327、火の神殿の再興を宣言する
火の巫子マリナ・ルーの掲げる手から、激しく青い火柱が立ち、それが空いっぱいに広がって行く。
青い青い輝きが空から降り注ぎ、辺りはまるで水中のように青い世界に染め上がる。
「おお!」
「ひいっ!何だあれは!」
すっかり暗くなっていた空が、青く、青く燃え上がり、兵達が見た事もない景色に、この世の終わりかと恐れを持って頭を抱えた。
その輝きは街全体を、城の上までをも広がりルランの街を照らす。
家の中までを海中のように照らす青い輝きに、城下の人々が何ごとかと家を出てきた。
「お、おい!お前やり過ぎ……」
イネスがマリナを止めようとして、グレンにさえぎられる。
だが、イネスは大きく首を振ってマリナに叫んだ。
「でも!こんな事をしたら、城の者を敵に回してしまう!!
それはリリスの意志に反するだろう?あいつは王に認められて、きちんと順を追いたいんだ!」
イネスはリリスの言葉を代弁するように叫ぶ。
マリナのこの派手なやり方は、まるで王家への宣戦布告だ。
こんな事、リリスはきっと望んでいない。
だが、マリナはそれに静かに答えた。
「わかってるよ、地の巫子。でも、これはこうしなければ、いつまでも進まない。
私は先代に言われてきたんだ。王族と戦えと。
私の赤は、主から指輪を頂いた。
この身体を変われば、すぐにみそぎを終えることが出来る。
火の巫子の赤と青がそろって神器のみそぎを終えるのは、あの忌むべき事態ののち、この三百年近く無かった。
三百年だ、地の巫子。
その間、何百人の火の巫子が殺されたと思う?これはすでに、殺戮だよ。
私は黄泉で、すべての巫子となるべきだった者達と語ってきた。
ひどい物だよ、特に赤の巫子は。
赤い髪の子は、生まれてすぐに口を塞がれ、絞め殺され、川に沈められ、たとえ生き延びても……
見世物小屋に売られ、人買いに売られ、花売りに身をやつして路上で死んで行ったのだ。
半数以上が王族に生まれながらだ。
そして…………
3番目の目を奪われた火の神は、それを見ているしか無かった。
他の精霊王が、知らぬとは言わせない。世継ぎが13の時の旅の目的は、あの目を強固に封印する目的だ。
それは地水火風そろって出来ること、知っていて見ぬ振りをしてきたのさ」
「そんな事……!!」
「見ぬ振りだ!!目をそらしたのだ。それはすべて自分の巫子の為であろう、同じ運命をたどることを避けたのだ。
巫子として、満たされてきたお前達にはわかるまい。
我らは、これから生まれる火の巫子たちのためにも、戦わねばならぬ。
たとえ二人きりでも、それで命落としても。
私はかつて、神殿を起こすと言ったリリスに馬鹿だと言った。
首でも跳ねられればいいと思ったとも。
でも、わかっていたんだ。あいつの目指した物は、自分のためじゃない。
巫子として祭り上げられる、そんな安っぽい物望んでいない。
あるべき物が無いことで、沢山の人に影響が出る。
不幸になる者を黙って見ていられない。
あんな馬鹿な奴が他にいたかい?
だから私は決めたんだ、リリスは人々のために神殿を起こすだろう。
だが、私はリリスのために神殿を起こす。
我らの前には戦いの風が吹き荒れている。
ならば、共に戦おう、私はその為に長く修行をしてきた。
戦いの風に立ち向かい、打ち勝つため」
凜として語る、そこにいるのは、さっきまでのマリナではなかった。
それは確かに、長い修行ののちに覚悟を決めて再生した火の巫子の1人、青の巫子。
その赤い髪は青い火に照らされて青く輝き、色違いの瞳は青く青く燃えている。
そして、マリナは大きく息を吸って街の、そして城の方向へと、あの独特の揺らぎを持って叫んだ。
「 我は火の巫子、青の巫子マリナ・ルー
人々よ!火を崇めよ!
天に輝く日は命の源!我らを慈愛を持って照らし、導くもの。
燃える炎は人々の暮らしに欠けてはならぬもの。
炎の神、フレアゴートよ!我らにご加護を!
天に輝く日の神よ、我らを見守りたまえ!」
マリナが放ったその言葉は、揺らぎを持ってここにいる一同の、そして町中の、更に城内にいる人々の胸を大きく揺さぶった。
イネス達さえ胸を押さえ、その場に膝を付いてしまう。
「く……そっ!い、一体何だ……この、力は?!」
その場の一同が驚きを持ってマリナを見上げる。
グレンは何ごとも無く彼のそばに控え、辺りを警戒していた。
マリナが人々を見回し、そしてまたゆっくりと大きく息を吸う。
掲げた腕輪が青い輝きを増し、彼の身体を包み込んだ。
「 人々よ!我は問う!!
汝ら、なぜこの世に火の神殿の無い事を疑問に思わぬのか?!
神は幾度も、汝らのために神殿を起こそうとなされた。
だが!!王家はそれを許さない!!
王家は、汝らと同じ人である!!
汝らは王家が、火の神を見下げることに、怒りを覚えぬのか?!
火を使う者なれば、火を崇め、恐れを覚えよ!
ここに宣言しよう。城下ルランの人々よ!
我ら火の巫子、青の巫子マリナ・ルーと赤の巫子リリスは、
フレアゴートと空を頂く日の神を奉り、
火の神殿を再興する!
我らが決意を広めよ!力貸す者に、栄えあれ! 」
おおお!思わずその場にいた者達が声を上げる。
だが、マリナは1度目を閉じ大きく息を付くと、意を決して続けた。
戦いの風、その言葉を発したのは、リリスでは無くマリナでした。
リリスの姿をした、マリナ・ルー、彼は今どきの言葉で言うならゲームチェンジャーです。
彼が修行した青の巫子だからこそ、二人並んでバランスが良いのです。
そして人生で辛酸をなめてきた彼もまた、強力な巫子の1人です。




