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赤い髪のリリス 戦いの風〜世継ぎの王子なのに赤い髪のせいで捨てられたけど、 魔導師になって仲間増やして巫子になって火の神殿再興します〜  作者: LLX
26、水の国の悪霊憑き

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黒い鹿

城内の廊下を、魔導師の塔の長であるルークが静かに、一見普通に、だが内心は余裕が無く焦る様子で王の居室に向かう。

彼の後ろを付いてくるのは、地の魔導師ニード。

報告するのは王子の異変のことだ。


どこまで喋るかは地の巫子アデルと相談して、アデルも同行することで話は付いた。

が、アデルは気まぐれだ。

城の魔導師との癒着は本意では無いと翻してしまった。


「あの巫子め、まったく! 本当に当てにならん!

誰が癒着だ! これは協力だろうが! 」


「なあなあ、どこまで言うんだ?全部ぶちまけるの? 」


アデルが来ないと聞いて、ニードが気楽に付いてきた。

頭が痛いルークが、眉間を指で押さえて足を止め振り向く。


「いいから、お前は黙ってろ。

いいな、結界張ったら無言で…… 」


ふと、頭を動かさず、周囲に視線を巡らせる。

ニードがきょとんとして、視線を天井に向けた。

ハッとして、そちらを見ずに息を呑む。


「いつからだ」


「君はとっくに気づいてたと思ってたんだけどね。

塔のドア出てからずっと付けられてる。

奴にしたら、まずい状況だろ? 俺達がどこまで知ってるかも知りたいはずさ。」


「確かに。俺達は奴の腹の中にいるのと同じだ。」


そうか、それでアデルは逃げたのか。

なんで言わないんだ、ずる賢い地龍だ。


「君、どうしたんだい? 急に。急ぎすぎてるよ、君らしくない。」


ニードが、杖で肩を叩きながらルークを軽く指さす。


だが、王には王子に注意するよう伝えねばならない。

王族の部屋は許し無く魔導を使うことが禁忌になっている。

こっそり夜中に魔導を使って伝えるなど、出来ないのだ。


「王に、お知らせないとと、」


「ま、いいけどさ、どうする?結界に入り込まれたらまるっと聞かれるぜ。

そいつだけ排除するのは難しい。

まあ、俺に任せてくれるってんなら、肩を叩け。」


頭を抱えて、大きくため息をつく。

コンコンと床を付いて杖を鳴らし、引き返し始めた。


「あれ? 帰っちゃうの? 」


「確かに俺らしく無い。ちょっと焦った、もう一度考える。」


そうだ、相手は難敵だ。

知らせた後の、王に及ぶ危機に対する考えが甘かった。


つい、城下の森で戦っている他の神官の姿を見て、急がねばと浮き足立ってしまった。

そうだ、まだ巫子は指輪を手にしていない。

悪霊相手に、戦うすべが無いのだ。

だから地龍の腹に闇落ちした精霊を封じたというのに、俺はなんて浅はかなんだろう。

この時代でどれだけ苦労したか、それを全部吹き飛ばすところだった。


他の神官たちは、巫子を守って戦っている。

きっと、水鏡を通じて張った結界で、自分のことはゴウカかグレンが気がついたはずだ。

それでいい。

気を急くな、自分のやるべき事をやるのだ。


トトッと、ニードが隣に並ぶ。

ニッと笑って顔をのぞき込んできた。


「作戦変更だろ? 」


「ああ、ちょっとな。たまには助かる友人だ」


「たまにってのは余計だよ。なんで急に急いだんだい? 」


「秘密」


「ちぇーっ、まあいいさ。長殿、作戦会議は部屋に戻ってしようぜ。」



2人がひっそりと語らいながら塔の方角へ帰って行く。



黒い影がそれを見送って、壁の中にスッと消えた。


キアナルーサの姿をした、ランドレールが閉じた目を見開く。

大きく息をついて、椅子にもたれかかった。


「ちっ、厄介な。魔導師どもの塔には強力な結界があって入り込めぬ。

あれらがどこまで知っておるのか、探りを入れようにもコマが無い。

ジレがおらぬのは痛い。さて、どうするか。

レナントにいる火の巫子も、巫子として目覚める前に始末しなければ。

目覚めると厄介な、とても厄介な相手だ。

リューズに利用させてリリスと互いに殺し合いさせるつもりだったのに、ガラリアにジャマされてしまった。

リューズ無き今、もう目になる者もおらぬ、状況が把握出来ぬのはマズい。」


苦々しい顔で爪を噛む。

その手を広げて、顔を覆った。

意識を集中して、レナントの方向を探る。


今ならできるはずだ。

不埒者を使って愚弄の生気を吸った今なら。

人一人でこれほどの力、かけらは町の半分しか設置できなかったが、また別の小姓を汚して送りだそう。城下全部を食えなければ意味がない。


あの不埒者、使えるかと思ったのに、たった一度の花売りで川に落ちて死んでしまった。

なんてもろい奴だ、面白くない。


3人の兵は地の巫子に浄化されたのか,気配が消えた。

手駒を増やさねば身動きが取りにくい。

だが、思った以上に生者をコントロールするには力を消耗する。


レナントの近く、かすかに、力の残渣を感じた。

簡単に探せたのは、自分との繋がりを残しているからだ。

死んでなお、強い怨みと口惜しさを残している。


ニイッと笑った。


これは、使える。


真っ暗な中に、その残渣と自分の糸を繋ぐ。

死んですでに腐ってはいるが、動かすには好都合だ。



それは、リューズが白い魔導師を作り出す時に使った触媒の生き物、ガラリアによって杖が元の木に戻され、力を失った大きなトカゲだった。

干からびて、骨と皮を残しながら、ピクリと動く。

横たわる場所の草木の生気を吸い取り、倒木にいた虫を吸収して、黒いもやを辺りに放った。

トカゲの目が虫の目に変わる。

乾燥して動かない腕を諦めて、やがてズルズルと、後ろ足だけで這い回り、森を歩き出した。


その先にある、ムールと呼ばれる大型の鹿の死体が目に留まり、ズルズルと近づいて行く。

立派な角を片方だけ生やしたムールは,すでに白骨化している。

その頭から鼻先に向けてトカゲがしがみつくと、鹿の体内から黒いもやがあふれ出した。


カタカタカタカタ……


鹿の骨が、歯を鳴らし始める。

ズルズル這うように立ち上がったはずみで、骨の中にある泥がドサドサと落ちる。

身体をブルブル震わせ、骨がカラカラと音を立てて森に響き渡った。


黒いもやが鹿の骨にまとわりつき、黒い肉のようにボコボコと盛り上がって行く。

顔に張り付いたトカゲは鼻先に顔を出して、片角の額に、シッポがもう一本の角となって硬化した。


『 巫子だ、メイスを殺せ。食らえばお前の力になるだろう 』


黒い異形の鹿が、口から黒い息を吐き出す。

息に触れた草木が枯れ、鹿は怒りの表情を浮かべて大きく口を開けた。


グオオオオオオオオ…………


地鳴りのような響きを残し、それは一度立ち上がって前足で宙をかく。

そして、レナントの方向へと一直線に駆けだした。


今まで闇落ちした妖精から力を得ていたランドレールは、人の生気の強さに目を輝かせます。

悪霊なのに、生きる力を吸い取って力を得るのは何とも不思議です。

でもそれは、王子であるだけに始末の悪いものです。

王にどうやって城の中で起こっている事を知らせるべきか、ルークは悩みます。


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