表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

333/581

332、火の巫子たちの心の会話

リリスの声が頭に響き、そしてしばらくすると囁くように返答が聞こえてきた。


“   いいや、私の赤。これは私の主、フレアゴート様の心の声。

神は我らを案じて声をお控えになっていらっしゃる。


これは、我ら巫子としての……人と神の橋渡しである巫子の仕事だ。

赤も気がついているはず、アトラーナには長年火の神殿が無かったために、歪みが生じている。


悪霊は、その間隙かんげきを縫って力を得ている。

君は戦って何を感じた?

これほど大きくなった悪霊が、人を操り、死者さえ動かす悪霊が、この神の国、精霊の国アトラーナにいること自体が異常であると!

そう感じたはずだ! ”



『  ……それは……  』



“  地水火風、何が欠けてもバランスを欠いて精霊界は崩れる。

私の赤、私は黄泉の世界でそれを感じながら、川に映る現世を見ていた。

王家はあまりに無知だ。

アトラーナから、神の消える日は遠くない。

それはアトラーナという小国の消滅を意味する   ”



リリスの見開いた、視線の定まらない瞳が細かに動く。

そしてゆっくり閉じると、大きく息を吐いた。


『   マリナ、わかった。

君は私よりも物事に捕らわれず、思うことあって動いているのだろう。

君にまかせる、私の青。


だが、いたずらに敵を増やすことは無い。

我らが必要なのは、味方を増やすことだ。

反感を買って、人心に受け入れられない神殿を作っても、それはただの飾りとなってしまう。

人の心はうつろいやすい。

今日味方であっても、明日味方である保証は無いのだ  』



“ わかってるよ、私の赤。

君の言いたいことは、考えていることは、手に取るように良くわかる。

だが、戦って勝ち取るしか無いのだ。

赤のやり方では、力があっても権力に負けてしまう。

権力にさえも打ち勝つ方法を探らねばならない。


ただ、私の赤。これだけは、今一度心に留め置いて欲しい。

たとえ神殿が無くとも、我らは神事の復活をせねばならない。

その為には生きねばならないのだ。

王家にはなんとしても、わかってもらわねばならない。我らの必要性を  ”



リリスが、返答を考えるように静粛が響いた。

王家は火の巫子を殺してきた。巫子は存在するだけで人心を集める。

このままでは、どうしても自分たちをも殺そうとしてくるだろう。

火の神殿の再興などもってのほかだ、それは自分が一番わかっている。


自分は世継ぎでありながら、それでも親に捨てられたのだ。


でも、マリナの考える戦いとは……

戦うと……、自分が考えてきたものは、説得だった。

でも、青は積極的過ぎて、自分との違いが大きすぎる。話し合いが必要だ。

でも今は、疲れすぎて、考えがまとまらない。


『 私には、答えがわからない。

今の私は、こうして君と話すだけで精一杯なんだ。

…………私の青……私は……この身体を十分に回復させて、君に返さねばならない。

私は、 僕は、    ……少し、疲れた  』



“  わかってるよ、大丈夫。君は1人じゃ無い。

これからは一緒に考えよう。そして答えを出していこう。

君にずっと言いたかった。

僕を信じてくれて、待っていてくれて、ありがとう。


お休み、私の赤。そして、君の中に君の指輪の存在を感じる。おめでとう。

会える時を、楽しみに待ってる   ”



『  私の……青、私も、……早く…… 』



すうっと、またリリスの寝息が始まった。

2人の会話が、まるで周りに聞かせるようにオープンで、ルシリアが愕然と顔を上げた。


「アトラーナの……消滅……ですって?」


手元からペンをポロリと落とし、乗馬服にインクのシミを作る。

それに気がつくヒマも無く、彼女は携帯のインク壺と紙を横に置き、指を噛んで視線を走らせ考え始めた。

見ると横に置いた紙の束には、彼らの会話が一語も残さず書き写してある。

皆が彼らの会話に耳を寄せる中、彼女は記録に残したのだ。

とっさに大切な会話だと判断した彼女は、その判断力がどこか兄に似ている。


だが、ホムラはそれをチラリと見て、前垂れを下げた。

レナントの姫らしいが、彼女も王族の1人だ。

ホムラは決して彼女に対しても油断していなかった。


火の巫子は、王家と戦うと言ったのだ。

青様が思い描いていらっしゃるのは、積極的な事だったのだろう。

それを赤様には、まだよく納得されていらっしゃらない様子であった。

それでも、青様のお言葉には力があった。

あれは恐らく、腕輪の洗礼を受けていらっしゃる自信から来るものだろう。


代々青様は元来普段はひっそりと奥の間にいらっしゃるが、有事には多大なお力で赤様と共に困難を切り開かれる。

火の巫子は生き神なのだ。他の巫子とは格が違う。

それを人間が手を下すなど考えられない愚挙だ。

なのに、今の現世の人間達は、恐れを知らない。


ルシリアが、またペンを取って寝台をデスク代わりに紙を取り出す。

彼女の真意はわからない。

止めるべきか、見ているべきなのか、ホムラの中で葛藤が激しく渦巻いた。

心の会話は裏表のないものです。

彼らの心の内には、自分たちの欲得が一切見えません。

それを聞いた姫が何を考えるか、彼女を知るものなら容易に思い浮かびます。

ですが、ホムラは彼女を知りません。

マリナを守って共にレナントを旅立ってきた姫を、レナントの人々を、信じ切ることが出来ない彼は、やはり根底で、王家に怨みをもっているからです。

それはとても根深く、彼らを傷つけています。

リリスが目覚めない不安が、ここまでリリスを追い込んでしまった自分たちもりが、またあの災厄を繰り返してしまうところでは無かったのかと、自分の心をひどく責めています。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ