表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
赤い髪のリリス 戦いの風〜世継ぎの王子なのに赤い髪のせいで捨てられたけど、 魔導師になって仲間増やして巫子になって火の神殿再興します〜  作者: LLX
25、青の巫子の目覚め

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

277/581

家名の重責

その日、城内の兵の行き交う廊下で、一人の騎士の急ぐ姿が見えた。

前日までの悲壮な姿は薄れ、栗色の髪を振り乱してどこか鬼気迫るものがある。


急がねば、急がねば!


ただただ気持ちが急いて、その足は騎士長がずっと詰めている部屋へと向かって急いでいた。

あの不思議な占い婆様の言ったように、小川に砂金をひとつまみ入れると、探して、探して、探し求めた美しい少年の眠る顔が、川面にゆらゆらと映って消えた。


『巫子を連れて行け』


赤と白の巫子と言うなら、赤の巫子なら思い当たる。

あの、騎士長のご子息。

さらわれて騒ぎになったが、騎士長は無事だと連絡を受けたと言われていた。

まだ、正式に城には認められていないが、あの御前でのお力を見れば、間違いない。

騎士長に相談すれば……


「セリアス、どうした、血相変えて。何かあったのか?」


従兄弟のミリアムが、声をかけてきた。

彼には何度か、少年のことで相談をしたことがある。

セリアス自身、出来ればあの子を養子にしたいと思っていた。

しかし、あの子は田舎の貧しい貴族とは言っても跡取り息子だ。

どうにか出来ないかと、悩んでいたのだ。


「あの子、見つかたのか? 王子の側近、首になったんだろう?

お前とのことが、問題になったんじゃ無いのか?

だから小姓なんかに手を出すなと言ったんだ。家の名に傷が付いたらどうするんだ。

三男だからと、貴様は甘えているからこんな事になる。

妻を早くに亡くしたならば、すぐに次の女を娶れば良かろう!」


ミリアムが、しきりに彼を責めてくる。

セリアスはうつむいて、ただ頭を下げた。


「すまない、そのことは俺が悪い。何かあったら俺が責任を取って家を出る。

で、聞いてくれ、あの子見つかったんだ、それが……」


彼は見つかったことに少し心が浮き立ち、ミリアムに占い婆が言ったことを話して聞かせた。

それで今、騎士長のザレルの元へ行くことを。

ところが、ミリアムは大きく首を振って彼の襟首を掴み、廊下の端っこに移動すると声を潜めた。


「馬鹿、あの子はまだ王に、認められていないんだぞ?

しかも、宰相からは目の敵にされている、お前も知っているだろう!

騎士長の養子になったからこそ、守られているのだ。

それを、巫子として頼るだと?!冗談じゃ無い!

貴様、名誉あるエンシスアル家の名に泥を塗る気か?!」


「し、しかし、私はあの子を救いたいのだ。巫子を連れて行けと……」


「水の精と言ったな。いい、俺に任せろ。俺が良い魔導師を知っている。

魔導師の塔の長だったゲール様の元にいた水の魔導師だ。」


「魔導師であれば、シャラナ殿に相談を……」


「シャラナ殿に、見目麗しい女性に、少年と関係を持ったと言えるのか?恥知らずめ!

い……いや、言い過ぎた。

頼むから、彼女には言わんでくれ。俺はそんなことでお近付きになりたくない。

俺に任せよ!わかったな?!貴様も軽々しく家を出るなどと言うな!」


結局ミリアムに押し切られて、彼の知り合いの魔導師に頼むことになってしまった。

ミリアムの背中を見ながら、唇を噛みしめる。


「恥だと…恥だというのか。

お前は、私があの子をどれほど大切にしていたかを知らぬ。

あの子がどれほどの夢を持って騎士になりたいと私に話すか、お前は見たことが無いからだ。

一線を越えてしまったのは私に非がある。

だが、どうしても礼がしたいと、金の借りを作りたくないのだと、そう言ったあの子は真剣だった。

あの子には、それしか代償が無かったのだ。

家の恥だというなら私は……そんな家名など………」



「セリアス様!」



突然、声をかけられ顔を上げる。

思い詰める顔を見られてしまった。

浮かぶ涙を顔を背けて汗をふくような仕草でふいていると、相手の騎士がニコニコと明るく微笑んで近づいてくる。


「失礼しました。立ち聞きなどするつもりでは無かったのですが。

巫子とお聞きしてしまっては、この身勝手な耳が聞かねばならぬとピンと立ってしまうのです。」


若い騎士が、穏やかに微笑む。


「ミラン殿……」


彼は、リリスの従者として謁見に付いてきたレナントの騎士。

魔に魅入られて剣を振るったブルースに切られ、大けがをして城で養生していたのだ。

彼はリリスの行方がはっきりしないため、ザレルに城で待つように言われてそのまま本城で過ごしていた。


「私はリリス殿の従者です。リリス殿が最近ご自宅に帰っておられると聞いて、そろそろこちらをおいとましようと思っております。

私が勝手にする事でしたら、あなた様には何の御支障もございませんでしょう。

なにか、土産になる情報があれば助かるのですが。」


気を使ったその言葉に、胸が揺り動かされて息を吐く。

セリアスは、その微笑みにホッとして引きつったように微笑み返すと、思わずミランの手を取りギュッと握りしめた。


これほど家名を大切にする従兄弟の気持ちはわかります。

だから、やむなく折れてしまった彼です。

良家に生まれるという事は、生まれながらに家名を守る重責を負うのです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ