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326、巫子たちの帰還

ララが、火の消えたロウソクに慌てふためき、叫び声を上げる。

気がついたのか、音も無くグレンがやって来て、ロウソクの先に人差し指と中指の2本の指を当て、シュッと交差した。

ロウソクは難なく火を付け、他の火も勢いを増す。

するとまた、精霊の国への道が、輝きを取り戻した。

はああ……ララが、大きく息を吐く。


「あ、ありがとう。これで大丈夫と思うけど……」


「なに、大丈夫だ。あちらには水の巫子もいらっしゃる」


「イルファ様が?!なぜわかりますの?」


それは神官同士で時々会話しているからだとは言えない。

ふと、グレンが顔を上げ、バッと小川を振り向いた。



ザザザザザ…………



小川が音を立て、突然、さざ波が立ち始める。

祭壇から続く精霊の国への道が、また開き始めた。


「我が師!お帰りになられるのですね!」


ララが思わず立ち上がると、背後から矢が飛んでくる。

グレンがそれを、一本残らず見えない早さで手で受け止め、そっと何ごとも無く祭壇の外へと置いた。



ザザザザザッ!!ザザーーーンッ!!



次の瞬間祭壇前に水柱が立ち、戦っていた者達が思わず手を止める。


「な!なんだ?!一体何が起きる??!」


「なんだこりゃあ!」


兵達が、初めて見る精霊の国の道、シャラナの作る魔導に目を見張る。

戦っていた手を止め、呆然とあり得ない水柱に一歩引いた。


水柱には出入り口が開き、そこからシャラナが一歩歩み出ると顔を上げる。


「あら、やっぱりお客様がお見えになりましたわね」


立ち止まる彼女の横から、ヒョイとイルファが顔を見せた。


「なんじゃ!この騒ぎは??!!」


「危ないから先に出るな!」


イルファがグイと引かれて姿を隠すと、イネスが出てくる。


「何だ!この騒ぎは!双方、刃を治めよ!」


イネスが剣に手を置き、シャラナを後ろに水門から歩み出て、ザンザンと前に出るとサファイアがサッと傍らに控える。

戦っていた戦士達は、巫子の姿に驚いて、顔を見合わせると慌てて引き始めた。


「み、巫子様だって?!あれが??マズくねえか?」


「冗談じゃねえ!呪われちまう!」「逃げろ!」


あたふた引いていく彼らに、ムッとしてイネスが彼らに手を伸ばす。



「我は地の巫子、地の御方の声を届ける者。不敬なやからよ、わが前にひれ伏せ!!」



ドズンッ!!



「うおおお!!」 「うわあっ!」

「ひいっ!!」 「ぎゃあっ!助けてくれえ!」



その声は、怒りを持って空気を揺らし、ドスンと彼らの重力を倍増させてその場にいた戦士達をミラン達もひっくるめて地面に押さえつけた。

サファイアが、イネスにひっそり声をかける。


「足止めなさって、どうなさるので?」


確かに、やっちゃったあとで言われてムカッときた。

どうせ相手は王家に指図されたなんて、喋るわけも無い。


「くっ、だ、だって、失礼だろう!」


「逃げる者は逃がせば良いのです、どうせ何も喋りませんよ?」


「うるさい!」


イネスがムキーッと怒って唇を噛む。

元々こんな一方的な力は使うのが嫌で、ほとんど使った事なんて無い。


「だって、こいつら何してんだ?

俺の顔を見るなり逃げ出して、巫子に対する畏敬の念がない!

俺に不敬を働くのはヴァシュラム様を足蹴にするのも同じ。

だいたい!俺達は今来たばかりでワケがわからん!!誰か説明しろ!!」


「ご覧になればわかるでしょう、この祭壇を壊しに来たのですよ」


「え?何のために?誰が?うううううむううう、誰だ!誰か出て説明しろ!!」


男達をギュウギュウ地面に押さえつけたままで、地の巫子は一人で憤慨している。

ブルースが、草の上を懸命にほふく前進でやって来て、疲れてバッタリ両手を付いた。


「たっ!頼む、そろそろ開放してくれ。これなかなか辛いぞ」


イネスが怪訝な顔で辺りを見回す。

男達が、頭も上げることが出来ずウンウンうなっている。


「よかろう」


彼が手を下ろすと、皆が開放され、一斉に大きく息を付いた。


「やっぱり巫子様には敵わねえ」


「まったくだ」


口々につぶやき、男達があきらめてその場に並んでひれ伏した。

リーダーの騎士が、腰をいたたと押さえながら、前にずいと出てくる。


「何も聞かされず、ご無礼致しました。

かの御方のご命令、我ら故あってのことでございます!

まさか巫子殿が関わっておられるとは存じ上げず、大変申し訳なく」


「誰の命令か」


「そ、それは……申し上げるならば我ら命をかけねばなりません」


「王族か…………」


大きくため息を付く。

何も情報が聞き出せなければ、足止めした意味も無い。

すると、ぴょこんと横に、リリスの姿のマリナが出てきた。


「ふうん、君たち、なんとも面倒に巻き込まれたね。同情するよ。

なるほど、なるほど」


ウンウンとうなずくマリナに、ハッとイネスが彼の前に出る。

ここは本城の足下、彼の姿は忌み嫌われているのだ。

それでどれだけリリスが傷ついているか、知らないのかもしれない。と、イネスは思った、


だが、彼は、そんな事知っている。

自分も、リリスも、どれだけ城の人間に傷つけられたか。


「お前は前に出るな、馬鹿!」


「馬鹿は心外だね。

さて、自己紹介しておこう。

私は今、リリスと身体を入れ替わっているが、火の巫子が青、マリナ・ルー。

赤の巫子がこの地に着いたのち、身体を入れ換えて共に城へと挨拶に参ろう」


「は?巫子?お前が?入れ替わってるだって?そんな馬鹿な……」


フッと鼻で笑う騎士に、ニイッと笑う。

そして、火の巫子の腕輪のある右手を差し出し、その手にぼうと火を掲げた。


「ひっ!!な、なんだお前は!魔物か?!何者だ!」


騎士と後ろの戦士達が恐怖にざわつく。

マリナが青い炎に照らされながら、やれやれと顔を振った。


「魔物が他の巫子と共に並んでいるわけ無かろう、無礼者!

我に復唱させるなど言語道断だが、慈愛の巫子なれば許す。


そうさな、王族の一味の者よ。

汝らに忘れられた火の巫子だ。嫌でも思い出してもらおうとも」


そう言うと、天空に向かって火柱を上げ、その青い輝きがごおっと音を立てて空を覆った。


イネスやイルファはメイスを知らないので、巫子になる前に何をやらかしたのか全く知りません。

そう言う先入観が無いのは、良い友人になりそうで幸運なのかも。

ただ、メイスは腕輪の洗礼を受けた時に、見かけも大きく変わったので、目つきや行動の違いから城に上がっても気がつく人はいないかもしれませんね。

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