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323、マリナになってもメイスはメイス

「よしっ!これでここの仕事は終わったな!」


リリスの姿で、マリナがピョンと跳ねてパンと手を叩く。


「あーなんだろ、この身体凄く軽い。

走り回れそうだ。走るの嫌いだけど」


その場をスキップする彼は運動、大嫌いだ。

目を閉じると、リリスの苦闘する姿が見える。


「頑張れ、私の赤」


小さくつぶやき顔を上げると、膝を付きゴウカが彼の服を整え始めた。


「赤様は大丈夫でしょうか?」


「赤のことは、私よりお前たち神官が一番知っているだろう?大丈夫だよ」


「は……」


ポンとゴウカの頭に手を当て、クルリと踵を返すと手を上げて、他の巫子の前に歩み出る。


「やあ、みんなお疲れ!あらためて挨拶を」


イルファがパンッと手を合わせて声を上げた。


「すごいわ!これが本当の火の巫子?!すごいわ!リリは役立たずだったけど」


随分イルファは感銘を受けたようだ。

が、リリスを役立たずと言われたことにはカチンとくる。

まあ、彼も気持ちは老齢だけに、顔には出さず飲み込んだ。


「まあ、リリも本当の火の巫子だけど、赤はまだ指輪を手に入れてないからね。

役立たずは可愛そうだよ?彼は本当に指輪が無くても凄いんだ。

それに、こう言うことは、僕の方が得意だからね、代わって正解!」


ニッコリ、リリスの顔で明るく微笑むマリナに、キャッとイルファが両手でグーを作って頬に当てた。


ステキ!

カッコイイ!


「私、名前言ってなかったわね!私は水の巫子のイルファ。

よろしくね!


えっ?」


マリナが、スッと彼女の前垂れを上げ、そして驚く彼女の頬にキスをする。


「よろしく、可愛い人。

僕は火の巫子マリナ・ルー、青の巫子とも、聖櫃の巫子とも呼ばれる。

そうだね、普段はただの入れ物、役立たずさ」


突然キスされて、イルファが真っ赤にゆで上がって呆然と立ちすくむ。


「あ、あ、イルファ様?ああーっと!」


シャラナが、ふわっと後ろに倒れる彼女を支え、愕然とマリナを見た。

彼はすでに、背中を見せている。

スタスタ平然と去って行く彼に、シャラナが顔を引きつらせてつぶやいた。


「なんと言う処女殺し!」


侮れないわ!巫子でもちょっと見ない性格に驚いた!




「ふん、リリを悪く言ったお返しだよ」


イルファにプイと背中を見せるマリナが、ニッコリイネスに歩み寄る。

初対面でいきなり巫子にキスをするマリナに、イネスが苦々しい顔で手を震わせた。

リリスの姿なのに、正確は正反対だ。

こう言うのを、馬が合わないというのだろうか。


「お、お前!いきなり失礼じゃないか!」


イネスが突っかかり、マリナがプイと横を見る。


「可愛いからキスしたくなったのさ。

挨拶だよ、地の巫子。


ああ…………私の赤は指輪を手に入れたようだ。

かなり苦戦しているけど、大丈夫、大丈夫だよ。私の赤」


目を細め、宙を見て優しく語りかける。

イネスはそれも気に入らない。


「お前、その私の赤ってのやめろ!気持ち悪いだろ!」


イネスがムカッときて今にも掴みかかりそうに、顔をつきあわせる。

が、何しろ相手の顔はリリスだ。

掴みかかる気にもなれず、何ともやりにくい。


そのうちプッとマリナが笑ってイネスに飛びつくと、イネスの首に手を回して引き寄せ、唇に思い切り唇を合わせてべろんと彼の歯を舐めた。


「わああああああああ!!!!なにするんだ!リリが!リリが!怒るだろ!!勝手に!」


口を押さえて真っ赤に燃え上がる顔で、後ろによろめく。

すると、またマリナが彼に顔を近づけて、耳打ちした。


「何なら夜もお付き合いするよ?

リリがここに着くまで、この身体は僕が預かるからね。

思いを遂げるなら今が絶好の好機!!だろ?


あ、ちなみに僕は経験済みだから、やり方はまかせて!」


グッと親指を立てて舌を出す。

イネスは言葉も無く、アワアワとひっくり返り、結界のギリギリまで四つ足でバタバタ逃げていった。

しかしその後を、迫るようにマリナが追いかける。


「なんで逃げるのさ、もっとお話ししようよ。

だーいじょうぶ、赤と変わる頃はお尻の違和感も消えているさ。

そのうち夜に、お尻がうずくようになるかも知れないけど、丁度いいじゃない?

フフッ、そうなれば君に迫ってくるかも知れないよ?!うぷぷぷぷ」


ぞおおおっとイネスの背中をかつて感じないほどの寒気が襲った。

そんな破廉恥なことを、リリスの顔で言われたらたまらない。

イネスだって若い男なのだ。もう聞きたくなーーーーいいいっっ!!!


「リリは、リリは、そんな事言わない!悪霊退散!退散してぇっ!!」


「やだなー、僕は聖なる青の火の巫子、君の迷いを払うのは僕の方だよ」


「兄様!!兄様助けてぇ!!」


耳を塞いで、涙目でうるうるしながら逃げるイネスをグイグイ押しまくる。

笑って背中に覆い被さってくるマリナは、リリスの顔なのに凶悪な悪魔に見えた。


「クククク……いいねえ、うん、すっごく楽しい!」


ギュウッとイネスの腰に抱きつき、フッといきなり冷めて立ち上がる。

マリナは立ち上がると楽しそうに腕を組み、大きく息を付いた。


「うーん、この世界、こんなに楽しかったっけ?

なんか苦しいことばかり覚えてたけど、色々あったなあ、嫌なことばかり色々。

まあ、すでに何百年か昔のことだし、楽しく生きろが師の教えだし。

その為に修行したんだしね」


「ぴよぴよ、ぴよぴよ、りーぴよぴよ、りーぴよぴよ、すよすよ」


変な鳥は、まだ馴染めないのか、前後6本指で歩きにくいのか、ペタペタギクシャク歩き回る。


「うーん、しかし相変わらずリリは人気者だなあ。

久しぶりに嫉妬しちゃいそうだよ。

マリナ・ルーを継いでも、やっぱり僕はメイスなんだなー。クックックック


ああ、この人間の感情、懐かしい。

愛とか恋とか、嫉妬とか、うーんと、彼のような劣情とか?

なかなかドロドロした感情も、今となったらまた目新しいじゃないか。

ああ…………

僕もそう言う物に捕らわれて、いっぱい間違いやっちゃったなぁ。

ま、やったモノは仕方ない。誠意で謝る。よし!

しばしこの身体を楽しもうっと」


「お、俺は!リリに劣情なんか抱いてないぞ!今の取り消せ!無礼者!」


「やあ!劣情のキミ、今夜、お、楽、し、み、に!」


上着をはだけて身体をくねくねさせながら爽やかに笑って、お尻を突き出し、パンパンと叩く。


リリが見たら失神しそうだ。あまりの恥ずかしさに、首でもくくりかねない。

恐ろしい奴が来てしまったと、イネスが息を呑む。


「あ、青様!はしたのうございます!」


「うん、ゴウカ、遊んでるだけだよ。心配無用だ」


無邪気に笑って、イルファに結界を解くように話しかける。 

イネスは、今夜ドアが絶対開かないように、棚とデスクで完全に塞ごうと決心した。


メイスは家族を流行病で亡くし、病を恐れた村人から家を焼き払われて、路上で物乞いをして暮らしていました。それを魔導師の塔にいた魔導師に救われホッとしたのもつかの間、他の魔導師に性的な虐待を受けて絶望し、そこを悪霊に憑かれて利用されてしまいました。

ねじ曲がった性格は、先代に多少補正されたようですが、気に入らない奴には相変わらずです。

その反応をちょっと楽しんでいるようにも見えます。

彼の大嫌いは大好きの裏返しです。


*劣情……いやしい情欲。特に、性欲。

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