ララの祭壇作り
リリスがララに、グレンの無礼をわびて小さく首を傾げる。
「こちらは……祭壇を作られるのですか?」
「ええ、さすがよくおわかりですね。えっと、リリス様。
祭壇を作るということは、水の精霊に礼を尽くし、こちら側に精霊の国の延長した世界を作る事です。
これが無いとあるでは、術の成功率が格段に変わります。」
「わかります!でも風様では祭壇作る事がないので、とても珍しいです。
リリスとお呼び下さい、ララ様。お手伝いさせて下さいね。
あっ!私の姿は大丈夫でしょうか?気持ち悪いなら、布をかぶります!」
「あはは!可愛い方、魔導師に言う言葉じゃありません。
私だってほら、顔にヘビの入れ墨あるでしょう?
これも人によっては嫌われます。
大丈夫ですよ、人はあなたが思った以上に寛容です。」
「うふふ…良かった!」
にっこり微笑むリリスに、つい可愛いと言ってしまう。
麻袋から道具を出しながら、ララはちょっと嬉しくてキュッと肩をすぼめた。
「わあ、沢山使うのですね。燭台、覆いを付けるのですか?変わってますね。」
「火が消えないように、工夫です。これをここにはめてかぶせます。ロウソクは短いものを。」
彼は早速、ララが並べる香炉やロウソク、何か不思議な美しい鉱石の位置決めに、ワクワクと身を乗り出した。
「リリス様、ロウソクに火打ち石で火を付けて下さい。
火が付いたら、香炉にこれとこれを、左右交互に入れて火を願います。
術まではフタをして、穴が空いているので消えませんから。」
「香木は何ですか?」
「右が精霊の国にある雷玉の実の種をすりつぶしたもの、左が聖域に生えている水蜜の木の根を削ったものです。雷玉の方はかなり強い香りなのであまり吸われませんように。」
「わかりました。それにしても、凄いのですね。至る所の材料を集めておられる。尊敬します。」
ゴウカが後ろから火打ち石を使ってリリスが持つ燭台のロウソクに火を付ける。
まだ覆いを付けていないのになぜか、風が吹いても火が揺るがない。
クスクス笑いながら、リリスが香炉に火を入れて行った。
「さすが火の神官様です。」
「ありがとうございます。お役に立てて何よりでございます。」
リリスは甘い水蜜の香りをかぎながら、火にも祭壇がある事を思い出す。
黄泉で先々代のヴァルケンが、たった一度地面に絵を描いて、その後正解するまで回答してはメチャクチャ怒られたのを思い出す。
ぶるっと、身体が一瞬震えた。
「え、えーと……これは?何が入っているのですか?この壺、中を見ても構いませんか?」
リリスが少女が並べる品に強い興味を示して、ひときわ美しい布に入った壺を手に取り横からひっそり聞いてくる。
弟子の少女は嫌気がさす事も無く、リリスの問いに答えていた。
「こぼさないようにどうぞ。それは砂金と水龍の角の粉を混ぜたものです。
この中でも一番高価なものです。」
「あ、なるほど、道を作る柱と見ました。」
「正解です!さすが風殿の一番弟子。」
「あれ?私をご存じなのですか?」
「有名ですよ、赤い髪の闘う魔導師殿。あなたが赤い髪で無ければ、弟子になりたい者は星の数ほどいる事でしょう。
だが、あなたはその髪の色だからこそ、強くなるしかなかったのだと私は思います。」
リリスが驚いて、少女の顔を見る。
自分の事をわかってくれる人の存在は、もしかしたら自分が知らないだけかと思った。
「リリ、邪魔になるから離れよ。」
イネスが親しそうな2人の様子に、ちょっと妬ける。
だが、少女は顔も上げずに作業をしながらきっぱりと言い放った。
「いえ!きっちり必要なものばかり聞かれるので、忘れが無いか再確認となるので助かります。」
少女は男のようなサバサバした答え方で、イネスはあきらめると身を起こしてそっぽを向く。
そして、まるで取られまいとするかのように、ぐっとリリスの上着の裾を掴んだ。
「よしっ!師よ!準備できました!」
シャラナが、水の流れと方角を星の位置から推察していると、弟子に声をかけられサッと歩いてくる。
彼女の準備した麻布の上の配置を見ると、踊るようにパンパンと顔の横で手を叩いた。
「上出来よ、ララ! さすがわが弟子。
さて! 道を開いて、精霊界に行けるのは3人まで!どなた?」
「シャラナ様、向こうでのお時間はいかほど頂けるのでしょうか?」
リリスが彼女に問うと、シャラナが帽子を取ってマジマジと顔をのぞき込む。
んー、やっぱり可愛い子。
地の巫子とはまた違った、可愛らしくて美しい子だわ。
「香炉に香を足して管理すれば、道は開きやすいわ。
ここにはララが残って、香を管理します。
精霊界とこちらとは時間の流れが違うの。この香をたいている限り、場が紐付けられて一時的に時間のズレが抑えられる。
向こうには、私と巫子殿お二人、それであと……」
「「 私が 」」
サファイアと、グレンが手を上げた。
イネスとリリスが顔を合わせて目を丸くする。
二人でプッと笑うと、イネスが一歩引いてリリスに頭を下げた。
「今宵は火の巫子殿の側近にお譲り致そう。
貴方の手並みを拝見する。」
「それは……私にどこまで出来るのかわかりませんが……」
「サポートはするよ、リリ。俺はその為に行く。」
リリスがうなずいて目を閉じ、唇に指の背を当てて考える。
心を落ち着け、息を整える。
頭を整理する。
精霊の国に行ってやる事は……
まずは……、毒を吐く少年をどうするか……だ。
その、毒の原因が何か…私にわかるだろうか?
それが、地下にいた悪霊が原因としたら……
リリスがパチリと目を開けた。
元々魔導師の修行をしていたリリスにとって、魔導師の術というのはひどく興味がある事です。
シャラナは努力家、あらゆる所に行って、冒険の旅の果てに材料を集めています。
ララは、そんなときに巡り会った少女です。




