。

まさに清く邪気のない、お前にぴったりの指輪だ。

弟子よ、お前が最初の主となるのだな?」


「あ……そうなりますね。本当に」


「リリサはその洗礼に力を貸して、指輪の力となるだろう。

火のみそぎを経て、清廉(せいれんな心で指輪に向かうのだ。

最初の洗礼はかなりキツいと聞くが、お前の指輪はすでに馴染んでいるように見える。

大変なこともあったろうが、お前と指輪のえにしはもう繋がっている。

自信を持って洗礼を行え。やり方は覚えているな?」


「はい。でも、まさか指輪の主がお日様とは知りませんでした」


フフッとヴァルケンが笑い、また杯になみなみと注ぐ。

一息で飲み干すと、美味そうに吐息を吐いた。


「日と火は双子神よ。どちらが正解とも言えぬし、どちらも主となり得る。

元々日の神は、我らに名さえも教えておらぬからな。

我らから名を呼ばれることもないだけに、地上のことには関心が薄い。

対してフレアは火の神、生活するに最も近い神だ。

人に近いだけに、人をとても愛していた」


「えっ?そうなのですか……人嫌いなのだと聞いておりましたのに。

人が、そうさせてしまったのですね」


巫子を次々殺されて、好きになれという方が無理だろう。


「うむ、わしが仕えていた時は、偉大で良き神であった。

常に我ら巫子にも目を配り、傍らにいて手を貸してくれた。

良き、心の伴侶であったとも。

それがあのように力を奪われ、王家に虐げられて、愛してきた人間に裏切られ、失意の内に引きこもる神になってしまった。

お前の存在は、きっとフレアの力になる、心の糧になる。

だから、どんな事があっても生きよ。火の神の為に生きよ」


「はい。でも、私は人として、どうすればつぐないになるのでしょう」


「お前が償う必要はない。償うのは、考えを変えてこなかった王家だ。

お前は神殿を再興させればそれで良い。色々考えるな、動きが硬くなる」


「はい」


バンと、背中を叩かれた。

その力強さが、リリスにはまぶしい。

王であり、巫子であった男は、その地位が最高の位まで上りつめながら、親しみのある情にも熱い男だ。

自分もこんな大人になりたいと思う。


「だが、そうさのう、初めての洗礼で、天上の日の神の名を知り得たならお前は大したものだぞ?

日の神は変わり者でな、たとえ相手が自分の巫子でもなかなか真名まことなを語らぬ。


よって日の神の名を知っている者は少なく、言葉に出すのさえも難しいと聞く。

だから口伝でも伝わらなかった。

だが、魔導師のお前ならもしかするかもしれん。

聞き取ることが出来たら書き残せ!常に天上にあるクセに、わしらのことを知らぬ存ぜぬなど許せぬ!

良いか?これからこき使わねばのう!わははははは!!」


クスッと笑って、もう一杯ひしゃくですくって飲む。

心の火種に火がついて、身体が温まってきた。


「でも、師の方々は、神事が復活すると消えておしまいになるのですね……」


リリスがうつむき、寂しそうに言う。

ヴァルケンが、肩を抱いてまた酒を注いだ。


「それ、もっと飲め。お前の心は死人のようだぞ。

なに、我ら火の巫子は、死したのちは火種になって生き続けるのだ。

それが後の世までも火の神殿をささえ、そして巫子の支えとなる。

生きて、共に戦うのが赤の巫子。

生きて、内なる聖櫃に火種を燃やすのは青の巫子。

だから悲しむことはない。


弟子よ、我が血族の子よ。

青と共に力を合わせて火の神殿を再建し、世に広まった澱んだ物を祓い清めよ。

今のアトラーナは濁った水。

もう後戻りは出来ぬ。

国の濁りは限界まで来ている。

あの国の先見ならば、すでに見えているはずだ。

火の神殿の再興がなければ、あの国は3国に攻め込まれ消滅する。

国土は戦場となり、領地の奪い合いで多くの人は死ぬだろう」


ヴァルケンは、遠くを見つめて信じがたい事を、リリスに告げた。


ヴァルケンは、王であり赤の巫子であった男です。

彼が火の巫子の権威を、更に上げたと言って過言はありません。

彼の死後、火の巫子は権威を維持し、王はその権威に次第におされてかすんでいきます。

双頭の竜のようなものです。

仲良く相手を立てれば良いのですが、王家は外野の王族が黙っていません。

災厄で巫子を2人とも失ったフレアゴートに、好機と追い打ちをかけたのも卑怯な人間の知恵です。

たとえ火の神でも、人の悪意には敵いませんでした。

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