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324、祭壇を狙う者

タンタンタンタンタンタン


椅子に座り、忙しく視線を泳がせながらキアナルーサ王子が自室のデスクに肘を突いて手を組む。

今はすでにキアナルーサの姿をしたランドレール王子だ。

彼はとうとう身体を乗っ取ってしまった。


フェイクがリュシーを守って、閉じたまま開かない部屋のドアを苦々しい顔で見る。

当てにもならない、人質でさえもない。厄介者だ。


町の外れで、何か魔法的な動きを感じる。

それは、あの使いにやった小姓が消えた場所に近い。

誰かがあの小姓を探しているのか、あの下賤な花売りを。

花売りしか脳の無い貧乏な下級貴族が、上流騎士を思い人などとくだらない。

下劣な輩が、交わる気にもならない。


忌々しい。あの花売り、たった1人の男に身体を売っただけで死んでしまった。

だが、そのたった1人の生気は素晴らしい力の源であった。

良い事を教えてくれたとも。


その後、もう一人の小姓を無理矢理身体を繋いだあと花売りにやったが、そちらは十分な働きをしてくれている。

やはり1度繋いだ方が力が無駄なく流れ込む。

そして、ククク……面白い。ああ、久しぶりの交合は興奮した。


クククク……


これほど太い私との道が出来る、自由に出来る。

こうしている間も、そら、先ほど誘惑した男との交合で、淫らにもだえる様が手に取るように見える。

じわじわと身体に力が流れ込む。


すでに3人分の生気を食って、私の力は満ち満ちた。

そうだな、あれもそろそろ潮時か……心に変調を来している。

正気を失う前に相手と共に生気を食って始末しよう。


いや、その前に、役立たずの小姓の方だ。

あれには自分の血を付けた結界のかなめを渡している。

気付かれてはならない。

その後も同様に、小姓を使って多数の私の血を配置した。

気付かれてはならない

不完全な配置だが、それで街の一部を紐付けて、いざというときには街の人間どもから大量に生気を奪い取れる。


魔導師がそこに近づくのはマズい。

奴らはすぐに気がつくだろう。

追い払わねば。

だが、何を使う?

自分には、もう手駒が無い。

血判を取った貴族の若い者達は…… 使い時は今では無い。


タンタンタンタンタンタン、タン、     タン!


ニヤリと笑った。

そうだ、その為に作ったのだ。

私のための軍隊を。


手元のベルを、りんりんと鳴らす。

側近のケルディムが音も無く入ってくると、頭を下げた。


「ナーセラルを呼べ。

もう遅いな…… 、いなかったら一軍の隊長を呼べ。私の軍を私のために動かしたい」


「は、承知致しました。

それで、軍を使って何をなさるのでしょうか?」


「お前に語らねば、俺は俺の軍も動かせぬのか? 」


「いえそのような事は。私に出来ることがありましたら手を回すことも可能ですので」


ふむと考える。

軍と言っても、ならず者傭兵の集まりだ。

隊長とは別に、指示する者は必要だろう。


「なんでも今夜、町外れの川で怪しげな呪術を予定している輩がいると聞いたのだ。

どこぞの騎士も絡んで、これは謀反の企てでもしているのかもしれない。

それを破壊してこいと言うつもりだ」


そう言ううわさは聞いたことも無いが、それなら納得は出来る。


「承知しました、では知り合いの騎士を1人付けるよう手配します。

師団の分隊長をしていた男です、きっと間違い無くまとめることでしょう

私から傭兵軍の部隊長に指示を致します。

ここにあの汗臭い男を入れるなど、王子にご無礼を働くやもしれませぬゆえ」


「まかせる」


頭を下げ、ケルディムが部屋を出ると顔を歪める。


気持ちが悪い。


王子の顔を見るだけで気持ちが悪い。

彼には若い貴族達は血判状を握られている。

あの気味の悪い魔導師がルビーに食わせた血判状。

どんな使い方をされるかと、皆恐れおののいている。

自分も然り、それだけが心残りでここに残っている。


先日1人、小姓が手込めにされて暇を出されたが、あれは気分が悪かった。

あのあとあの小姓は、街で花売りなどしているらしい。

なんてことだ、仮にも貴族の子息が花売りなどと。

親族が探し回っているらしいが、こちらも親類に手配させて助けてもいいかも知れない。

彼の家は中流貴族だ、かなり裕福で手広く領地を増やしているとも聞いた。

問題なければ、爵位も上がることだろう。末子の不始末など問題にもならない。

それを言うなら侯爵はとうに失脚だ。

そうだ、恩を売っても悪くない。


ケルディムが、しばし考え立ち止まる。

彼の使用人が、横に控えた。

声を落とし、使用人に耳打ちする。

その使用人は、頭を下げるとその場を他の者に頼み、立ち去っていった。



リリスたちが水の世界に入ったあと、ただただ時間を計りながら祭壇を守るシャラナの弟子、ララが燃え尽きそうな香木を足し、ロウソクを変え顔を上げた。

騎士達は、時間が過ぎるのを待ちながら周囲をうろうろ歩いて回る。


「ガーラントよー、ヒマだなー」


ふああああっと、でっかいあくびをしてブルースがミランに小突かれる。


「ブルース殿、巫子様の側近の方に不敬だと叱られますよ」


ふと見ると、サファイアとグレンは逆立つ感情を抑えて静かにあぐらをかいて祭壇の横に座している。

ブルースが、頭をかいて腕をぐるぐる回した。


「「   来た!   」」


サファイアとグレンが、同時につぶやき顔を上げた。


シンとしたあたりに、遠くから多数の足音が響く。


「まさか?! 」


ハッとしてララが祭壇から顔を上げる。

ブラブラと時間を潰していた騎士達が、やれやれと歩み寄り、祭壇の前に立ちはだかった。


「来たか、さて、誰が雇ったのやら。

殺さず倒すのは骨だぞ」


「なに、このために特製の剣を持ってきた」


そう言って、ブルースが馬から布で巻いた3本の剣を取り出す。

リリスの家は、ザレルの家だけに剣は古い物から新しい物まで掃いて捨てるほどある。

ほとんど使わない物だ。

一本ずつミランとガーラントに渡すと、ニイッと笑って巻いてあった布を取り、自分のを構えた。


「キシシシ、見ろ、刃無しの練習剣だ。

館にあったから騎士長殿のものかな?いや、階段の後ろと納屋の至る所にあったから、リリス殿がこっそり隠したものかな?

巫子殿は剣の練習がお嫌いらしい」


リリスは腰に剣を携えることはあっても、使うなんて見たことが無い。

不要なのに、どうしてもザレルは持たせたいのだろう。


ガーラントとミランが簡易な鞘を抜くと、それは確かに剣の形をしたただの鉄の棒だ。


しかも新しい。

ミランがクスクス笑って、ピュンと一振りした。

程良い重さは扱いやすい。

練習と言われては、なくしましたからと逃げられるたびに買ってくるザレルの姿が、思い浮かんで笑いがこみ上げる。


「なるほど、鍛冶屋が儲かるはずだ。さて」


「客が来たぞ、皆々心して向かおうぞ。

巫子殿の名を汚さぬよう、礼儀を重んじなされ! 」


ブルースのかけ声に、「おう」と低い声が帰ってくる。

顔を上げると暗い中、街の方角から松明の明かりが続々と近づいてくる。

次第に近づくそれは、屈強な男達の集団。


祭壇を離れ、ララが魔導師の杖を携え横に立った。


「あれは、見覚えがありますわ。

王子が集めた傭兵達です。彼らは依頼主の言う事ならなんでも聞くことでしょう」


セリアスの従兄弟、ミリアムが、それを聞き焦って下がり出した。


「なに?! 城の者だと?! わしはマズい! 」


「マズければ、下がられれば良い」


プイとミランが吐き捨てる。


「すまん! 失礼する! 」


あっさり、走って姿が闇に消える。

どうやら騒ぎの行く末を隠れて見ているらしい。

相変わらずセリアスの従兄弟殿は、世間体ばかりが気になる男だった。

元々気弱だったキアナルーサが、こんな強烈な悪霊に敵うわけもなく、もうダメだと身体を捨てて必死で逃げたのが彼の身体を乗っ取っているランドレールが口づけでカレンに呪いを吹き込むタイミング。

カレンが男に襲われた時は、怖くて見ないことにしていたと思われ。

キアナルーサは性にはうとく、自分の身体が人を陵辱するのに使われたと知ったら昇天するかも知れません。

本来の彼は、情にもろくて優しい性格なのです。

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