気合いだー!
セリアスが、ため息をついてウロコに覆われた頬を撫でる。
そのウロコは虹色に輝いて、ここへ来て痩せてしまった彼には似合いのようにも見えた。
「しかし……実はこの小さな精霊たちがこまめに世話をして下さるので、あまり不便も無く暮らせていたのですよ。
カレンも最初ひどくおびえていたのですが、次第に落ち着いて来て、ホッとしてはいたのです。
でも、3ヶ月ほど前から次第にカレンの姿があのように変貌してきて……
だんだん苦しむようになってきました。
先日、主殿がこのままでは水が濁ると、カレンを更に2重に泡の中に封印されて。
巫子殿がお見えになるのをしばし待てと。」
一体彼らはここで何年過ごしたのだろう。
この数日間は、彼らにはとても長い長い時間だったに違いない。
「まあ!セリアス殿、ここへ来てどのくらい経ったと思いますの?」
シャラナが問うと、セリアスが顔を上げる。
「もう、すでに何年経つのでしょう…でも、カレンは呪いの影響のおかげとかで、あまり年を取ったようには感じないのですが…いや、もう立派な青年かな?
私は、このような姿なので、水鏡を覗いても、自分の本当の顔が思い出せなくなってきています。」
両手を広げて見る姿は、なんとなく黄泉で大きな時間のズレを感じながら戻ったときの自分のようだとリリスは思う。
「カレン様は、あのようになる前は普通にお暮らしになられたのですか?」
「…はい、ここで過ごせたのは、この子にもとても良かったように思います。
恥ずかしながら……親子のように暮らして、元気が出ると棒きれで剣の練習に勤しんでおりました。
ところが、肌に黒い班が出るようになって……きっとこの子は、私に心配させまいと我慢してたのでしょう。
可哀想なことを……」
目を閉じるセリアスの背中を、シャラナが手でいきなりバーンと叩いた。
「騎士ですもの!頑張りましょ!」
淑やかな女性だと思えば、彼女は時に豪快だ。
セリアスが思わずよろめき、彼女に笑って返す。
「はは、相変わらず力強い方よ!で、どうなされるのだ?私も何か出来ることがあるだろうか。」
シャラナがイルファを向くと、ずっとカレンを見ていた彼女が良しと腕を組んだ。
「この……彼を、出すわ。
もうここに置いておくのは限界よ。
私が結界の狭間の場を作り出すから、そこでやっちゃって頂戴。
呪いを払うのはあなたたちの仕事よ。あたしは場を維持するから。
巫子なんだから、出来るでしょ!
そこと!
そこの!
顔だけじゃ無いってとこ、見せてよね!」
イネスとリリスを指さして、グッと拳を突き出す。
何とも言えないイメージのギャップに、リリスがポカンと見ていると、イネスがバンッと背を叩いた。
「水の巫子、面白いだろう?
いやいや、全然イメージと違うからさ、もうほんと参っちゃうんだ。」
クククッとイネスが笑う。
イルファが真っ赤な顔で、恥ずかしさにくるりと背中を向けてプルプル手を震わせる。
だがその後ろで、リリスは何度もうなずいていた。
「わかります、とても参考になります。
魔導もそうですもの、すべて気の力が必要です。
半端な気合いは事故の元。私は母からそう教わりました。
がんばりましょう!ほら、イネス様も!」
リリスが、ぎゅうっと手を握って、えいっと上げた。
隣でずっと笑ってるイネスも、ぐいっと握られて一緒に手を上げる。
イルファがパッと明るい顔で振り向き、一緒に手を上げた。
「がんばろ!」
「はい!早くお助けしなければ!!どこまで出来るかわかりませんが。」
にっこりリリスが笑うと、イルファがベールの向こうで、赤い顔でにっこり笑う。
ベールがあって良かったなあって……、リリスはなんだか可愛い男の子だ。
純粋で、イネスのようにひねてない。
絶対お友達になりたい男の子、なんて初めてじゃない?
うふふっとイルファが口元に手を当てる。
するとリリスが、元気な声でにっこり笑って明るく言った。
「あ、そうです!これはお話ししておかなくては!
実は、まだアトラーナに火の精霊はいらっしゃらないので、私の火の巫子って言うのは、ほんと名ばかりなのですよね。だから全然、術の効果ほぼ無いに等しいのです!
でも、頑張ります!!気合いで!」
「え?」
「あー実は俺も、ヴァシュラム様の加護が薄れてる。
気配はわかるんだ、でもなー、なんかこう力を感じないんだ。
どこまで出来るかわからないけど、俺も出来るだけのことはする。」
「え?」
にっこり、地の巫子と火の巫子の2人がえへへと笑う。
「 えーーーーーーーっっ!!! 」
ほんとに顔だけだったーーーーー!!!
イルファが真っ青になって、ガクンとアゴが落ちた。
気合いだけだー!ww




