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334、ルシリア姫の覚悟

精霊が消えている。この精霊の国から。


ホムラが顔を上げ、手紙を持つルシリア姫を見る。


「で、では、その手紙は? 」


「兄様には報告するべき先見の情報だと判断したわ。

私たちの後ろ盾はレナントよ。それに、……

この国にとって、もっとも警戒すべき隣国と正面立って常に戦ってきたのはレナントなの。


周囲には3国あるけど、他の2国、ルランと接する小国ケイルフリントは同盟国だし、ベスレムの後継ぎに姫が輿入れしているわ。式はまだだけどね。

ベスレムと接するリトスは商人の国、そして王女がもうすぐ輿入れをする大事な時期。

リトスは豊かで近隣でも一番大きな国、ベスレムの織物を珍重しているわ。

アルフレット王子は王女を是非と向こうから言ってきてるし、商人の国としては、アトラーナの混乱は望まないはずよ。

だからね、危うい関係なのは、この悪霊騒ぎに巻き込まれてしまったトランなの。

領主たる兄様には、この予見の情報は大切なもの。

知っていれば、手を早く打てる。

そして、こちらの状況を伝えるのも大事。

火の巫子が健在で、そして王に何か訴えているとしたら、私は後押ししたいわ。」


ホムラが立てた膝を下ろし、またあぐらをかく。

静かに息を吐き、自分たちの生きた戦乱の残る時代のことを思い出していた。


「神殿の再興と、隣国に何の関係があると思うのだ」


クスッと姫が、インク壺にふたをして、手紙の折り目を何度もしごく。


「そうね、一見関係ないわ。

でも、関係あるのよ。


トランは昔から国境でのいざこざはあっても攻め入ってまでは来ないわ。

アトラーナが精霊の国である限り、何人(なんびと)もこの国には攻め込めない。

ここは聖地なのよ。

これは精霊王が、四精王(しせいおう)がいる限りその権威は続く。

でも神殿が2つしか無い今、だんだんそれは弱くなっているわ。

風様は、火の神殿が出来たら自分も神殿を建てて良いと仰ったそうよ。

これは昔のように四神殿がそろう最後の機会だと思うわ。

これを逃したらこの国に未来は無い。そう確信してる。

絶対に、火の巫子をお守りしなくては。

アトラーナに先は無いわ」


馬車のドアを開き、踏み台に一歩踏み出すと、サッと1人の騎士が前に出て片膝を付き頭を下げる。

その騎士は、連絡用の早鳥を持つ騎士。


「鳥の出番でしょうか?」


「アーサー、レナントの城へ。これをお願い」


「承知致しました。お任せ下さい」


アーサーが、ピュイッ! と口笛を吹いた。

ハトより一回り大きなグレーの鳥が彼の肩に止まる。


「チビ、仕事だ」


ピュイッ!


バサッと、チビが馬車の手すりに止まる。

その背中には細い筒が細い革紐で止めてあり、アーサーはその筒のふたを取ると、手紙を入れてしっかりとフタをして手に止めた。


「よし、レナントの城だ。行けっ! 」


ピュイッ!


バササッ!!


その鳥は、夜にもかかわらず一目散にレナントの方向へと飛んで行く。

それを見送り、姫が軽く頭を下げる皆を見回した。


「さっきの、聞こえたの? 」


「すいません、聞きました」


「そう、いいのよ。皆はなんて? 」


「特に。我らは御館様に似たようなことを言われて来ましたから。

やはり御館様の先見は間違い無かったと。

巫子様をしっかりお守りせねばと気持ちを新たにしました。

とは言え、魔物相手ではどうにもなりませんでしたが」


アーサーや兵たちが、ふうとため息を付く。

1人があぐらをかいたまま姫を向いて、頭を下げた。


「だけれども姫様、わしらは人相手には揺るぎませぬぞ。

たとえ王が命令で剣を向けられても、我らは戦います。

反逆者の汚名を着ても、我らは巫子様をお守りする覚悟でおります」


その言葉に、その場にいた全員が姫を向いて大きくうなずき拳を上げる。

ルシリア姫は一つ息を吐くと、胸に手を当て頭を下げた。


「その方らの覚悟、私はこの胸に刻んだ。

だが、お前達に反逆者の汚名など着せるまい。

私たちは、戦争に行くのではないのだ。

巫子様をお守りする。

その清廉(せいれん)なる目的を胸に、我らは…………


巫子殿の、盾になるのだ」


ハッと、一同が息を呑んだ。

同胞と戦うのでは無く、盾になると。命をかけて、盾になれと。

ルシリアは彼らに厳しい顔で言い放った。

一同が、剣の柄に手をやり、大きく呼吸する。


「承知した。この剣にかけて」「元より覚悟の上!! 」


「国境の民なれば、覚悟は出来ております! 」「承知致しました! 」


口々に、皆が返答する。

ルシリアは、大きくそれにうなずいて、そしてクルリときびすを返し馬車の中に消えた。


馬車の中で、ルシリアが唇を噛む。

浮かぶ涙を拭いて、顔を上げた。


ホムラが、彼女の方を向き、そして両手の拳を床につき、頭を深々と下げる。

それが、彼女の覚悟への感謝と、彼女を疑った事への謝罪だったことに、彼女は気がつきニッコリ笑う。

彼は言葉よりも、頭を下げることで最高の謝罪と感謝を表していた。



馬車はリリスたちの負担を考え、あまり急がずもう一泊野宿を考える。

そして城に上がるのでは無く、一旦リリスの家へと向かうことに決めた。

*ベスレムと接する国の名を、メディッチからリトスへ変更しました。

当初の設定から名前を変えようとしたものですが、後々変更したのを忘れてリトスで話を進めているので、リトスに戻します。申し訳ありません。


ルシリア姫は、自らも矢面に立つ覚悟できました。

王に認められない巫子の護衛というのは、そう言うことです。

ガルシアは、それでも彼女を自分の代わりに寄こしたのです。

これは、謀反を疑われる口実にもなる危険な賭けです。

マリナ・ルーは、それを理解しています。

それでも、王に謝罪を求めるという行動を起こしたのは、王子を完全に乗っ取った悪霊をあぶり出す為です。

すべてが賭けで、そして肝心のパートナーであるリリスは疲れて動けません。

どうなるのでしょうか。

考えてません。  えーーー!!マジィ?

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