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331、無いはずの左手

ニードが、苦笑いで二人を見た。


「何が起きる?ははっ、まさか、そんなデカいことしないよな」


怖いことがあるような、そんな嫌な予感しかない。

わざわざ巫子が現れて注意を促したのだ。

宣戦布告だと。

物騒なこと、この上ない。


「何が起きるか、それは起きてみなけりゃわからない。

王子の部屋の監視が必要だ。

あと、一刻も早くレスラカーン様に避難して頂かなくてはな。

目がお悪いから何か始まってからでは対応が遅れる」


「どこに移動して頂くのだ?」


手元に置くのが一番だが、そう言うわけにも行かない。

彼は王族だ。

しかもあのうるさい宰相の大事な1人息子。


「そうだな、ご自分の館が一番良かろう。

宰相の家は兵も多いし、王族でも唯一ミスリルも持っている。何より城から離れて頂くのが一番だ。

どこそこ連れ出しても騒ぎになるだけだろう。

あの方の部屋でサボってばかりいる間者ネコに連絡を頼もう」


「ああ、そいつって……」


アデルがドアを見る。

音を立ててドアがバタンと開き、彼の影が階段をサッと走った。

日本からこの異界に来ているネコの姿のアイが、一目散に階段を駆け下りる。

が、アデルに敵うわけも無く、彼の影にぐるりと巻き取られ、ズルズル部屋へと引きずられてきた。


「ニャによー!もう仕事なんてしないんニャから!」


黒猫のアイが、ドサンと降ろされてドアへ向かう。

が、あえなくドアはバタンと閉まった。


「じゃあ、なんで来たんだ?」


「そにゃあ、さっきのニャあに?って聞こうかなあって」


「教えてやるから、働け。

お前の好きなレスラカーン様に移動を願う。

あと、もう一つお前には見て来て欲しいことがある。

言っただろう、我らは王族の部屋をのぞき見ることが禁忌になっているんだ。

願いを聞いてくれたら、向こうの世界に返してあげるよ。

そろそろネコにも飽きただろう?」


「いニャよ、また捕まって森に放り出されたにゃ、助けてくれるの?

そう言えば、あいつ何処行ったんだろにゃー」


「あいつ?」


「キアンの世話してた子にゃ」


「ああ……、まあ、君が心配するようなことじゃないよ。

それにしても、君がいてくれて良かったよ。君の働きには信頼を置いている。ありがとう、素敵な子猫ちゃん」


キラッと輝き、優しく天使のように微笑むイケメンのルークに、アイネコが引きつった顔をする。

彼との取引は、あやふやでちっとも成立したためしがないけれど、もういい加減家に帰りたい。


「わかったニャー、ほんとに返してよにゃ!」


「うんうん、もちろんさ!僕がウソなんかついたこと無いだろう?

仮にも魔導師の長だよ?」


ほんわかうなずく彼が、どこか信用出来ない。

でもまあ、アイは話を聞くことにした。







その頃、レナントからルランに向かう森の中。

野営をするレナント一行は、軽い夕食を終えてたき火を囲み休んでいた。

ルシリア姫は、外で寝ると言い張った物の、やはりそう言うわけにも行かず馬車へと押し込まれた。


馬車の中では、マリナの身体のリリスが極度の疲れにまだ目覚めておらず、エリンと並んで寝かされシオンに手当を受けている。

シオンは2人の間で正座して2人の手を膝に上げ、それに手を添え目を閉じていた。



リリスの足下には神官のホムラが、前垂れを上げて半眼で、リリスの姿をじっと見ている。

時々カナンが2人の口に、水で濡らした布を口に入れて世話をしていた。


「どうか?2人の具合は」


ルシリアが、短くなったロウソクに気がつき新しい物に変える。

そして、手を貸そうとするカナンに手で制すると、自分でフックを外し簡単な折りたたみ式の寝台を壁から出して上にまいてあるカーテンを降ろし上着を放り上げた。

旅に手慣れている彼女らしく、さっさと自分のことは自分でしてしまう。

王族らしくないところは、兄とよく似ている。

リリスの汗を拭いていたカナンが、リリスの額に手を当て彼女に首を振る。


「エリン様は1度目を開けられたんですが、リリス様はまだ。

本当にお疲れなのですね、寝返りさえ忘れられたように眠られています」


「そう、ご自分の身体ではないのが、余計ダメージになるのかもしれないわね」


あら?と、姫がリリスの手を見る。


「巫子様には左手が無かったのだけれど、これは?」


リリスは左手にはエリンからもらった白い革の手袋を付けて、薬指には指輪を付けている。


「お手が、無かった?」


ふとホムラが顔を上げ、その手を見た。

指輪は穏やかに赤く輝き、皮の手袋を焼き切ってリリスの指に直に付いているように見える。

だが、破れた袖から見える手首は実体が消えて薄いもやで作られたようになっていた。

ハッと目を見開き、ホムラが手を伸ばし、リリスの手を取り手袋をそっと抜き取って行く。

あの、確かに存在していた手は、今は白いもやで形作られ、薬指の部分に指輪が光って浮いていた。


「そうか、そうであったか。

青様に左手が無かったのが幸いした。

この手は赤様の御手だ。

これのおかげで指輪との繋がりが出来たのだろう。

だから洗礼も終えずとも、あのようなお力が……ああ、本当に、ご無理ばかりなさる」


ホムラの持つ、もやの手に、色が付いて薄い肌に変わる。

「手が……?」皆がのぞき込むと、リリスが身じろぎもせず目を開いた。


「リリ……!」


声をかけようとしたカナンに、ホムラが手で遮る。

リリスは2度瞬きをして、視線の合わない目で辺りを見回している。

そして、口を開かず声を出した。


『   ……マリナ、マリナ!我らは神の声の代弁者だ!それを利用してはならない! 

     皆と協力して騒ぎを収めよ 』


「頭の中で声が!こ、これはなに?!」


「お静かに」


姫が驚くのも無理はない。

リリスの声が、直接皆の頭に声が響く。

意識のもうろうとしたままのリリスは、慣れないこともあって心話を今、制御していない。

皆の頭の中には、2人の声がささやくように響いた。

リリスにとっては両手がある事が普通です。

リリスは無いはずの左手を、自然に作り出していました。

今のマリナにとっても、左手を作り出すことなど造作も無いことです。

ただ、彼は自分が過去起こした罪を、左手をなくすことで償っている名目上左手は無いままにしています。

でも、術を行使する上で必要とあれば、その時々で自然に腕は作られるのかも知れません。

無いと言う既成事実だけで、精神体を残して実体を消しているような物です。

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