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318、地龍の子供

「おかたさま」


ゆっくりと目を開き、爬虫類の金の瞳でガラリアを見つめる。

ガラリアが微笑み、子の薄い紫の髪をかきあげると額にキスをして、横に現れたシイラから白い着物を受け取りふわりと掛けて膝から降ろした。


「さあ、御方様おかたさまの前です。身支度なさい」


シイラが声をかけて狩衣のような白い服を着せる。

少しゆっくりとして大きいそれをきちんと着ると、ガラリアに両手をついて頭を下げた。


「使者を、務めてくれるかい?」


「なんなりと、おもうしつけください。

あなたさまのためだけに、うまれました、このいのち、なんなりとおつかいください」


ガラリアが、少し悲しい顔をする。

サラシャは卵を産む時に呪を込める。

それは、ガラリアのために働けと言う、呪いとも取れる刷り込みだ。

名を付けないと、その子は自我に目覚めることなくガラリアの人形になる。

サラシャにとってはそれこそ目的なのだろう。

だが、ガラリアはそれを嫌って生まれてくる子には、一人一人願いを込めて名を付けていた。


「いいや、お前はお前の心も大切にするのだ。

お前がお前である事を忘れぬように、名を与えよう。


美しい、髪の色だ…………


私がヴァシュラム様と共に日本という異界に行った時、そこには美しい紫色の花が沢山咲いてとても美しかった。

その国は花に言葉の意味を添える風習があって、それには“君を忘れない”という花の言葉が付いていたんだ。

その花の名は、シオンという花だった。お前の美しい髪のような紫の花。

私はお前のことも決して忘れない。だから、お前の名を、シオンとする」


「ひぅっ!!」


シオンが引きつった声を上げ、ガラリアを見つめる。

無表情だった顔を複雑に動かし、そして目を見開くと大きく口を開いて小さな牙を見せ、そしてぎこちなく笑顔を作る。


「おお、おおお、おお…………」


両手で頬をぐしゃぐしゃに撫で、背筋をピンとして大きく手を天に掲げ、そしてガラリアに愛しい人でも見るように頬を紅潮させて手を差し伸べた。


「おお、おお、うう、うー」


ガラリアが微笑んでうなずく。


「はぁっ!!」


シオンが息を呑み、バッと彼に向けて平伏した。


「我が名は!シオン!ありがたき幸せ!

我は御方様のために!尽くしましょう!尽くしましょう!この身体、自由にお使い下さい!」


「尽くしてくれるのはうれしいけど、ほどほどにね。

お前は自分も大切にするのだよ?」


「はい、仰せの通りに!私は自分も大切にしますが、あなた様の願いを叶えることこそ私の喜び!

私の!私の!喜び!御方様!あううう!!御方様!!好き!好き!!

それではこのシオン!行って参ります!」


バッと立ち上がり、そしてその場から消えてしまった。


「え?!あ、ああ……なんてせっかちな子であろうか」


ガラリアが、サラシャに苦笑する。


「巫子殿には蛇体で付き添うようにと伝えましたゆえ、大丈夫でございましょう。

ホホホ……さあ、出来た。

シイラ、あの子にこの紐を渡しておくれ。

まだあの子は小さい故に、母の思いを込めたこの紐を」


「は、承知致しました」


シイラが両手で受け取り、スッとその場から消える。


「これで地上へ出るまでの猶予が出来る。あの子は私の代わりを果たしてくれよう。

サラシャ、感謝する」


「御方様、勿体なきお言葉。私は御方様のためなれば、この世を更地にもして見せましょう」


「本当に、あなたがいて下さって良かった……」


彼女がそばにいてくれた、それだけでヴァシュラムの手にかかる時の絶望感が、恐怖感がほんの少し和らいだ。

彼女の祈りがるつぼの底にアリアドネを呼び寄せ、ヴァシュラムの企みをひっくり返すことが出来たのだ。

ガラリアは、いつかサラシャに恩が返せる時が来て欲しいと思う。


「ああ、なんと言う、なんと言う勿体なきお言葉。ああ、そのような、めまいが致します」


恋する乙女のように紅潮した頬を袖で隠すサラシャの手を取り、礼を込めてガラリアが手の甲にそっと口づけを落とす。


「あああああああ!!!」


サラシャは感極かんきわまって銀のウロコの地龍の姿を現すと、あまりの愛しさにガラリアの身体に優しく巻き付き、うっとりとヘビのように長い舌で彼の首元からほおをべろりとなめた。


あの、三番目の地の巫子アデルも、地龍サラシャの子供です。

サラシャは人や精霊の気を受けて受精させ、自らの分身のように卵を産みます。

つまり、ガラリアの子も何人もいます。ただ、人間の生を受けた子は短命で、力も弱く、あまりサラシャの期待に応えることが出来ませんでした。

卵から生まれた子は、子供という意識では無く、彼女にとってはそれが意識を同じくする眷族です。

彼女はガラリアに耽溺しているので、すべてを彼のためだけにつぎ込んでいます。

つまり、サラシャにとってガラリアは、超、推しですw

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