330、凄く働いているようで何も出来てないこと
ガックリうなだれるルークに、クスクス笑う声が聞こえる。
ポッと火が大きくなって、光が瞬いた。
『 ホカゲよ、汝はよく働いている。
ただの人であった私はすでに過去、気落ちする必要も無く、私も赤も、汝のこれからを見ている。
だいたいお前達の塔を崩したのは我だ、多くの罪を犯した過去を責められるべきは私であろう。
謝罪する。
これで今、一旦この話は終わりとしよう』
「は、承知致しました。取り乱し、無様な姿をさらしました」
『 よい。さて、話だ。
私は現状打破のため、王家にあて火の者として布告を告げた。
だが、あれの真意は、悪霊への宣戦布告である。
ただし、王家の者達は激しく怒り、大きく動き出すだろう。
それは悪霊も然り。
私はそれが目的である。
王家に悪霊が巣くっている限り、真っ当なやり方では変化は無い。
まして本城の王家は石頭の集まりだ。
巫子がおもむいて殺されるのが慣例。だが私は死ぬわけには行かぬ。
世には火の神殿が必要なのだと、無い事に慣れた者達に我らの力を見せねばならぬ。
なんとしても火の神殿が必要だと、巫子は殺してはならないのだと、知らしめる必要がある。
そして…………、 丁度良いことに、ここに悪霊がいる。
王族は悪霊が手元にいても気がついていない、たとえお前が進言しても信じないであろう。
なんと不幸なことであろうか。信用されなければ手の出しようも無い。
だが、それで良い。
お前は成り行きを、逐一報告せよ。
ただし……ただの傍観者でいてはならぬ。お前にはしなくてはならないことがある 』
「王をお守りするのですね」
『 そうだ、お前は自分に課せられた仕事をまっとうせよ。
それと、私の頼みはもう一人、王の弟の息子だ 』
「レスラカーン様を?確かに、火の神殿の良き理解者ですが」
『 黄泉で頼まれたのだ。くれぐれもと 』
「青様がお引き受けされたのであれば、私が引き受けた物と同じ。
全力でお守り致します」
『 ではな、頼むぞ。水の魔導師をこちらに送ったのは良き判断であった。
だが、現状では戻せぬかも知れぬ 』
「は、構いません。彼女のいる場所は彼女に託します。
ところで……赤様を、城下に感じないのですが……」
『 あれは遠方の森で悪霊と戦って、眠っている。
ホカゲよ、眷族がおらぬから赤は苦戦するのだ。
お前は見つけたのか?強攻策をとれ、眷属を早く開放せよ 』
強攻策も何も、場所がまだわからない。
青様がそう言われることは、この城内なのだろうか。
「ま、 まだ、未確認で、 ございます」
『 私の声で、眷族は目覚め始めるぞ。
さあ、見つけ出せ。これはお前の最大の仕事だ 』
「あの、火の指輪は……」
『 よい、状況が変わった。今は眷族だ。
一つ教えてやろう、封印は何気ない日常の中に隠されている。
お前なら見つけられよう。
まあ、見つけられなくとも、赤が目覚めれば強制開放させることも出来るだろう。
赤は優しいからな、不甲斐ない神官を責めることなど無かろうから安心せよ 』
ぐううううううううう!!!!!
『 では、ますます精進せよ 』
フッと、ロウソクの中の光が消えた。
バタッと、その場にルークがくずおれる。
それとは対象に、ニードがピョンと立ち上がった。
「あ、身体が軽くなった。あれ?長〜どしたの?」
「なかなか、いや、なかなか、クククク……辛辣ではないか。聖櫃殿は。
なあルークよ」
アデルが面白そうにルークを見下ろす。
「あの方のご苦労の前では、俺の苦労なんてハエが止まったようなものだからな」
大きく息を付いて床についた両手でグッと拳を握り、全く自分でも不甲斐ないと思いつつルークが立ち上がった。
ここに来て、何年過ごしたか数えるのも面倒くさい。
俺はこの時代を過ごして、どんどん鈍感になっていったような気がする。
指輪の場所はボンヤリわかった。でもそれは赤の巫子が自身で探したようなものだ。
眷族の封印されている場所はさっぱりわからない。
封印されていたあの呪いの剣は解放されて、悪霊は元気に王子を乗っ取っている。
「くっそおおおおおおおお!!!」
俺は、俺は、魔導師の長になって、とても働いたような気がしていたけど、実は何の役にも立ってない!!
役立たず!ここに極まれり!!
眷族のすべてだ、なんでそれが封印された場所もわからないんだろう。
いや、ここは封印だの、結界だの、魔導が入り乱れている。
そうだ、そうなんです!青様!俺だって、俺だって!一生懸命やってます!
「まあ、まあ、お前も頑張ってるって仰っていたじゃないか。
あの闇落ちした精霊の石も、一応、この、わ、た、し、が!!預かってるし」
アデルが笑いながらポンと肩を叩く。
クソッ!!
あーーー、なんの役にも立ってない!!
「ふんっ!どうせ俺はただの先見だ!
俺は仲間に首をはねられても文句言えん。災厄の時もブルブル震えて見ていただけだ。
自分で嫌になる、ずっと俺は自分を責めてきた。
元々、いてもいなくてもいいような、役立たずだ。
神官なんて名ばかりの影でしか無い。
有事だってコソコソ隠れて見ていた俺だ。神官として継いだ名も返上したいくらいだ。
まあ、小物らしく、せいぜい頑張る」
というか、恐らくこれは俺の能力を見る試験だ。
マリナ様は恐らく一目で、とっくに眷族の居場所を見極めておられる。
開眼されたあの方は、万を見通し一声で人心を揺り動かす。まさに生き神だ。
大したこともない先見でもてはやされ、城まで与えられてふんぞり返っていた俺の、不甲斐なさに呆れられたのだろう。
ため息しか出ないルークに、アデルが笑う。
「ククク、まあ頑張れ」
「頑張るさ。
さて、青様が動かれたことで何が始まると思う?」
「誰が真っ先に頭にきて、どう動くかなんて、わかりきってるさ」
「だろうな」
ルークがニッと笑い、アデルがニヤリと笑う。
ニードが、首をひねって二人を見ていた。
凄く働いているようで何も出来てない。
まあ、良くある事です。
他の神官が強烈に働きがいいので、戦える者は目立って得だというわけで。
しかし、ホムラ達だって、それぞれ悩みはあるわけで。
先見は地味ですが、先が見えるというのは助かるのですが。
…… やっぱり地味だったりw
ルーク「地味、地味、うるさい!」




