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316、巫子はすべての精霊と共に

ボロボロと涙がこぼれる。


「私は、私は、自分の言葉の重さを、軽く見ていました」


泣きながら、エリンにつぶやく。

エリンが小さく首を振るが、リリスは彼の身体に抱きつき気がつかなかった。

リリスは、エリンのあまりの姿に自分に怒りが沸き立ち、自分が許せない。

お願いしますと、その一言がどれだけ彼には重荷だったのだろうか。


「リリ……さ……おみ足が……」汚れます。私のために。

あなたは汚れもけがれも……あなたは、そんな物いとわず私を支えて下さるのですね。


ああ……私は……死ねない。あなたのために…………

でも、気が遠くなる。


エリンがゆっくり目を閉じる。


リリスはその自分を気づかうその言葉に、ふつふつとわく怒りが、黒い泥の塊に向いた。


「こんな物!こんな物に負けて、なる物か…………!!」


リリスが、彼の胸の中でギリリと歯を食いしばる。

そして、顔を上げて叫んだ。


「このような汚れ、黒い感情の汚物おぶつ!!

見たくも無い!我が前より消え去れ!!」


怒りにまかせて叫ぶと、黒い泥の塊に向けて、リリスの身体から閃光せんこうが走った。

それは一瞬で吹き飛ばされて消え去り、微塵みじんも残っていない。

足下の黒い泥は澄んだ水たまりに変わり、エリンがとうとう自分を支えきれずにその場で膝を付く。

リリスがその首に抱きついて、ボロボロと涙を流し嗚咽おえつをこぼした。


「ううっ、うう…うーーうっうっ………癒やしを、癒やしをしなければ。

ぼ、僕は…………私は……巫子なのだから…………」


泣きながらエリンに手をかざし、呪を唱える。

震える声で、何度も唱える。


「世を照らす温かな光、我らが主、火の神フレアゴートよ、傷つき救いを求める魂に慈悲を与えたまえ。

フレアゴートよ、お慈悲を。あるじの子の声をお聞き届け下さい。

フレア様!エリンを助けて!」


泣きながらどんなに願っても、声が届かない。

あなたはいつも、僕には手を貸して下さらない。

私のそばにいて、私に奇跡をお与え下さい。


どうか


自分の癒やしの術は効果が薄い。

ここまで汚染されてしまったエリンの身体を、元に戻すには、どうすればいいのだろう。


「ああ、ああ、マリナ、マリナ、僕に癒やしは出来ない。

マリナ、どうすればいい?」


両手を合わせて心を集中する。

心の中の、マリナと意識の線を結ぶ。

すると、頭の中で遠くから声がした。


『      ど……したの?    』


エリンが、僕らの神官が、けがれを浴びて酷いケガなんだ。どうすればいい?



『    僕らは一人じゃない、大丈夫。助け手を、呼ぶんだ。私の赤    』



助け手?


『    僕ら巫子はすべての精霊と共に    』


きえてゆくマリナの声を聞いたら、すうっと心が落ち着いた。


「赤様、こちらへ」


エリンがとうとう意識を失いリリスに倒れかかり、ホムラが彼の身体を片手に抱えて大きな木の下に、木を頭に向けて横たえた。


レナントの姫が、心配そうに駆け寄ってくる。


「どうなのだ?

我らの盾になってくれたのだ。救って欲しい。どうか、私からも頼む」


姫が頭を下げると、兵達も神妙な顔で頭を下げる。

リリスが立ち上がり、姫にうなずいた。

エリンを横たえるホムラに駆け寄る。


「私に、出来ることはありますでしょうか?マリナが助け手を呼べというのです」


ホムラが泥を堰き止めた布の切れ端を持ってきて、リリスにひざまずき差し出した。


「ここまでけがれをかぶっては、マリナ様に頼るしかございません。

ですが、たとえお身体を変わったとしても、あの御方はきっとその指輪に耐えることが出来ないでしょう。

マリナ様は恐らく腕輪の洗礼を受けていらっしゃる。

だが、あなたはまだ指輪の洗礼を受けていない。

その証拠に、その分厚い革手袋無しでは、指輪に直に触ることも出来ないと言う事実がございます。

あなた様は、まだそのお力の半分も出し切っていらっしゃらない。

ならば、この布を頼りに地の神に頼りましょう」


「ヴァシュラム様に?」


「いえ、ヴァシュラム様とは同一でありながら異なる慈悲深き地の精霊女王、アリアドネ様です。

この織物は、アリアドネの守りごろもと言うミスリルが持ちいる盾。

薄い物ですが、槍の力を無効にし、毒を遮り身を守る最高の盾でございます。

アリアドネ様の聖域に暮らす蜘蛛の糸からつむぎ、神水しんすいに数年漬けて神気しんきを上げてあります。


ですが、今回はあまりの毒気と容量に、守り衣からあふれた泥をかぶったのでしょう。

この切れ端には、アリアドネ様をお呼びするに足る道があなたには見えることでしょう。

精霊とは、地水火風、元は同じ神と言います。

あなたならば、指輪の洗礼を受けずとも風を呼び、地の神を呼び出すことも可能なはず。


涙を拭いて、あなた様には成せることがございます」


リリスが大きくうなずき、服の裾をまくり上げてゴシゴシと涙を拭いた。

ずり下がったズボンからおへそが見えて、ホムラがフフッと微笑む。


「さあ!身を整え、地の女王に失礼がなきように」


ホムラがリリスに布を渡し、乱れた身なりをできるだけ整える。そしてポンと、押すように背を叩いた。


「ありがとうございます。ホムラ様、見守って下さいませ」


そう言って心を整えると、横たわるエリンの頭の上に布を置いた。


エリンの足下から木を見上げ、その場に膝を付く。

聖水も無い、この汚れのあった場所に、神おろしが出来ると思えない。

だが、リリスは心を決めた。


エリンにとってリリスの言葉が重ければ、その結果でエリンが傷つくことでリリスにも命じた言葉が重くなります。

上に立つ者は、それを知って下の者へと言葉を発します。

これはリリスの重い勉強なのかも知れません。

彼は巫子、取り返しは付くと信じています。

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