325、祭壇を壊せ!!
フフッと笑って剣を肩に置き、ガーラントが言い切った。
「傭兵か……なるほど、それなら手加減いらぬな」
「おう!それは丁度いい」
「え?どうしてですの?」
「金で雇われた浮浪者が多いのだ。彼らに義はない」
ララが、思わず横にずいと歩み出たガーラントの顔を見上げる。
そして、彼のがっしりした腕が彼女の前に出て下がれと合図した。
「でも、祭壇を守るのは私の勤め」
「女を守るのは男の務めだ、下がっていろ」
「はぅ」ララの胸がキュンとする。
ガーラントの後ろ姿に、騎士の格好良さを見てうっとり杖を握りしめる。
そしてハッとした。
「期待しています!」
「おう!お任せあれ!」
横からブルースが、ニッと笑って拳を出す。
ブルースにニッコリ笑って、プルプル首を振った。
魔導師に恋愛は御法度!
師の言葉が、ガンガン頭に鳴り響く。
ララは惚れやすいから魔導師に向いてないとは師の言葉。
キッと顔を上げて、祭壇の前に杖を構えた。
「なんの!ララは立派な魔導師になるのです!」
ぐんぐん近づく松明の集団に、ブルースがまずは話をしようと前に出る。
「その方らは城から来た戦士か?!何用だ!!」
男達は無言で進み、中の1人がいきなり槍を取り出した。
シュッ!
一瞬ののち、暗闇の中、ブルースの前でキラリと光る。
「うっ!!」
それが槍だと認識出来るのに、とっさに身体が固まって避けきれない。
バシッとそれを、サファイアが寸前で受け止めた。
受け止めなければ、ブルースの胸を一刺しだ。
息を呑んで、思わず一歩下がろうとして踏みとどまった。
「な、何しやがる!物騒な奴だな!問答無用か?!
サファイア殿、すまない、助かった。
ガーラントよ、これは練習剣ではまずくないか?」
「いや、練習剣で行こう。この剣は刃がないがしっかりしている。折れたら真剣を使う。
殺すとあとで面倒だ」
「その方が賢明でしょう。巫子殿にいらぬ汚名をかけることになるでしょうから」
ミランがガーラントに同意して、グッと剣を構える。
グレンが、明るさを補うために指を2本立てて呪を唱えながら小石に火を付け辺りに飛ばす。
ふわり、ふわりとそれが明るく辺りを照らし、暗い辺りを相手の顔が見えるほどに照らした。
「おお!神官殿、これは助かる。
さて、では話の通らぬ相手にはどうするか」
ブルースの言葉に、ミランとガーラントが吠えた。
「先手必勝!それが戦いの定石!」
バッとミランが先方を切って走り出す。
「あの祭壇を壊せ!!」
雄叫びを上げて相手も3人が松明を捨て、剣を抜いてミランに向け走ってきた。
ガーン!ガンッ!ガンッ!キィーンッ!
ドカッ!ゴキッ「げぇっ!」
1人の男がミランに腕を打たれドサリと膝を付く。
ミランは優男だが、太刀筋を良く見て避けては受け流し、よく動く。
「むうっ!」
「くそっ!こいつら強い!」
「当然だ!国境の民の力を目に刻め!」
ブルースが叫び、横から来る男の剣を避け、ドカッと脇腹に一打ちした。
「ぐがっ!!」
ハッと、目の良いミランが遠くの家の間に人影を見る。
それは一直線にこちらへと向かっていた。
「新手が来ます!ガーラント殿!」
「ミランは正面を!ブルース!右を頼む!俺は左に行く!」
「おう!」
キンッ!キンッ!ガーン!ガーン!
ガキッ!!ドカッ!
「ぎゃっ!」
ガーラントに剣を持つ手を撃たれ、手を押さえて男が丸くなる。
傭兵は戦えなくなったら用済みだ。
「すまんな、折れたか」
ガーラントが横の男の相手をしながら、平然と謝って相手の男を撃ち倒した。
「貴公は何を守っている!」
「我が主だ」
ビュンッ!音を立てて、巨大な斧が風を切った。
「おっと!」
大きな斧を持つ巨体がガーラントの前に出る。
ニヤリと笑う男に、フッと息を吐いてガーラントが剣を構えたまま肩を回す。
「その身体、二つに分けてくれよう!!」
斧を振りかざし、男が怒号をはいた。
ビュンッと思わぬ早さで斧がガーラントの左から来る。
「断る!」
ガーラントはザッと引いてやり過ごすと、左に走り斧を持つ手に思い切り剣を振り下ろす。
ガキッ!
鎖かたびらの音に、男がニイッと笑う。が、その顔が苦痛に崩れた。
ガーラントは切ろうとしたのでは無い。
「ぐああああ!!」
太い腕がゴキリと音を出し、隆とした筋肉に包まれた左前腕の骨が1本折れた。
もう一方の手で斧を持ち、更にガーラントを追ってくる。
「懲りぬ方だ」
ガーラントがまた左に回り、巨体の男が叫ぶ。
「騎士であれば堂々と向き合え!卑怯者が!」
「そちらが剣であれば向き合おうとも。ハッ!」
ドカッ!!
鎧の隙間の脇腹に剣の柄を突かれて、巨体が斧を落としドスンとうずくまる。
あたりには、騎士3人が練習剣で次々と戦士を打ち倒す音が響き、サファイアとグレンが音も無く次々と戦士を殴り倒して行く。
ピュンッ!!
祭壇を狙って、数十の矢が後方から打ち込まれる。
ララが、杖を構え祭壇の前に呪を唱えて振り上げた。
「理を捨て、矢は花に!」
バッと、降り注ぐ矢が白い花に変わり祭壇に散る。
再度射られた矢も、花に変わって辺りは花に飾られた。
「く、クソッ!これでは王子に顔向けできんではないか!!」
リーダー格の騎士がそう吐き出すと、倒された1人の剣を取り祭壇に向けて構えた。
せめて、何をやっているのかは知らんが祭壇だけは破壊しなければ!
「ララ殿、当たったら不運と思え!むんっ!」
ララを知っているのだろう。それは城の騎士だという事だ。
だが、彼は躊躇なく渾身の力で剣を祭壇に向けて投げる。
グレンとサファイアが気がつき、サファイアが近くの石を投げた。
グレンがそれに向かって、遠くから前垂れを上げフッと息を吐く。
石は剣に当たった瞬間火が付き、剣はまるで鉄の塊でも当たったかのように砕けて落ちた。
が、その小さな破片が、1本のロウソクの上に落ち、火を消してしまった。
「あーーーーー!!!火が消えたーーー!!!」
ララが泡を食って近くのロウソクを取り、それに急いで火を付ける。
が、風が吹いてなかなか付かない。
「ど、どうしよう、どうしよう!あーーー!!つかないよう!!」
祭壇の結界が揺らぎ、他の火も小さくなって行く。
手が震えて必死で付けているうちに、火種のロウソクも消える。
師の作った精霊の国への道が、ポッポと消えかけた。
向かってきた兵達は、何か怪しい祭壇としか聞いていません。
多勢に無勢ですが、戦争の無い安定した情勢で、常に国境で緊張して戦いに臨む気概のあるレナントの騎士とでは戦い方にも違いが出るかもしれません。
何しろ彼らは、主が帰ってくるたった一つの出口を守っているのです。




